連載
シリーズ最大の強敵が出現! 「放課後ライトノベル」第135回は『デート・ア・ライブ』で百合っ子をデレさせろ
我が身を振り返ると,男子小学生というのは実にしょうもない。男子と女子が2人でいるだけで,からかわずにはいられないものである。たまたま家の方向が同じで,並んで歩いているだけで「やーい,デート,デート!」とはやしたてたり。とはいえ,今はケータイもあるし,そんなシチュエーションもなくなってしまったんでしょうか。
からかわれたのをきっかけに,互いに意識するようになって,とか,若いうちにそんな甘酸っぱい経験をしておいたほうがいい……のだが,筆者にも別にそんな経験は(今も昔も)なかった。な,なあに,ケータイがあれば僕も彼女の一人くらい簡単に作れるさ! ちゃりーん(課金した音)。
そんな筆者が今回,現在進行形の悲しい思い出を涙と共にぬぐい去りつつ紹介するのは,本連載の第18回で紹介した『蒼穹のカルマ』の橘公司が手がける『デート・ア・ライブ』。この春からTVアニメの放映が始まり,6月にはゲームの発売も予定されている,まさに旬の作品だ。アニメ放映開始直前のこのタイミングで,予習がてらに手に取ってみてはいかがだろうか。
『デート・ア・ライブ7 美九トゥルース』 著者:橘公司 イラストレーター:つなこ 出版社/レーベル:富士見書房/富士見ファンタジア文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-8291-3871-7-C0193 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●生きたければデレさせろ。命懸けのデートが今,始まる
原因は不明,発生時期も不明,被害規模も不確定。何の前触れもなく爆発と振動,消失が起こり,あとには何もない荒廃した空間だけが残される。のちに空間の地震――空間震と呼ばれるようになったこの現象は,最初の観測から半年で億を超える人々の命を奪った。それから30年が経過し,空間震の予兆を観測する手段の確立や,シェルターの整備が進んだ今も,その脅威はいまだ人々の生活を脅かし続けていた。
都立来禅高校に通う2年生,五河士道(いつかしどう)はある日,シェルターから逃げ遅れた妹の琴里(ことり)を探して学校を飛び出したところで,空間震の発生現場に遭遇する。辛くも難を逃れた士道が見たのは,震源地に立つ一人の少女の姿だった。
混乱の中,意識を失う士道。やがて目覚めた士道の前に現れた琴里は,彼に空間震の真実を告げる。異世界には,我々の住む世界には存在しない「精霊」と呼ばれる存在がおり,その精霊がこの世界に現界する際に生じる余波こそが空間震なのだと。震源地で士道が見た少女こそ,まさにその精霊。そして空間震による被害を食い止めるべく組織された組織が〈ラタトスク〉であり,琴里はその司令官だったのだ。
空間震の発生を止める方法は2つ。1つは,武力をもって精霊を殲滅すること。だが,精霊の力は強大であり,その達成は極めて困難だ。そこで〈ラタトスク〉は,もう1つの手段を選んだ。その方法とは――「デートして,デレさせること」。
実は士道には,「精霊とキスをすると,相手の能力を封印することができる」という,自身も知らなかった特性があった。だがその特性が発揮されるには,単にキスをすればいいというものではなく,相手が自分に心を開いている必要がある。かくして士道は精霊たちを「落とす」ために,命懸けのデートに臨むことになる――。
●知恵と力の限りを尽くし,精霊を攻略せよ!
世界を救うためにデートする,と書くとなんだか妙に牧歌的だが,相手は世界を滅ぼすほどの力を持つ精霊であり,デートに誘うのもひと苦労。たとえば1巻で士道が初めて出会う精霊・十香(とおか)は,何度も人間に攻撃されてきた経験から「人間=敵」と考えており,話をするだけでも決死の覚悟を強いられる。彼女以外の精霊も,それぞれに事情を抱えており,士道が彼女たちをいかなる手段で「攻略」していくかが,本作第一の見どころだ。
しかも士道たちが戦うべき相手はそれだけではない。作中では,精霊を殲滅することで平和を守ろうとする陸上自衛隊の特殊部隊・ASTなど,〈ラタトスク〉以外にも精霊を狙う勢力が登場し,彼らが精霊と接触したが最後,そこは天が裂け地が砕けるような壮絶な戦場と化す。戦い自体のすさまじさもさることながら,そんな激戦の中,士道がいかに精霊とのデートにこぎつけるかという緊迫感,これが実に手に汗握る。
とまあ,ここまではハードな部分を中心に紹介してきたが,士道に精霊をデレさせるため,わざわざ恋愛シミュレーションゲーム(タイトルは「恋してマイ・リトル・シドー」)を作って訓練させるなど,「本当にこいつらに平和を任せていいのだろうか……」と思える場面も少なくない。士道と精霊が接触した際には,どういう行動をとるべきかAIによって選択肢が出され,それを〈ラタトスク〉のメンバーたちが真剣に(?)検討する。実にシュールな光景だ。そんな周囲の暴走の一番の被害者は,やはりというべきか常に士道。対精霊の最大のキーパーソンであるはずなのに,その扱いの軽さといったら……。
そうした逆境にもめげず,一人,また一人と精霊の力を封印していく士道。次に彼が落とすべき精霊は,〈ディーヴァ〉のコードネームで呼ばれる誘宵美九(いざよいみく)。精霊でありながら,美しい声と高い歌唱力で絶大な人気を誇るアイドルとして活躍中の少女だ。……なんだか似たようなミクさんがほかにもいる気がするが,それはさておき士道はいつものように彼女との接触を図る。
目の前に現れた士道の姿を見て,美九は――
「なに喋りかけてるんですかぁ? やめてくださいよ気持ち悪いですねぇ。声を発さないでくださいよぉ。唾液を飛ばさないでください。息をしないでください。あなたがいるだけで周囲の大気が汚染されてるのがわからないんですかぁ?」
●士道VSシリーズ最大の強敵・百合っ子! 勝負の結末は!?
周囲の完璧なサポートのもと,士道のいとこ・士織(しおり)として再び美九にアプローチする士道。作戦は成功し,徐々に美九の好感度を高めていく士道だったが,土壇場で正体が露見してしまう。逆上した美九は,自身の能力で周囲の人間や,士道が力を封印した精霊までも従え,士道を追い詰めようとする。さらに混乱の中,十香が精霊の力を狙うDEM社にさらわれてしまう。絶体絶命の士道を救ったのは,かつて一度敵対した精霊・時崎狂三(ときさきくるみ)だった――というのが6巻「美九リリィ」までのお話。
その続きとなる「美九トゥルース」で,士道は狂三の力を借りつつ美九を説得し,十香を救い出そうとする。これまでに登場したすべての精霊をはじめ,レギュラーメンバーが総出演するシリーズ史上最大の激戦が展開する中,士道は自身の危険も顧みず,十香が捕らわれたDEM社の社屋を目指す。
士道の士道らしい部分は,こうした状況であっても美九のことを決して忘れてはいないということ。美九はもともと男嫌いだったわけではなく,そうなるに足るだけの理由があった。十香と美九,形は違えど共に苦難の中にある少女たちを前に,どちらかを選ぶのではなく,どちらも救おうとする――それが,五河士道という人間なのだ。士道さん,あんた男や……! 惚れてまうやろー!
思わずタイトルを「五河ローズ」とかに変えてしまいたくなるが,本筋以外にも十香の身に異変が起きたり,いかにもな黒幕オーラを醸し出すDEM社のお偉いさんとの邂逅があったりと,シリーズ的な見どころも多い。個人的には,ASTのエース・鳶一折紙(とびいちおりがみ)の今後が気になる。士道の恋人(自称)である彼女の,士道へのストーキング……もとい求愛は相変わらず斬れ味高いが,本職のほうではここ数巻苦戦が続いており,巻き返しに期待したいところ。ちなみにこれまでに登場した精霊は,例外なく名字か名前に数字が入っており,その意味でも彼女の動向は気になるところだ。
事実だけを見れば,士道は次々と美少女を落としていくうらやま……ナンパヤローなのだが,その苦労たるや,肩にポンと手を置いて「がんばれ!」と笑顔で親指をおっ立てたくなるレベル。現実の恋愛も決してたやすいものではないと聞くが,精霊に比べれば安全なのは間違いないわけで,読者諸兄もぜひ,士道を参考に現実の女性を落として――無理? ですよねー。
■命がけのデートをしなくても分かる,百合ライトノベル
『デート・ア・ライブ』6,7巻のゲストヒロインである美九は,すでにお分かりのとおりいわゆる百合っ子。著者の前作『蒼穹のカルマ』も,姪を溺愛する叔母が主人公であり,百合ものとしても読める作品だった。数年前にブームを起こした『マリア様がみてる』以外にも,百合要素を含んだライトノベルというのは探せば意外と見つかるもの。今回のコラムは,その中からいくつかをご紹介しよう。
『アイドライジング!』(著者:広沢サカキ,イラスト:CUTEG/電撃文庫)
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最近のアイドルは,坊主頭にしたり学校存続のために頑張ったりとなにかと大変なようだが,『アイドライジング!』のアイドルはガチで戦うのがお仕事。企業が技術の粋を集めて作ったバトルドレスをアピールするため,彼女たちは1対1のバトル「アイドライジング」に臨む。「アイドルでプロレスをやってみた」という雰囲気の同作には,アイドル同士のぶつかり合いや友情,スキンシップが満載だ。
『ニーナとうさぎと魔法の戦車』(著:兎月竜之介/スーパーダッシュ文庫)は,戦争の影響で自律行動をとるようになった野良戦車が,人々の平穏を脅かす世界が舞台。放浪少女のニーナが,野良戦車から街を守る戦車隊の一つ,女性ばかりで組織された「首なしラビッツ」の面々と出会い,その一員となってがんばるお話だ。戦争による傷が癒えきっていない時代が舞台で,戦死者も出るなど展開は思いのほかハードだが,だからこそ隊員同士の固く強い(そして時にかしましい)絆が生きる物語となっている。
最後に紹介するのは,『ベン・トー』のアサウラが過去に手掛けた『バニラ A sweet partner』(スーパーダッシュ文庫)。銃の所持が合法化された近未来を舞台にした,2人の少女狙撃手の逃亡劇だ。自由を求めて逃走を続ける少女たちの姿は胸にぐっとくるものがあり,パッケージも非常に印象的。6年前の作品であり,現在では少々手に入りにくいが,どこかで見かけたらぜひ手に取ってみてほしい名作だ。
これらはほんの一部であり,百合ライトノベルはこのほかにもたくさんある。そうした作品を重点的に収集しているファンもいるので,興味がある人は「百合 ライトノベル」あたりで検索してみてほしい。
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- 関連タイトル:
デート・ア・ライブ 凜祢ユートピア
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