レビュー
Mac Pro風の小型“ゴミ箱”筐体にSLIシステムを組み込んだデスクトップPC
MSI Vortex G65 6QD SLI
ちょっと奇抜なゴミ箱といった感じの,小さな円筒風筐体に,2基のデスクトップPC向けGeForceを搭載し,2-way SLIで駆動させるという,アグレッシブなハードウェア構成が特徴だが,4Gamerでは2モデル展開の下位モデルとなる「Vortex G65 6QD SLI」(型番:Vortex G65 6QD-001JP)を入手できたので,構造面を中心にレポートしたいと思う。
外観とサイズは文句なしにユニーク。ユーザーインタフェースは若干ながらデザインの犠牲に
表は,そんなVortex G65 6QD SLIの主なスペックだ。GPUのほかにPCI Express Gen.3×4レーン接続のNVM Express対応SSD 2基をRAID 0で構成した,MSIが「SuperRaid 4」と呼ぶストレージアレイを起動用として採用している点が目立つところだが,それ以外は,現行のゲーマー向けデスクトップPCとしては標準的と言っていい。
完全な円筒形ではないので,おおまかな実測になるが,本体サイズは約192(W)×204(D)×280(H)mmである。高さ30cm弱,直径20cm程度の円筒を思い浮かべてもらえば,サイズはイメージできるだろう。
MSIは本体容積6.5リットルと謳っているが,いずれにせよ,2-way SLIに対応したシステムとしては,文句なしに小型のデスクトップPCだ。
正面の装備は極めてシンプルで,操作できるのは上部やや右寄りにある電源ボタンのみだ。電源が入ると,このボタンと,稲妻のように走るライン部,そして本体背面にある竜のイラスト部に埋め込まれた赤色LEDが,ゆるやかに明滅するようになっている。
先ほど示した写真で,本体が台座のようなもので設置面から浮いていることが見て取れたと思うが,Vortexシリーズは(Mac Proと同じく)底面吸気,上面排気仕様で,底からエアを取り込むため,机上と本体の間に隙間が設けてある。ちょうど煙突のようなエアフローで,暖められ軽くなったエアが上に向かうという,理にかなった設計である。
真下から見るとこんな感じ。台座のようなもので浮いた底面がメッシュパネルになっていて,ここからエアを取り込む仕掛けである |
上面も大部分がメッシュパネルで,ここから排気を行うようになっている。煙突のようなエアフローをイメージするといい |
インタフェースはすべて背面側。サウンド入出力も背面のみというのは,最近では珍しいかもしれない |
少し奥まったところにACインレットがある。ACインレットは本体底面中央付近なので,若干挿しづらいが,脱落しづらい利点もある |
ただ,そうであれば,せめて2基程度のUSBポートは本体前面側に欲しかった。マウスやキーボード,あるいはUSBフラッシュメモリなどを接続するだけでも背面側に手を回さねばならないというのはけっこう面倒である。
また,実際に運用してみると,DisplayPort端子がMiniのみというのも少々残念だ。VortexシリーズのようなPCを購入するような層なら,4Kディスプレイや,NVIDIA独自のディスプレイ同期技術「G-SYNC」に対応したディスプレイを選ぶという人も少なくないと思うが,そういうディスプレイ側の入力端子は十中八九標準のDisplayPort端子なので,まず間違いなくMini→標準変換のDisplayPortアダプター(かケーブル)が必要になってしまうのだ。
プリインストールのアプリケーションはそのほか,ゲームの録画や配信を行う「Xsplit Gamecaster」や,バーチャルサラウンドサウンド出力やマイクのノイズリダクションなどを利用できる,サウンド関係の統合ソフトウェアスイート「Nahimic Sound Software」など。Xsplit Gamecasterは1年間の「Premium」ライセンス付きだ。
また,MSI製のゲーマー向けノートPC製品では定番となっているが,CPUクロックの制御方法を3段階で変える「Shift Mode」もサポートされていた。Vortex G65 6QD SLIではもっともアグレッシブにCPUクロックを向上させる「Sport」モードがデフォルトだが,静音性や省電力を優先する「Comfort」モード,「Green」モードに切り替えることもできる。なお,今回のテストにあたっては,Sportモードを利用しているが,これは,システムチューナーが,テスト終了後のアップデートで追加されたためだ。
なお,MSI製のGPUオーバークロックツール「Afterburner」は付属メディアにバンドルされていたが,プリインストールはされていなかった。GPUのオーバークロックについては自己責任でどうぞ,ということなのだろう。
緻密に構築された内部構造を持つVortexだが,ストレージ換装周りの仕様には疑問も
4Gamerではこれまで,MSI製のゲーマー向けノートPCを取り上げるごとに「マザーボードやグラフィックスカードで自作系のファンを多く抱えるMSIの製品にもかかわらず,ユーザー側でメモリモジュールやストレージの交換を行っただけでメーカー保証が失われるのはいかがなものか」という話を繰り返してきた。その点,Vortexシリーズでは,メーカー保証の範囲内で,メモリモジュールとストレージの交換を行えるようになっているのだ。
筐体を開けるにはT8のヘクスローブ(トルクス)ドライバーが必要で,“カジュアルな分解”に対してはこれがハードルなるが,本体背面にあるトルクスビスに封止シールはなく,これを取り外すことにより,ユーザーは,メーカー保証が切れる心配をすることなく,内部へアクセスできるようになっている。
入手した個体だと,SO-DIMMスロットにはSK Hynix製で容量8GBのPC4-17000モジュールが2枚差さっているので,残る2スロットに対してメモリモジュールを追加できるわけである。
右側でアクセスできるのは,M.2(type2280)のSSDスロット1基だ。前述のとおり,Vortex G65 6QD SLIは,容量128GBのSSDを2つ使って容量256GBのRAID 0アレイをSuperRaid 4として構成しているのだが,アクセスできるのはSSD 1枚だけなので,SSDを交換するときは,事実上,RAIDアレイを解除するということになるはずである。せっかく換装できる仕様なのに,これはちょっとどうかと思う。
さて,ここからは「真似をするとメーカー保証が切れる」範囲の話になる。4Gamer,そして筆者としては,レビュー記事という立場から分解を進めるが,本稿の内容を参考に分解を行う場合は,くれぐれも自己責任でお願いしたい。
というわけで,まずは分厚い天板部を取り外してみる。
すでに述べたとおり,Vortex G65 6QD SLIは底面吸気&上面排気仕様なのだが,それがゆえに,天板部のすぐ下には,大型のブロワーファンがある。
外した状態で中を除くと内部構造が見えてくるのだが,まさにヒートシンクの塊といった感じだ。上から見て中央に電源ユニットがあり,手前側の2つがGPU冷却用,奥(=本体背面側)が見える黒いユニットが電源ユニット,手前2つの大型ヒートシンクがGPU冷却用,奥側(本体背面に当たる側)に見える大型のヒートシンクはCPU用となる。
また,本体底面側に,チップセットの載った基板があるのも見て取れよう。Vortex G65 6QD SLIにおいて,いわゆるマザーボードの機能は,CPUの載った基板と,この底面基板で実現しているという理解でよさそうだ。
一方,電源を挟んでくの字型に並んでいる基板体前面には,Mini PCI Express x16スロットの載った基板があり,そこにGTX 960のMXM(Mobile PCI Express Module)が差さっている。常識的に考えて,上位モデルであるVortex G65 6QF SLIにはGTX 980のMXMが差さっているのだろう。次世代GPUが登場したときにも換装しやすい設計と言える。
今回はMXM自体も取り外してみたが,MXMに載るGPU上の刻印は「N16E-GT-A1」なので,素直に解釈するならノートPC向けの「GeForce GTX 970M」(以下,GTX 970M)ということになる。
GTX 970Mは「GM204」ベースで10基の演算ユニット(=1280基のシェーダプロセッサ),192bitメモリインタフェースを統合するプロセッサだ。本来,デスクトップPC向けのGTX 960だと「GM206」ベースで8基の演算ユニット(=1024基のシェーダプロセッサ),128bitメモリインタフェースを統合するので,もうなんというか「全然GTX 960じゃない」のだが,スペック的にはGTX 970Mのほうが上なので,ユーザーとして大きな問題はないように思う。
主要なコンポーネントの構造は以上のとおりだが,直径約20センチの円筒にハイクラスのプロセッサを3基詰め込んだ根幹部分はとてもよくできていて,かつ,製造には相応に手間がかかる印象だ。システムビルダーの採用するODMメーカーが,一朝一夕に真似できるようなものではなく,この点はVortexシリーズの持つ大きな強みということになるだろう。
ゲームはどれだけ動くのか。テストをセットアップ
ここからは性能を見ていきたいと思うが,Vortex G65 6QD SLIが搭載するGPUはGTX 960とされる事実上のGTX 970Mだ。いくら2基搭載するといっても,ゲーマー向けPCとして突出した性能を期待できる構成ではない。
なので,今回は比較対象機を用意せず,Vortex G65 6QD SLIが3Dゲームでどの程度の性能が期待できるのか十分な目安となるデータを取るに留めることにした。最新世代の3Dゲームタイトルをどの程度楽しめるか,ざっくりと調べようというわけである。
長々とした分析や論評を加えることなく,ベンチマークの結果と目安を語っていくことにしたいと思う。
パフォーマンスの検証に使用したのは,ベンチマークレギュレーション17.0から,「3DMark」「Far Cry 4」の2タイトルと,「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド」公式ベンチマークソフト(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)。それに,次期レギュレーションとなる18世代で採用予定の「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)および「Fallout 4」「Project CARS」も追加した。
いま挙げた3タイトルは,ベンチマークレギュレーション18.0におけるテスト方法がほぼ固まっているため,それに準じてテストを行っている。具体的なテスト方法はベンチマークの考察と合わせて個別に説明したい。
本来であれば2560
なお,当然ながら,フレームレートに影響を与えてしまうG-SYNCはテストにあたって無効化している。用いるグラフィックスドライバは,テスト開始時点の公式最新版となる「GeForce 364.72 Driver」だ。
主要なタイトルを高画質の設定でフルHD解像度で楽しめる程度の性能を持つVortex G65 6QD SLI
前述のとおり,Vortex G65 6QD SLIが搭載する2基のGPUはGTX 960とされる事実上のGTX 970Mなので,GTX 960とは異なる傾向のスコアが出る可能性が高い。とくに,メモリインタフェースがGTX 960の128bitに対してGTX 970Mでは192bitあるので,とくに高負荷環境におけるスコアはGTX 960の2-way SLI構成と比べて高くなる可能性が高い。
それを踏まえてテスト結果を順に見ていこう。グラフ1は3DMark(Version 2.0.2067)の結果をまとめたものだ。4Gamerでは2015年2月28日掲載の記事でGTX 960の2-way SLIテスト結果をお伝えしている。当時とはシステムもドライバソフトウェアも3DMarkのバージョンも異なるので,直接の比較にはまったく適さないのだが,それでも,当時のFire Strike Ultraスコアである1504と比較すると,今回の3167という総合スコアに,メモリインタフェースが大きく影響している気配は感じられよう。
グラフ2はFar Cry 4のテスト結果をまとめたものだ。
ベンチマークレギュレーション17.0が規定する合格ラインは,最低限が平均40fps,欲を言えば平均60fpsだが,描画負荷の低いMEDIUMでは,3840
続くARKでは,シングルプレイでスタートして,移動開始の座標と時間を固定した状態からGodモード(=無敵モード)を使って一定の方角に1分間歩き続け,その平均フレームレートをFrapsで計測する形をとる。2回計測して,その平均をスコアとして採用する流れである。
グラフィックス設定のプリセットは,「Low」と「High」の2パターン。平均フレームレート55fps以上が合格点というのが,レギュレーション18世代における指標となる。
……と,何ごともないかのように紹介したが,DirectX 11モードで動作するARKは現在のところ,マルチGPU動作をサポートしていない(関連リンク)。そのため,今回のテスト条件でプレイアブルなフレームレートを得られるのはLowプリセットの1920
Fallout 4では,「Shadow of Steel」というクエストで「ブラザーフッド・オブ・スティール」(BoS)の武装ヘリ「ベルチバード」に乗って移動シーンのフレームレートを,「Fraps」(Version 3.5.99)から1分間計測する。このシーンは,プレイヤーの操作が必要がなく,会敵もないためフレームレートのブレが起こりにくく,しかも描画負荷はそこそこ高い。このシーンのフレームレートを2回計測して平均値をスコアとして採用する。
画質のプリセットは標準設定にあたる「中」と,高負荷設定に相当する「ウルトラ」を用いた。
スコアの目安は,ひとまずの目標が平均40fps,快適さを求めるなら平均60fpsということになるが,Vortex G65 6QD SLIは,ここでも「中」なら3840
グラフ5はレギュレーション17.0準拠の蒼天のイシュガルドの結果となるが,ここでは「最高品質」の1920
3Dベンチマーク最後となるProject CARSでは,「Hockenheim GP」を「RWD P30 LMP1」で実際にレースへ参加したときのリプレイデータを再生し,そのフレームレートをFrapsを使って1分計測したうえで,2回の平均をスコアとして採用する。
Project CARSでは「グラフィックス設定のプリセット」が存在しないため,下に示した,ゲームをインストールした直後の「PERFORMANCE」設定項目を「初期設定」,また,画質を大きく左右する9項目を最も高く指定した状態を「高負荷設定」とするので,この点はご注意を。
事前検証で平均40fpsがあればプレイアブルだと判断できることを確認しているが,グラフ6を見ると,描画負荷の低い初期設定では3840
以上,3Dベンチマーク結果をざっくりまとめると,Vortex G65 6QD SLIは,1920
消費電力もまずまず優秀。動作音も低い
最後に消費電力を調べた結果も掲載しておこう。いつものように,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」で,システム全体の消費電力を計測してみた。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,ディスプレイの電源がオフにならないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とする。
結果はグラフ7のとおりだ。最大の消費電力を記録したのはFar Cry 4実行時で,236Wだった。457Wの電源ユニットの容量から考えると,余裕しゃくしゃくという感じである。ゲーム実行時のピーク消費電力が最大でも200W台前半というのは,ハイクラス〜ハイエンド級のデスクトップPCとしては魅力的な値だ。
ARKでやたらと消費電力が低いのは,SLIが正常に機能していないからで,これは独立系タイトルを前にしたマルチGPU構成の宿命といったところか。
また,この消費電力からも推測できると思うが,ゲーム実行時の発熱や騒音も極めて低い。MSIによると騒音レベルはアイドル時に22dBA,高負荷時にも最大37dBA程度だそうだが,実際,ゲームを実行していても気になるような騒音が出ないのには感心させられた。
ユニークなスタイルのPCが発売されるのは歓迎だが,本命はPascal世代か
また,GTX 970Mを2基搭載してBTO標準構成価格が32万9800円(税込)からというのは,次世代GPU「Pascal」(開発コードネーム)の足音が遠くに聞こえ始めたタイミングとしては,やはり厳しいという印象もある。付け加えるなら,上位製品となるVortex G65 6QF SLIの場合,ノートPC向けと思われるGTX 980を2基搭載してBTO標準構成は49万9800円(税込)だ。
その意味で現行のVortexは,「デスクトップPC向けよりも単価の高いノートPC向けGPUを,一般的なデスクトップPCよりも圧倒的に小さな筐体に搭載してきた」というこの一点に価値を見出せる人向けということになるだろう。
ただこれは,「Vortexシリーズの市場投入により,Pascal世代で,これまでにないデザインの小型&ハイスペックゲームPCを市場投入するための準備を,MSIがほぼ完了した」ことと同義でもある。(細かい動作検証を抜きにすれば)MXMをPascalベースのものに置き換えるだけで,MSIはPascal世代のVortexを投入できるからだ。おそらくMSIとしても,“主戦場”はPascal世代と考えているのではなかろうか。
Pascal世代でどんな仕様のVortexが出てくるのか,今から楽しみである。
MSIのVortex製品情報ページ
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