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教育版マインクラフトを用いた「未来の笹塚小学校をつくろう 最終成果発表」レポート。小学校6年生が作る,14の理想の学校
この発表会は,渋谷区立笹塚小学校で2022年10月から実施されてきた探究学習の発表会だ。「教育版マインクラフト」を用いて,「未来の笹塚小学校」を作るもので,様々な社会問題へ取り組んだ14の学校が披露されている。
教育版マインクラフトで,
小学生たちが未来の小学校を作る
2011年にリリースされた「マインクラフト」(PC / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch / iOS / Android)は,ボクセル(ドット絵のようなブロック)で構成された世界の中で,建築や戦闘,サバイバルにプログラミングなど様々な活動ができるサンドボックスゲームだ。
自由度が非常に高いことから低年齢層にも人気を博し,“創造性を育む”という理由から,教育現場でも利用されることもある。
こうしたニーズに応えて2016年から提供されているのが,今回使われた「教育版マインクラフト」。生徒と教師がひとつの世界を共有でき,教師専用の管理モードや専用のプログラミング環境「Code Builder for Minecraft: Education Edition」といった,通常版に存在しない教育用システムにアクセスできるのが特徴で,Microsoftの教育ライセンスが導入されていれば無料で使うことが可能だ。
渋谷区立笹塚小学校では,GMOインターネットグループの支援のもと,「教育版マインクラフト」を用いた実験授業「未来の笹塚小学校をつくろう〜より多くの人が幸せな社会を目指して〜」が進められてきた。
この取り組みは,渋谷に拠点があるGMOインターネットグループ,東急,サイバーエージェント,ディー・エヌ・エー,MIXIの5社が渋谷区教育委員会と連携し,渋谷区立の小中学校におけるプログラミング教育を支援する「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」の一環として行われたもの。
小学校6年生を対象に,2022年10月から2023年2月にかけて11回の授業が行われ,児童たちが考える“未来の笹塚小学校”が,「教育版マインクラフト」の世界に構築された。
なお制作に当たっては,GMOインターネットのスタッフが指導。プロジェクト管理の考え方を導入しており,ひとつの学校を複数人の生徒が分担して作っていく手法が採られている。
マインクラフトにおける建築と聞くと,ブロックを1個ずつ積み上げていく通常プレイにおける手順が想起される。しかし今回の取り組みでは,前述したプログラミング環境が用いられており,床を敷き詰めたり大きな柱を立てたりといった大規模建築も一瞬で行えるという。
ある班ではマルチプレイが上手くいかなかったため,生徒個人個人のワールドで学校のパーツを分担して作っていき,最終的にパーツをコピーしつつ組み合わせていくことで完成させるといった苦労もあったのだそうだ。
今回の発表会は,その成果を発表する場であり,14班65名の児童が,さまざまな形の未来の笹塚小学校を披露した。
会の冒頭では,渋谷区教育委員会・教育長の五十嵐俊子氏が,「先生から教えられたことをやると同時に,自分たちで問いを見つけて解決,提言するという意味で,子供ではなく立派な大人,地球人としての立派な学び。教育版マインクラフトで発表するというのは渋谷では初めての例で,私たちも参考にしながら,未来の学校作りに活かしていきたい」と今回の取り組みにおける意義を語った。
渋谷区教育委員会・教育長の五十嵐俊子氏 |
環境問題やLGBTQなど,現代社会が抱える問題と向き合いながら理想の小学校を作る
小学生たちが作った14の「未来の笹塚小学校」は,環境問題やLGBTQなど,現代社会が抱える問題と向き合いながら,自分たちにとって理想となる小学校を作り上げている。ここでは,当日の発表順に紹介していこう。
生徒への指導を行った,GMOインターネットグループ システム統括本部アプリケーション開発本部 ホスティング・クラウド開発部の成瀬允宣氏。この日は発表会の司会も務めた。生徒たちは発表に対してTeamsでコメントや質問を行うことができ,成瀬氏はその反応も拾っていった。YouTubeの動画番組で使われる手法が発表会でも活用されているのが面白い |
●7班:「地域の人々と交流し,国際的な問題にも取り組む学校」
世界にある様々な問題から「自然保護」「環境問題」「難民保護」をピックアップ。「地域の人々と交流し,国際的な問題にも取り組む学校」をテーマとした。
人種性別関係なく使えるプールを開放して,地域の人々と交流。難民を受け入れる施設や,色々な国の本を置いた図書館で難民保護にも取り組む。絶滅危惧種を保護するセンターや動物園を設け,屋上のソーラーパネルで発電を行う。
●5班:「地域の人と環境とともにある学校」
学校給食に用いられた33%の食材が廃棄されていることから「学校は大量の資源を無駄にしている」と実感し,「地域の人と環境とともにある学校」を構想。学校の施設で生ゴミを肥料にして業者に送って有効活用する。
発電に用いられる燃料は有限の資源であるため,屋上を風力発電や太陽光発電に利用し,消費電力の一部を賄う。
「一つの学校だけでこうした取り組みをしても大きな改善はないが,どこかがやらないと始まらない。ここからの最初の一歩が世界に広がっていけばいい」とのシビアな現状認識も。
●2班:「子供たちだけでなく,地域の人も気軽に使える学校」
地域住民が利用できるスペースを作れば,地域交流も促進されて学校が賑やかになり,未就学児が入学する際も安心できるのではないかということで,「子供たちだけでなく,地域の人も気軽に使える学校」に。
屋上には誰もが使えるベンチを置き,プールはサウナ付きとして放課後に開放している。教室は廊下側の壁を無くすことで圧迫感を軽減,保護者や大人が授業風景を見学できるようにする。また,黒板代わりにプロジェクションマッピングを用いている。
●11班:「多様性の尊重を重視しSDGsが達成できるような学校」
SDGs(持続可能な開発目標。世界の課題を環境に配慮しつつ解決していくという目標)と多様性の尊重がテーマ。「今の日本は多様性の尊重ができてなさすぎる」「日本が達成できていない目標を少しでも校内で達成したい」ということで,校舎内には様々な人と交流・対話できる大テーブルや,多様な年代の人々が楽しめる大図書館を設置し,屋上はソーラーパネルと温室で環境問題に取り組む。
●3班:「みんなが楽しく学べて,個性を最大限に活かせるように育てる学校」
現在の日本では授業の満足度が低いため,楽しく学べることと個性を重視。笹塚小の生徒が校外学習で訪れた国会議事堂をモチーフとした建物を建てると同時に社会科見学を増やす。
スポーツに触れる機会を増やすため,体育館には様々な競技の用具と,生徒がノウハウを書き込んで共有できる「コツノート」を準備。仕切り付きの自主学習スペースや,各教科に特化した専用教室を設け,壁には単元ごとのまとめを参照できるQRコードを掲示する。
また,受ける授業を自分で選択できる日を作る。「自分たちは学校に不満を感じていることが多い。未来の子供たちには,明日学校に行きたいと感じて欲しいと思って作った」とのコメントもあった。
●9班:「災害に強く市民が使える学校」
東日本大震災で学校に大きな被害が出ていることを踏まえ,災害対策と地域住民が利用しやすい学校がテーマとなった。プールと運動場は地域住民も利用可能とし,体育館には利用者が歩いた圧力による床発電を採用。これに加え,災害用トイレを充実させ,ソーラーパネルを設置するなど,防災拠点的な側面も強い。
●6班:「地域の人と協力し助け合える学校」
学校での暮らしにくさを改善することで,子どもたちが学校に向き合えるようにし,地域住民との連携も強めていく。学校の壁が白いことを利用し,壁面を巨大なスクリーンに。平日は学校の予定を表示し,忘れ物を防止することで校内でのQOLを向上させ,休日は映画や動画を流して学校の知名度アップを計る。
「これまでは,米を栽培して終わり」だった学校での農業を拡充,収穫物を地域の商店に卸し,その利益で自販機やプロジェクター購入といった“子供の夢”を実現することで,学校での新たな楽しみとする。
●13班:「自然や生き物に優しくて楽しい学校」
環境問題に配慮し,人間と動物が平等に暮らせる学校がテーマ。日本固有種であるニホンノウサギが飼われるリフレッシュルームや,エアコンなしでも涼しく過ごせる緑のカーテン,魚を飼う池などが設置される。
こうした施設には「数が少なくなった生き物を増やし,絶滅の可能性を減らしたい」という願いが込められている。
●1班:「一人一人の個性が輝いていてお互いを高めあえる学校」
“多様な個性を持つ人々が,お互いを高め合えるような学校”として志向されたのは,多数の障がい者が被害に遭った相模原障害者施設殺傷事件がきっかけ。
「誰でもトイレ」はLGBTQに配慮することで,男子トイレ=青,女子トイレ=赤という固定観念を廃し,誰でも入りやすいような緑色の旗を掲げる。
また,「アレルギー自販機」は現金でなく利用数とアレルギー情報が管理された生徒用カードを用い,アレルゲンのある品は買えないようになっている。会議室にはプロジェクターを用意。生徒や教師,保護者だけでなく,地域住民も利用可能だ。
●10班:「地域の人と協力してお互いに学び合える学校」
互いの意見を尊重し,助け合う「相互協力」がキーワード。障がい者でも健常者でも楽しめるスポーツができる体育館と,お互いの知識を交換し合う自習室を持つ。
農場で採れた作物を地域に分け,さらには非常食としてストックしつつ,さらなる改良に向けて地元農家と意見交換を行う。また,皆の意見を尊重する形で大規模イベントを開催する。
●8班:「地域の交流が深く自然あふれる学校」
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で学校でのイベントが減少。自分たちにもコミュニケーション能力が発達していないという自覚があることから,地域との交流や自然保護を掲げる。
交流を行える大きなイベント会場では,大モニターに加えてホログラムを用意し,遠隔参加も可能に。イベント終了後は広いエントランスでさらに交流を深める。そして,屋上には広い公園も設置し,動物たちが出入りできるようにしている。
●14班:「環境にやさしく多様性を認め合う学校」
地球温暖化の進行を抑制するのに加え,障がい者にとっても暮らしやすい場所を目指す。教室には緑のカーテンを設置し,廊下には障がい者に向けて点字ブロックやスロープを設置するが,健常者のことも考えて収納式になっている。
異なる言語を持つ人どうしで交流できるよう,床からは自動翻訳機がせり出す。また,LGBTQに向けて「だれでもトイレ」を設置した。
●4班:「子供が自由に幅広い教育を受けられる学校」
日本の人口密度は高く,笹塚小は狭すぎる。また,日本国民も自由を感じている度合いが低い。自由な教育を進めるアメリカの事例を参考にしつつ,生徒自身による選択も追及された。
開放的なプールを設置し,食堂では自由に選べるメニューで食品ロスの対策も。ともに食事する相手,食べる場所を自由に選べる制度で生徒のストレス減少を図る。首都圏は自由に使える土地が狭いということで,地下に教室を作った。
●12班:「緑豊かで様々な個性を大切にする学校」
地球温暖化による環境破壊や,LGBTQなど多様な個性に対応していく。学校に畑を作り,作物は給食への利用や寄付,肥料化などを行う。
ジェンダーの平等に向け,当初はLGBTQ向けのトイレを考えたが,区別するとかえって使いにくいのではないかということになり,誰でも使える個室のみの「ジェンダー平等トイレ」が作られた。
また,教室には積極的に緑を取り入れ,水道は手をかざすと水が出るセンサー式とし,水の止めわすれを防ぎ,手が不自由な人に対応している。
発表会の最後には,渋谷区教育委員会・指導主事の柳田 俊氏が,「発表に感動し,ワクワクしました。皆さんは0から1を生み出すことを行い,新しい学びを開拓しました。未来の作り手は,ここにいる皆さんや私たち全員。いただいた提案を参考に,未来の学校を作っていきます」と語り,締めくくった。
14の学校は,夢あり,社会問題への真摯な取り組みありとバラエティ豊かであった。生徒らが考える理想の学校と,そのビジョンを教育版マインクラフトが仮想空間に実現したという趣だ。
生徒の発言やアイデアの中には,今の学校に対する不満や強い要望が垣間見えるものもあり,読者諸兄もドキリとさせられたのではないだろうかと思う。
また,単なる夢物語や遊び場のような楽しさを追求するのではなく,教育の場としての学校を改良する視線がシッカリしていたのも印象的だった。
皆で話し合いつつ,様々な課題に取り組んだ体験は,これからの人生でもきっと役に立つはずだろう。今回の取り組みに参加した生徒たちの成長が楽しみに感じられた発表会だった。
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