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[CEDEC 2010]「スーパーマリオ」の上ボタンはなぜ押される? ゲームプレイの記録からゲームの本質に迫る,立命館大学上村研究室の研究報告
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印刷2010/09/03 00:03

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[CEDEC 2010]「スーパーマリオ」の上ボタンはなぜ押される? ゲームプレイの記録からゲームの本質に迫る,立命館大学上村研究室の研究報告

 CEDEC 2010では,ややアカデミックよりの発表も多数行われている。その中から「テレビゲームとはなにか ―ゲームプレイの記録と分析を通じて」と題されたセッションを紹介しよう。

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「CEDEC 2010」公式サイト


立命館大学 衣笠総合研究機構
研究員/講師 尾鼻 崇氏
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 この講演の主旨は,ゲームそのものではなく,ゲームを遊ぶ人間にの側に焦点をあてることで,ゲームの本質(遊技性)に迫ろうというもの。セッションでは,立命館大学 上村研究室でこの研究を行う上村雅之教授と,同研究室の研究員である尾鼻 崇氏が登壇し,本研究の現状と展望についての報告が行われた。

 セッションは,まず尾鼻氏による上村研究室の紹介から幕を開けた。立命館大学では上村研究室の発足前から,ゲームハードやソフトを収集する「ゲームアーカイブプロジェクト」活動を行っており,これが上村研究室の立ち上げに繋がっているとのこと。
 上村教授は,かつて任天堂にてファミコンやスーパーファミコン等の開発を手がけていた人物で,「ゲームアーカイブプロジェクト」との関わりから同大学に招かれ,2004年の研究室発足に至ったという。上村研究室は,現在三つの活動を行っており,その一つが今回の発表テーマである“「ゲームプレイ」の記録と保存に関する研究”というわけだ。

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立命館大学大学院/元・任天堂株式会社開発第二部部長
先端総合学術研究科 上村雅之教授
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 尾鼻氏の後を継ぐ形で登壇した上村教授は,まずこの研究の目的について,次のような説明を行った。
 一つはテレビゲームの出現が,“遊び”をどう変えてしまったかを明らかにすること。ファミコン開発期からメーカー側の立場でゲーム業に関わってきた氏は,自分達の作ったファミコンがどんどん普及していく様を見ながら,それが実際にどのように遊ばれているのか,不思議に思っていたという。この疑問こそが本研究の第一歩とのことで,ゲームそのものよりもゲームプレイに焦点を置く,研究スタイルの根底となっている。
 もう一つは,ゲームがあまりにも早いスピードで普及してまったがゆえの“誤解”を払拭したいということ。主観的な断定から,しばしば濡れ衣を着せられがちなゲームについて,その影響力をなんとか客観的に捉えることはできないだろうか。ついでにもしそれが可能なら,製品開発の参考にも使えるかもしれない。

 発表の内容に移ろう。スライドを使った発表では,まずは本研究におけるビデオゲームの定義が語られた(下図参照)。この定義では,「遊びのための映像(遊戯映像)」という部分がポイントだそうで,これを取ってしまえば,かなり広い範囲が――例えばPCで行うほとんどの作業などが,定義に含まれてしまうことになる。プレイヤーがそれを“遊び”と思うかどうかがキーになっているので,ここは結構主観的だ。

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 この定義に則れば,ほかの“遊び”と比べたテレビゲームの特徴は,入力と出力部分が,常にハッキリしているところにあるという。遊戯判断をするプレイヤーの内世界はブラックボックスとなって分からないが,少なくともその入出力については記録が可能だ。それを記録し,蓄積していくことで,プレイヤーの内世界を推測,肉薄できるのではないか,というのが本研究の仮説である。

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 では,どうやって記録を行うのか。それを示したのが以下の図だ。氏も語るとおり,現状ではなかなかに手作り感のある装置となっているが,その分,分かりやすいだろう。最終的な出力では,「ゲーム画面」「プレイヤーの撮影風景」「ボタンの入力状況」「ボタン操作履歴」が1画面に合成され,ビデオテープに記録されていく仕組みだ。

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研究素材として選ばれたのはFC版「スーパーマリオブラザーズ」と「グランド・セフト・オート III」。前者は世界中で通用するタイトルとして,後者は“誤解を受けやすい”タイトルの代表としてチョイスしているとのこと
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 実際の運用では,11分ごとに区切ってプレイを記録して,1分のインターバル(感想を聞く時間),また11分プレイしてその差を比較する形をとっているそうだ。現在は集めたデータについて分析を進めている最中で,最終的な結果については機会を改めての発表になるそうだが,今回はその一部分を取り出した,ごく触りの部分での紹介が行われた。

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 上のグラフは,A君B君の2名が「スーパーマリオブラザーズ」(以下,スーパーマリオ)を3回プレイした際,上ボタンを押した回数を記録したものだ。ご存じのとおり,「スーパーマリオ」における上ボタンは,豆の木を登る以外では使用されることのない,ノーアサインなキーである。にもかかわらず,これだけの回数押されているのは,単なる入力ミスではない,ゲームリテラシーの影響が指摘された。
 興味深いのは,この上入力の多くが,Aボタンとの同時押しによって行われている点だ。Aボタンは「スーパーマリオ」ではジャンプを行うボタンだが,ほかのタイトルでは上入力でジャンプを行うものもある。それらのゲームをプレイした経験が,Aボタンと同時に上ボタンを押させているのかもしれない。
 またプレイを繰り返すにつれ,A君の上入力が減っていくのに対し,B君の場合はあまり変わっていない,というの面白い。これは学習効果に差があるというよりは,B君の入力は無意識によるところが大きいのでは,と解説が行われた。

グラフは用意されなかったが,脈拍との関連だと左右ボタンに関するデータも面白いという。左より右を押す比率が高い人は比較的落ち着いた状態にあり,その逆の場合は緊張状態であることが多い
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 続いてこちらのグラフは,件のAボタンを押した回数を記録したものだ。A君はプレイするにつれ回数が減っているに対し,B君は徐々に増えていく傾向にある。氏によると,Aボタンの計測では「ほとんど押さない状態から増えていく人」「最初は押しまくって減っていく人」「一定数をコンスタントに押す人」の3タイプがあるのだそうだ。A君はとりあえず押してみるタイプで,B君はかなりの慎重派ということなのだろう。学習効果にも,かなり性格が出るようだ。

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 上の2枚は,Aボタンを押す周期(左)と,ボタンを押している時間(右)の分布をグラフ化したものだ。
 これはもちろんゲームタイトルによってまったく違ったものになり,同じゲームでも人によってバラつきがあるものの,ボタンを押す周期のグラフでは,「スーパーマリオ」の場合は,0.4秒と4秒付近に山ができることが多いという。A君の場合は,最初の2回は0.4秒にピークがあったものが,3回目では0.8秒がピークなっている(無駄な連打がなくなった?)。ちなみに4秒付近の山は,ステージクリア後の待ち時間に相当するものだそうだ。

 ボタンを押している時間のほうは,現在分析を進めている最中だそうだが,かなり個性が出やすいデータとのことで,氏はここに大きな期待を寄せているとのこと。グラフのA君の場合には,3回とも0.2秒付近にピークがあり,腕前としては並といったところ。もっと操作が上手いプレイヤーの場合は,0.2秒よりもっと早いところにピークが来て,0.5秒以上はほぼ0に近い分布になるらしい。このデータについては,現在プレイシーンと関連させた分析なども行っているそうなので,今後の進展に期待しておこう。

ちなみに「グランド・セフト・オート III」では,ゲーム内で人を殺したときに,ボタンを押す回数のばらつきが顕著だという。それが何故なのかについては分析中とのことだ
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 次のグラフに移ろう。こちらは15人の被験者から得られたボタン操作データを,各ボタンの操作数について標準偏差をとったものになる。このグラフから読み取れるのは,リプレイを重ねるに従って,Aボタンを押す回数がばらつかなくなっていくということだ。学習効果が顕著なAボタンに比べると,ほかのボタンはそうでもなく,つまりは「スーパーマリオ」では,Aボタンの学習効果が著しい=遊戯性がAボタンに集約されている,と解釈できるという。うーん,なるほど。

 なお被験者となった学生達は,FC版「スーパーマリオ」をリアルタイムで体験していない世代とのこと。たいていはSFC「スーパーマリオワールド」がマリオシリーズの原体験であるらしく,「スーパーマリオワールド」のリテラシーで,「スーパーマリオ」を学習していく形になる。
 これが「グランド・セフト・オート III」(以下,GTA3)の場合はまったく事情が違うのだそうで,個人的にはそちらのほうが気になるのだが,残念ながら今回の発表では触れられることはなかった。現在は,同時に行った「スーパーマリオ」と「GTA3」の採取データを元に,互いの影響や違いなどを分析中とのことで,こちらについては今後の発表を待ってほしいとのことだ。

 発表の最後には,今後の研究の方向性として,以下のスライドが示された。

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 個人的に興味が湧いたのは,3.のゲームプレイにおける主観と客観の関係だろうか。例えばアクションゲームで「ボスが手強くて面白かった」という感想を持ったとして,それが「勝利できた」こと自体による快感なのか,それとも「うまく操作できた」ことが嬉しいのか,あるいは単に「グラフィックスや演出が素晴らしかった」ということなのか,自分で切り分けるのはなかなか難しいものだ。もしそれが操作履歴という客観的なデータから分析できるとしたら,ゲームのレビューを書くときに大活躍しそうな気がする。

 上村氏自身が語ったように,この手の長期的に視野に立った研究というのは,生き馬の目を抜くようなゲームメーカーの内側にいては,なかなか難しいものだ。研究の成果がすぐにゲームに反映されるようなものではない上に,精緻な分析を行うためには,さまざまな専門知識が要求される。自らの疑問を追求するために,アカデミズムを活動のフィールドに選んだという上村氏。ゆくゆくはゲーム以外の“遊び”にまで研究を広げていきたいと言い,今回の講演を締めくくった。

 なお同研究室では,折に触れ今回のような発表を行っていくとのこと。また被験者も募集中とのことなので,興味が湧いた人は「こちら」の研究室のサイトを覗いてみるといいかもしれない。

立命館大学グローバルCOE 上村研究室


ゲームをアーカイブするにあたって,ゲームソフトそのものや,あるいはゲームの映像だけを記録しても意味がないと語る上村氏。本講演で使われたビデオのように,“どうやって遊ばれたか”を含め,記録すべきとの提言が行われた
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