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ニンジャ殺すべし。「放課後ライトノベル」第112回は『ニンジャスレイヤー』でWasshoi!
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印刷2012/10/06 10:00

連載

ニンジャ殺すべし。「放課後ライトノベル」第112回は『ニンジャスレイヤー』でWasshoi!



 ドーモ,ドクシャ=サン。ウサミナオヤです。
 突然の見慣れぬ挨拶に驚かれた読者諸氏も多いことと思う。これは今回の「放課後ライトノベル」で紹介する『ニンジャスレイヤー』における,由緒正しいアイサツなのである。作品に敬意を表し,今回の原稿はそれにちなんだ挨拶で始めてみた次第である。

 それにしてもニンジャか……。思えば,これほどゲーム世界で愛されている職業もほかにあるまい。世界観が和風でないものにも何事もなく登場するあたり,ゲーム業界にはニンジャ愛めいたものが色濃く流れているとしか思えない。幼い頃からゲームに浸かってきた筆者も当然それに感化され,いまだにニンジャへの憧れを捨てきれずにいる。

 ……いや。捨てきれないのであれば,いっそなってしまえばいいのではないだろうか。ちょうどいいところに目の前にはまっさらな原稿が。これを完全にエスケープすることができたなら,自分もニンジャになれるのでは? ちょっと試して――

「イヤーッ!」
『グワーッ!』
「ドーモ,ウサミナオヤ=サン。タントゥー・ヘンシウ(担当編集)です」
『ど,どうしてここに……それ以前にいったいどこから!?』
「実は私,ニンジャだったんですよ。逃げ足の速いライターから原稿を取り立てるには,ニンジャのカラテの一つも身に付けてないといけませんから」
『アイエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?』
「さー,今回もきりきり原稿書いてくださいねー」
『ア……アババーッ!』

画像集#001のサムネイル/ニンジャ殺すべし。「放課後ライトノベル」第112回は『ニンジャスレイヤー』でWasshoi!
『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上(1)』

著者:ブラッドレー・ボンド,フィリップ・N・モーゼズ
訳:本兌有,杉ライカ
イラストレーター:わらいなく
出版社/レーベル:エンターブレイン
価格:1260円(税込)
ISBN:978-4-04-728331-2

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●ニンジャ殺すべし――すべてを失った男の悲壮な復讐譚


 ネオサイタマ。重金属酸性雨が絶え間なく降り注ぎ,薬物と犯罪が蔓延し,バイオスモトリとクローンヤクザが跋扈する,サツバツめいた都市……。

 平凡なサラリマンだったフジキド=ケンジの日常は,ある日,唐突に終わりを告げた。マルノウチ・スゴイタカイビルにおけるニンジャ同士の抗争に巻き込まれ,一瞬にして妻子の命を奪われたのだ。自らも重傷を負い,生死の境をさまよっていた彼の耳に,一つの声が囁きかけた。お前の妻子を殺したニンジャに復讐せよ,と。

 かくしてフジキドはその身にナラク・ニンジャのニンジャソウルを宿し,死の淵から蘇った。赤黒いニンジャ装束に身を包み,「忍」「殺」の文字が彫り込まれたメンポ(面頬のことらしい)を身に付け,彼は闇から闇へと走る。すべてのニンジャを殺すために。乱れ飛ぶスリケン! 冴え渡るカラテ! 彼の者の名は――ニンジャスレイヤー(ニンジャを殺す者)!

 ……と,おおむねこのような内容で説明できる(できてしまう)のが『ニンジャスレイヤー』である。言ってしまえば「外国人が考える間違った日本観に基づくニンジャ活劇」なのだが,それが行き着くところまで行っちゃってるところに本作の特徴がある。その斬新さ(というひと言では,とてもくくりきれないが)は我々日本人すらも虜にするもので,実際翻訳版が登場するや否や,瞬く間に多くのニンジャヘッズ(『ニンジャスレイヤー』ファンの総称)を生んだ。

 そのムーブメントは日を追うごとに勢いを増し,ついにこのたび,書籍化されるまでに至ったのだ。そのあたりのより詳しい情報は今回のコラム欄に譲るが,『ニンジャスレイヤー』とはとにかくそんな,いまだかつて誰も見たことがないサイバーパンク・ニンジャ小説なのである。


●一度ハマれば癖になる,それが「忍殺語」! Wasshoi!


 『ニンジャスレイヤー』という作品を語るうえで欠かせないのが,その独特すぎる言語感覚である。一部はすでに前フリにも混ぜ込んでみたが,これは作中に登場する中のほんのひと握りでしかない。ショッギョ・ムッジョ,サイオー・ホース,チャメシ・インシデント,インガオホー……。
 こうした,分かるような分からないような,なんとなく分かるような表現は総称して「忍殺語」と呼ばれ,『ニンジャスレイヤー』という作品の世紀末的な空気感(忍殺語で言うなれば「マッポー的アトモスフィア」)を作り上げるのに一役買っている。

 当然,そのような言葉で綴られる世界観が凡庸なものであるはずがない。作中の描写を通じて,我々読者はこの作品の世界,ネオサイタマという都市がどういう場所なのかを知るが,そのたびに我々の腹筋は笑撃のあまり爆発四散しそうになる。

 出会った相手には,たとえそれがこれから殺し合う相手だろうと「ドーモ,○○=サン。ニンジャスレイヤーです」とオジギする。敵にとどめを刺す前に「ハイクを詠め。カイシャクしてやる」と告げる。ヤクザが「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」と襲いかかってくる,などなど。そのパロディ加減は絶妙としか言いようがなく,「ほんとは日本のことにすごい詳しいんじゃないか!?」と言いたくなる。たぶん半分くらい分かっててやってるんじゃないかな。じゃないと悪の親玉の組織に「ソウカイヤ」とかつけないと思います。

 無数の忍殺語によって支えられたサイバーパンク的世界観は,この物語の第2の主役とも言えるほど魅力的なのだ。


●ニンジャスレイヤーの心が休まる日は果たして来るのか


 ここではっきり書いておきたいのだが,『ニンジャスレイヤー』は決して,単なる色モノなだけのニンジャ小説ではない。読んでいくうち,読者はその意外なエンターテイメント性の高さに気づくはずだ。

 復讐の鬼と化したニンジャスレイヤー=フジキドだが,決して血も涙もない殺人鬼というわけではなく,彼もまた,れっきとした一人の人間である。そんな彼が折に触れて見せる人間的な苦悩や葛藤,忍殺衝動のままに暴れようとするナラク・ニンジャとの精神的な戦いなどは,このマッポー的な物語に得もいわれぬ奥ゆかしさを与えている

 そんな彼の脇を,負けず劣らず魅力的な登場人物たちが固める。ニンジャスレイヤーの師のような存在であり,現代に生きるリアル・ニンジャでもあるドラゴン・ゲンドーソー。女ジャーナリストにしてヤバイ級ハッカーのナンシー・リー。ある日を境にニンジャの世界に足を踏み入れることになる女子高生ヤモト=コキ。ドラゴン・ゲンドーソーの孫娘,ユカノ。ユカノのバストは豊満である。

 敵もまた例外ではない。ソウカイヤの首魁ラオモト=カンに,彼の懐刀たるダークニンジャ。そして数十人を優に超えるニンジャが次々とニンジャスレイヤーの前に現れ,常人では及びもつかない死闘,激闘を繰り広げるのである! コワイ!

 その長い戦いは分厚い1巻にすら納まりきれず,第1部「ネオサイタマ炎上」全4巻が隔月で刊行されることが予告されている。さらにその先には第2部「キョート殺伐都市」,第3部「不滅のニンジャソウル」が待っており,シリーズ全体としてはいまだ完結を見せていない。正直,筆者がここで何万という言葉を尽くしても,この作品の場合,その魅力や特異性をきちんとお伝えすることは不可能なので,少しでも興味を持った人は下記コラムを参考に,まずはそのアトモスフィアの一端に触れてみてほしい。

 この世にニンジャある限り,ニンジャスレイヤーの戦いは果てしなく続いていく。その物語をリアルタイムで追いかけられる喜びをかみしめながら,伏して次巻を待ちたい。オタッシャデー!

■ニンジャヘッズじゃなくても分かる,ニンジャスレイヤー豆知識

『陰からマモル!』(著者:阿智太郎,イラスト:まだらさい/MF文庫J)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/ニンジャ殺すべし。「放課後ライトノベル」第112回は『ニンジャスレイヤー』でWasshoi!
 書籍としては,いわゆる「翻訳もの」に分類される『ニンジャスレイヤー』だが,それが我々日本人の目に触れるようになった経緯は少々特殊だ。もともと本作は書籍化を前提に翻訳が行われていたわけではなく,翻訳チームが原作者から権利を取得し,ネット上で公開していたものが話題を呼び,書籍化するに至ったという経緯を持つ。特徴的なのはその発表方法で,Twitter上でライブ的に連載を行っているのだ。これにより,ファンとの盛んな交流が生まれ,書籍化にまで至った盛り上がりの遠因にもなっている。
 なお,書籍版の刊行が始まった現在でも,Twitter上でのライブ更新は続いており,これまで発表されたエピソードは,書籍化されたものも含めてすべてネット上で読むことができる。今すぐ最新版の連載を追いかけたい人はTwitter公式アカウントをフォロー。もう少し落ち着いて読み始めたい人は公式サイトへ。用語やニンジャなどの詳細な情報を知りたい人はニンジャスレイヤー@wikiを参照のこと。本作は原作者の意向により,発表順(書籍版の掲載順も)と時系列とが意図的にばらされているので,そのつながりを知るうえでもwikiは実際便利である。
 ちなみに(『ニンジャスレイヤー』よりは幾分か地に足の着いた)忍者ものというのもライトノベルにはいくつかある。代表的なのが阿智太郎で,アニメ化を果たした『陰からマモル!』を始め,『いつもどこでも忍2ニンジャ』『きわめて忍極』(共に電撃文庫)など,複数の忍者ものを手掛けている。

■■宇佐見尚也(ライター/サンシタ)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。ゲームの忍者と言われて思いつくのはユフィ,藤林すず,おぼろ丸と何人もいるが,中でも最近のお気に入りは各種動画を通じて知ったすごい漢こと,「竜虎の拳」の不破刃だという宇佐見氏。その圧倒的なビジュアルと叫び声に「ああ,別に忍者だからって忍んでなくてもいいんだ……」と勇気を与えてもらったそうな。うおおおおおおおおおおおおおお! この,タワケが!
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