連載
全校の女子420人に告白する地獄の“全告ツアー”が開幕! 「放課後ライトノベル」第128回は『四百二十連敗ガール』でベストヒロインを探します
来週は自分でブラックサンダーでも買って寂しさを紛らわそうと考えている良い子のみんな,こんにちは! 「放課後ライトノベル」の時間だよ!
まあ,この時期はこれといったイベントもないし,別に書くこともないな。だってオラは日本人だから……。甘いものって言ったら,まんじゅうぐらいしか知らないから……。
こんな時は昔の偉い人の言葉にもあるように,甘いものがないなら,甘いラブコメを読めばいいじゃないというわけで,今回は第14回えんため大賞の大賞受賞作『四百二十連敗ガール』をご紹介。女の子の表紙に,舞台は美少女ばかりが集まる聖シンデレラ学園! こいつは甘えぜ! ……と思ったらどっちかというと苦いんですが,これ。
『四百二十連敗ガール』 著者:桐山なると イラストレーター:七桃りお 出版社/レーベル:エンターブレイン/ファミ通文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-0472-8654-2 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●ライトノベル史上最低のアダ名を持つ主人公,登場!
女子の美貌を磨くことを名目に,独自の入学システムを設けた異色のエリート高校,私立聖シンデレラ学園,通称デレ園。その唯一の入学条件は,将来美人になる可能性が著しく高いこと。よって,学校内は右も左も美少女ばかり。そんなデレ園だが,女子校というわけではなく男子生徒の募集も行っている。ただしこちらの入試はガチの学力勝負で,蜜に群がる虫のごとく集まった男子生徒たちは,高額の受験料を搾り取られていく。実に計算されたシステムだ。
そして本作の主人公も,美少女たちと“愛と性に爛れた学園生活(原文ママ)”を送るためデレ園を受験した一人。猛勉強の結果,見事主席で合格し,入学式で新入生スピーチに挑むのだが,友人から爆笑必至と言われて渡されたスピーチ原稿をそのまま読んでしまう。その内容がこちら。
「山南中学出身、石蕗(つわぶき)ハルです。小学校中学校と九年間ずっと保健委員を務めてきました。趣味は回収した女子の蟯虫検査のフィルムを舐めることです。特技はフィルムの匂いと味だけで持ち主を特定することです。高校生になっても保健委員をやりたいと思っています。あなたのお尻にズームイン!」
こ れ は ひ ど い。
そしてハルに与えられた二つ名が「蟯虫齧り虫」。頭の悪さと画数の多さを兼ね備えた屈辱的なネーミングだ。なまじ,蟯虫(ぎょうちゅう)なんて単語をスラスラ読めたのがいけなかったのかもしれない。
こうして,あっという間に全校の女子に嫌われ,中庭の花壇で孤独に水をやるだけの寂しい学園生活を送っていたハル。しかし,そんな彼に転機が訪れる。それは下駄箱に入っていた,女子からの手紙。誘われるままにホイホイ中庭に顔を出すと,そこには美少女だらけのデレ園の中でも屈指の美少女が待っていた!
●四百二十連敗ガール。その数字に隠された意味とは!?
……のだが,その美少女はなぜか大変ご立腹で,出会うや否やハルを怒鳴りつけ,ムスコを握り潰しにかかるという超肉食系。さらにその後も,怒涛のようなパンチにキックと容赦がない。
それもそのはず,美少女の正体は学園きっての危険人物,毒空木美也子(どくうつぎみやこ)。そんな彼女がハルを呼び出した目的は,なんとハルへの愛の告白だった。ところがハルの返事は「あ、うん。絶対嫌です」と素っ気ない。いったい,なぜ?
「自分の行動を振り返ってみろ! 出会うなりいきなり怒鳴って! 殴って! 罵倒して! そんな女と誰が付き合いたいと思うかよ! ツンデレなんてなあ、フィクションだからいいんだよ! 現実にいたらただの自分勝手なわがまま女だろうが!」
正論だ。誰もが薄々思ってたことをあっさりと口にし,畳み掛けるように「この学園の付き合いたい女子ランキングぶっちぎりのワースト一位なんだよ、お前は!」とまで言い放つハル。学園随一の危険人物にこの暴言。命知らずだ。余命わずかだ!
しかし,毒空木さんはそれを聞いても「あたしワースト1でも全然平気だよ?」とにっこり笑顔。
「だってハルがあたし以外の女子全員にフラれたらいいだけの話だもんね」
そう,ワースト一位ならば,自分より上位の女子全員を蹴落とせばいいという,逆転の発想! 好かれるために自分の性格を改善しようなどとは一切考えないあたりが大変清々しい。こうして,そのまま暴力で屈服させられたハルは,フラれるためだけにデレ園中の女子・四百二十人に告白する“全告ツアー”を開催することに……。
●最初から最後までノンストップの怒涛のギャグ!
こんな具合に,何と言うかこの作品,良い意味でいろいろ酷い。下ネタ,セクハラ,暴力,毒舌とやりたい放題で,最初から最後までハイテンション。さらに,ハルの告白対象となる女生徒たちも,友人相手に情け容赦なくハルの陰口を叩く子や,付き合ってる彼氏に関する生々しいノロケ話を延々と繰り広げる子など,かなり尖っている。
中でもメガネでドジっこな,時宗愛結(ときそうあゆ)さんが飛び抜けてヤバい。平仮名すら書き間違うし,深夜にいろいろ間違った丑の刻参りを繰り広げるなど,もはやギリギリでアウト……いや,セー……じゃなくて,セウト?
そんなギリギリの一線を,フラれてもすぐに立ち直るハルの安定した語り口と,場面場面でボケとツッコミが交代するハイテンポな会話で駆け抜け,最後まで一気に読ませてくれる。
また,暴力や暴言を振りまくものの,「好き」という感情を隠さずストレートに押し出す毒空木のキャラも良し。下の名前で呼ばれただけで大喜びしたり,フラれたハルを励ますためにお弁当を作ってきたりと,時折見せるデレっぷりもグッド。
大文字フォントの使用や見開きでのイラスト投入など,視覚的にインパクトの強い演出も多く,楽しく読める一冊だ。おバカなキャラたちによるギャグ成分多めな作品ということで,同じファミ通文庫の『バカとテストと召喚獣』が好きな人には,とくにお勧めしたい。
■全戦全敗でも分かる,第14回えんため大賞受賞作
今回のコラムでは,第14回えんため大賞で特別賞を受賞し,『四百二十連敗ガール』と同時発売された『《名称未設定(ネイムレス・ニュービー)》』を紹介しよう。
『《名称未設定》 Struggle1:パンドラの箱』(著者:津田夕也,イラスト:鵜飼沙樹/ファミ通文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
二万八千世紀の未来人による壮大な暇つぶし,〈デイドリーマーズ・ストラグル〉。その内容は21世紀人に未来製の武器を与え,参加者同士で戦わせようというもの。ゲームの勝者には〈投げ銭〉が与えられ,これを集めるとメイドロボから,死者の蘇生,さらには来年起きるという第三次世界大戦を阻止する権利まで,望みのものが与えられる。未来人に選ばれたひねくれ者の高校生・神園祐希は,友人の男の娘・天宮綴,コンピューターゲーム研究部のセンパイと共にゲームに挑む。
この手のゲームは一度参加したら途中で抜けられないというのがお約束だが,本作では自由に辞められるうえ,ゲーム中に死んでもゲーム終了後には蘇らせてくれる親切設計。よって,この手の作品に付きものの切迫感や恐怖感などは薄い。その代わり,主人公たちに与えられる武器はすべて未来の子供のおもちゃで,その説明もジョーク交じりだったりと,全体的に乾いたユーモアが漂っている。世界を救うなんて柄じゃないと言いつつも,来期のアニメが観られないのは困るとうそぶく,主人公の斜に構えた態度も良い味を出している。『銀河ヒッチハイク・ガイド』を始めとするSF的な小ネタが多いのも嬉しい。
このほか,来月には優秀賞を受賞した,殺人犯ばかりが集められた学校を舞台にしたラブコメディ『サイコメ』,孤島・探偵・選挙・女装……と,多数のキーワードが散りばめられた特別賞受賞作『ルクス・ソリスの探偵軍師』などの刊行が予定されている。
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