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BitSummit 2014で行われた,水口哲也氏の基調講演レポート。ジャンルからではなく,何が人間にとって面白いのかを考えることがインディーズマインド
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印刷2014/03/08 13:34

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BitSummit 2014で行われた,水口哲也氏の基調講演レポート。ジャンルからではなく,何が人間にとって面白いのかを考えることがインディーズマインド

ゲームデザイナーの水口哲也氏
画像集#001のサムネイル/BitSummit 2014で行われた,水口哲也氏の基調講演レポート。ジャンルからではなく,何が人間にとって面白いのかを考えることがインディーズマインド
 「BitSummit 2014 -京都インディーゲームフェスティバル-」(以下,BitSummit 2014)で開会式直後のステージを飾ったのは,ゲームデザイナーの水口哲也氏の基調講演だった。「セガラリーチャピオンシップ」「スペースチャンネル5」「Rez」といった作品に始まり,最近は「Child of Eden」など,世界が注目するゲームを作ってきた水口氏は,現在はフリーランスとして活動している。
 基調講演は,そんな水口氏のゲーム制作を原点から振り返り,ゲームの未来までを見通すものとなった。以下,簡単にお伝えしたい。

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国内外から117の開発チームが集結! 「BitSummit 2014
-京都インディーゲームフェスティバル-」の会場レポートをお届け



アートとサイエンスの融合


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 まず水口氏は,ゲームとは「アートとサイエンスが一緒になった,ユニークなもの」とした。そのうえで,自身がゲーム制作の道に入ったきっかけとして,二つの作品の影響があったと語る。
 一つは,AI技術者であるマーヴィン・ミンスキー氏「The Society of Mind」(邦題「心の社会」)。この本には,人間の感情はどこからくるのか,また感動とは何かといったことが科学的に,かつ平易に書かれている。この本は氏にとって「人間を科学することで,どうやったらもっと面白くて,感動できるものを作れるか」を考えるきっかけになったという。

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 もう一つは,イームズチェアで知られるチャールズ・イームズ氏レイ・イームズ氏がIBMのために作った,「Powers of Ten」と題された動画だ(現在でも,動画サイトなどで閲覧可能)。この動画では最初,公園で寝ている人が俯瞰で映される。カメラはどんどん上空に引いて行き,まずは10m四方(つまり10の2乗)が画面に映る。カメラはさらに引き続け,100m四方,1000m四方と縮小して行って,やがて地球を,そして宇宙を映すようになる。そうやって一度宇宙の彼方まで引いたカメラは,今度はそこから接近を開始,やがて最初の人物の画像に戻り,今度は0.1m四方(つまり10の−1乗),0.01m四方と拡大していく。
 この15分ほどの動画が作られたのは1977年,まだCGも未発達な時代であり,人類が地球を初めて「外から」見て,10年ほど経った頃である。水口氏はこの作品を「人間の意識や考え方に強い影響を与える,新しい考え方のスイッチを入れるアート」と評した。
 この二つの作品が,水口氏の創作には常に影響を与えているという。


グルーブの気持ち良さを求めて


 この具体例として,水口氏はまず「Rez」を取り上げた。
 Rezは,「音楽が好きな人はたくさんいる。ゲームが好きな人もたくさんいる。では,この二つの楽しさや面白さを,一緒にすることはできないのか」というところから開発が始まったという。
 この課題にも発端があり,それは水口氏がスイスで体験した音楽イベントと,DJである友人がケニアを旅してきたときに撮影した動画だった。音楽と光と色が混然として循環するような体験,また何もないところから音楽が立ち上がり,やがて歌やダンスからなる大きなセッションへと盛り上がっていく様子を通じて,人間はすごい。このメカニズムはどうなっているのだろう? いわゆるグルーブの気持ち良さは,どこから生まれてくるのだろう? と考え始めた。

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 水口氏は「例えばシューティングゲームの効果音が,音楽になっていくような体験ができたら」「ゲームを遊ぶ中で得られる達成感と,音楽を演奏して気持ち良くなっていく感覚を,どうしたら組み合わせられるか」ということを考え,グルーブが起こるメカニズムにはコール・アンド・レスポンスがあるが,これはゲームが持つコール・アンド・レスポンスと似ているから,合わせられるのではないか。さらに,音楽で気持ち良くなる背景には,リズムがシンクロした瞬間,バラバラなものがピタリと合った気持ち良さがあるのではないかと分析した。

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 Rezは「ミュージシャンが音楽を演奏する気持ち良さとDJがトラックを変えていく気持ち良さを,うまくハイブリッドして,プレイヤーの体験とすることを目指して設計した」作品である。だが,前例のないゲームでもあり,制作には時間がかかった。とくにプリプロダクションには1年半から2年近くかけたと氏は語る。映像も音も可能な限りシンプルに抑え,それを面白さと気持ち良さを感じられるところまで練り上げて,これは行けると思った段階でサウンドとビジュアルを本格的に作り始めたという。

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 同様な過程を辿った作品としては,スペースチャンネル5もそうだったという。スペースチャンネル5の場合,ベースとなった「気持ち良さ」はミュージカルであり,やはりこれも最初は非常に簡単なプロトタイプから開発を開始して,面白さが確認できてから本格的な制作に入ったそうだ。

 これらの経験を踏まえて水口氏は,これまでになかったようなインディーズゲームを作ろうとしたとき,ジャンルからではなく,面白さのエッセンスが何なのかから考えていくほうが良い結果が出やすいと述べた。


ライブで分かったこと


 一方,ゲームを作って行く中で,思わぬ方向に発展して行った事例もある。「ルミネス」がその例だ。ルミネスを作っていく中で,水口氏は,徹底的にハッピーな気分になれる音楽が欲しくて,必死に探したという。だが氏の理想に合う音楽は見つからず,ないのであれば作ってしまえ,ということで自分で制作することにした。そうして生まれたのが「Heavenly Star」という音楽と,そのプロモーションムービーだ。

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 Heavenly StarはYouTubeで紹介されたことで注目され,音楽単体として扱ってもよいのではないか,という提案が舞い込み,東京の大型クラブでライブを開催することになったという。
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 水口氏はこの経験を「非常に大きな意味があった」と語る。というのも,Heavenly Starのライブでは,ある意味でいつもどおり,音楽と映像のシンクロによる気持ち良さの追求などを行ったものの,そこにはゲームが持つインタラクティブ性はない。
 その結果,再びインタラクティブな世界に戻って来たときに,「今までやってきたことに対して,新しい意味が見えるようになった」のだという。

 そのあと水口氏は,ソニーと共同で3D映像を使ったライブを開催している。この経験により,映像と音が一緒になった世界には,言葉にできない体験があることを改めて確信した。そして,自分がやってきたことにはさらに奥があると,思いも新たにしたそうだ。


たくさんの詩を書いた「Child of Eden」


 その結果の一つとして生まれたのが,Child of Edenで,これは,Rezの精神的続編であると同時に,Kinectを使って,音と映像の指揮者になれるゲームだ。

 Child of Edenの制作にあたって,水口氏はまず大量の詩を書いたという。最近のゲーム制作の常識からいえば,アートボードやシナリオを書いたり,ときにはゲームエンジンを利用してプロトタイプを作ったりするところだが,水口氏はあえて詩を選んだ。というのも,「スタッフのクリエイティビティや想像力を引き出すため,100%きっちりと説明しているものではなく,詩のように行間を想像できるものを用意し,その想像をどんどん前に出してもらう」ためだという。

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 とはいえ,Child of Edenはそういったいわば思索的な側面だけで作られているわけではない。どうしたら効果音が気持ち良く音楽に変わっていくか,例えば物理エンジンとプロジェクションマッピングを組み合わせたらどういう感情が生まれるか,音楽と物理エンジンを組み合わせたら何が起きるか,そういったテストを繰り返したという。また,ゲームのために独自のエンジンも開発している。

 技術的な側面で言えば,Kinectの問題もあった。初期のKinectは遅延が目立ったそうだが,これについてはMicrosoftやUbisoft Entertainmentのエンジニア達が改善してくれたそうだ。


「なぜ?」から考える


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 このような創作活動を通じて,水口氏の中に一つのテーマが形作られたという。それが「シナスタジア」だ。日本語では「共感覚」と訳される言葉で,音に色が付いて見えるなど,刺激に対して通常の感覚だけでなく,別の感覚も呼び覚まされる現象をいう。言葉自体は古代ギリシア時代からあるものらしいが,最も多用されたのは,100年ほど前の芸術家達によってだと水口氏は語った。

 例として,水口氏はカンディンスキーの「モスクワ」という作品を挙げた。これは,ある一人の人物の一日の印象を,すべて一枚のキャンパスに表現した絵画作品で,こうした感覚が交差するところに,新たな印象や表現が生まれるというのだ。

 「もしかしたら自分達も,100年前の彼らも,考えていることはあまり違わない可能性がある。しかしテクノロジーという面で見ると,当時はコンピュータもなければコンピュータゲームもなかった。一枚のキャンバスに一日の印象を描き込んでアートに変えた彼らが,今の時代に生きていたら,何をやるだろう?」ということを考えたという。
 最新技術を持った自分達には以前より大きな表現力があり,世界中にリーチする力も持っている。どうすれば,新しい表現や体験を作れるかというわけだ。

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 氏はまた,「感動とは見えないプロセスだ」と語る。この見えないものを可視化すること,気持ちの流れを設計すること,気持ちの化学反応を引き起こすことがゲームデザインであり,それゆえに,ジャンルからものを作ろうとせず,人間の本質を見極め,whyから考えること,そして,なぜ人間はそれを楽しいと思うのか,なぜ気持ちいいのかを,ずっと問いかけ続けることが求められる。
 「新しいものの見方は,テクノロジーによって与えられてきた。そうした新しい感覚と人間の本質を,どうやって組み合わせて行くかが重要だ」と水口氏は語る。


最も進化するコンピュータサイエンスとして


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 最後に水口氏は,冒頭でも紹介した「The Society of Mind」の著者,マーヴィン・ミンスキー氏にインタビューしたときの逸話を語った。

 インタビューの中でミンスキー氏は,「娯楽は,重要なものの頂点に位置づけされる。だからゲームデザイナーは,プログラマの頂点にいる。たぶんゲームはコンピュータサイエンスの中で,もっとも進化するのではないか」と述べている。

 ミンスキー氏は映画「2001年宇宙の旅」制作時,監督からAIについて助言を求められ,「コンピュータはいつかしゃべるだろう」というビジョンを示すことで,HAL9000の基礎を示した人物でもある。だが,コンピュータゲームは遊んだことがないという。そのミンスキー氏が,コンピュータゲームに対してこのような見解を述べているというのは,確かに興味深い。

 水口氏は最後に,「Independent DNAとは,新しい会社を作ることではなく,どうやったら世の中にない新しい体験を,今の時代にフィットさせて提供するかを考えること」だと語った。そして「人間の本質的なものを基礎に新しいものを生み出していくには,観察力や想像力しかない。これを日々鍛えなくてはならない。そうすれば,60歳になっても,70歳になっても続けられるし,むしろ,もっといいものが作れるようになる。ゲームを作るとは,そういう素敵な仕事です」と述べて,基調講演を終えた。
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