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レビュー
エントリー市場の主役交代を告げる“最後のピース”
SAPPHIRE HD 5570 1GB DDR3 PCIE
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型番から想像できるとおり,本製品は,1月に登場の「ATI Radeon HD 5670」(以下,HD 5670)と,先週リリースされた「ATI Radeon HD 5450」(以下,HD 5450」の“間”を埋め,79〜85ドル――4桁円台後半の市場で,ATI Radeon HD 5000(以下,HD 5000)シリーズの拡充を図るモデルだ。
“99ドルのDirectX 11対応GPU”ことHD 5670は,「ATI Radeon HD 4670」(以下,HD 4670)を凌駕する3D性能を持つ一方,HD 5450は,3Dゲーム用途だと残念な結果に終わっていたが,HD 5570はどちらにより近いGPUなのか。Sapphire Technologyの販売代理店であるアスクの協力で入手した搭載カード「SAPPHIRE HD 5570 1GB DDR3 PCIE」(国内製品名:SAPPHIRE HD 5570 1GB DDR3 PCI-E VGA/DVI/DP,以下 SAPPHIRE HD 5570)を使って,明らかにしてみたい。
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HD 5670の低クロック版という位置づけになるHD 5570
400SP仕様で,HD 5450とは一線を画す
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付け加えるなら,SIMD Engine 1基当たり4基相当のテクスチャユニットが組み合わされる点や,レンダーバックエンド(=ROP)数が8基相当なのも共通だ。
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では,どこで差別化が図られているのかというと,動作クロックである。
まずコアクロックは,HD 5670の775MHzに対して,HD 5570では650MHzと20%減。メモリクロックに至っては,組み合わされるメモリチップがGDDR5からDDR3へ変更になったこともあって,4GHz相当(実クロック1GHz)から1.8GHz相当(実クロック900MHz)へと大きくスピードダウンした。結果,メモリバス帯域幅は,HD 5670の64GB/sに対して,HD 5570では28.8GB/sと,半分以下に抑えられている。
表1は,HD 5450と,HD 4670,そして市場価格的に競合すると思われる「GeForce GT 220」(以下,GT 220)の主なスペックをまとめたものだが,全体としてHD 5570は,HD 5670をベースに,メモリ周りの仕様をHD 4670に近づけた製品という理解が近そうである。いずれにせよ,HD 5450とは一線を画しているといっていい。
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ディスプレイ出力インタフェースはDVI-I,D-Sub 15ピン,DisplayPort。1枚のカードで3画面出力を可能にする「ATI Eyefinity」をサポートする |
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SAPPHIRE HD 5570(左)とHD 5570リファレンスカード(右)。クーラーの形状が若干異なるものの,搭載する部材のレイアウトなどはそっくりだ |
本製品は,実測167mm(※突起部除く)というカード長で,Low Profile仕様のモデルだ。カードのデザインは,HD 5570リファレンスカードと酷似しており,HD 5450のレビュー記事で用いた,Sapphire Technology製の同GPU搭載グラフィックスカード「SAPPHIRE HD 5450 512M DDR3 PCIE」ともよく似ている。
HD 5450カードと一つ異なるのは,搭載するGPUクーラーが,ファンを持ったアクティブクーリング仕様になっていること。
もっとも,52mm角相当と見られるこのファンの動作音は,(筆者の主観になることを断ってから紹介すると)かなり静かなので,ここに目くじらを立てる必要はなさそうだ。HD 5670リファレンスカードが搭載するGPUクーラーのファンは,GPU負荷が高まってくると,「シャー」という風切り音が耳につくのだが,少なくともSAPPHIRE HD 5570ではそれがなかった。
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ちなみに,表1でも示しているとおり,AMDは,HD 5570で組み合わされるグラフィックスメモリはDDR3だとはっきり述べている。アスクによるSAPPHIRE HD 5570のニュースリリースでも同じように書かれているのだが,実際はGDDR3だったというわけだ。
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TechPowerUp製GPU情報表示ツールである「GPU-Z」(Version 0.3.8)で動作クロックを確認してみると,SAPPHIRE HD 5570はコア650MHz,メモリ1.8GHz相当(実クロック900MHz)で,リファレンスどおり。メモリチップは1.1ns品だから,クロックマージンはない計算になる。
一方,「ATI Catalyst Control Center」の「ATI OverDrive」からアイドル時の動作クロックを見てみると,コアは157MHz,メモリは400MHz相当(実クロック200MHz)まで低下したのを確認できた。
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HD 5450のレビューと同じ環境でテスト
ドライバも同じだが,HD 5570は安定動作
今回のテスト環境は表2のとおり。HD 5570のテストに当たって,今回は表1で取り上げているGPUを比較対象として用意しているが,それ以外は,HD 5450のレビュー時とまったく同じハードウェア構成である。「Core i7-860/2.80GHz」の「Intel Turbo Boost Technology」を無効化しているのも一緒だ。
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テストに持ちいたHD 5670リファレンスカード |
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GV-N220OC-1GI クロックアップ版のGT 220カード メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY 問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店) 実勢価格:7900〜1万円(※2010年2月9日現在) |
なお,そのレビュー記事で筆者は,HD 5450で導入したとき,システムがフリーズするなどの不具合が発生することを述べたが,今回,HD 5570のテストに当たって,そのようなトラブルは確認されなかった。本レビュワー向けドライバは,HD 5450よりも,HD 5570に注力して,最適化が行われたものなのだろう。
さて,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション8.4準拠。ただし,DirectX 11世代のGPUを検証するということもあり,来るレギュレーション8世代から一部を先取りすることにし,レースゲームを「Race Driver: GRID」ではなく,DirectX 11対応の「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)へと変更している。DiRT 2では,基本的にDirectX 9モードを採用しつつ,HD 5000シリーズに限り,DirectX 11モードでもテストを行うので,この点はあらかじめお断りしておきたい※。
※DiRT 2では,DirectX 11に関連する五つの項目を,下記のとおり設定することによって,DirectX 11モードを有効化できる。基本的には,DirectX 11モードが有効にならない範囲で,すべて最も高いグラフィックス設定に指定しつつ,HD 5000シリーズのテストでは,DirectX 11モードを有効にした状態でもテストを行うというイメージだ。なお,DiRT 2におけるグラフィックスオプション設定の詳細は,西川善司氏による解説記事を参考にしてほしい。
・CLOUD:HIGH
・WATER:HIGH
・POST PROCESS:MEDIUM
・AMBIENT:LOW
・CLOTH:LOW
エントリーGPUという位置づけを踏まえ,テスト解像度は1024×768/1280×1024/1680×1050ドットの三つに絞った。また,同じ理由により,アンチエイリアシングおよびテクスチャフィルタリングは適用せず,「標準設定」(※「Crysis Warhead」と「バイオハザード5」は「エントリー設定」)でのみテストを行うことにしている。
HD 5670との性能差は小さくないが
HD 4670とほぼ同等のパフォーマンスは発揮
テスト結果の考察に入ろう。
グラフ1は,「3DMark06」(Build 1.1.0)総合スコアをまとめたものになる。HD 5670が頭一つ抜け出し,HD 4670とHD 5570,そしてGT 220が第2グループを形成する格好だ。HD 5570は,HD 4670にやや届いていないが,ほとんど差はない。また,HD 5450には,これ以上ないほど格の違いを見せつけている。
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次に,3DMark06のデフォルト解像度となる1280×1024ドットで,Feature Test実行結果を見てみよう。
まずグラフ2が「Fill Rate」(フィルレート)。テクスチャユニットやレンダーバックエンドの性能が同じ場合,グラフィックスメモリへの書き出し性能がスコアを左右することになる。とくにSingle-Texturingで顕著になるが,果たしてSingle-Texturingのテスト結果は,メモリバス帯域幅の差を反映したものになっていると言っていいだろう。
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続いてグラフ3,4は「Pixel Shader」(ピクセルシェーダ)と「Vertex Shader」(頂点シェーダ)のテスト結果となる。
グラフ4で,400SP仕様のHD 5570&HD 5670が,320SP仕様のHD 4670を下回るテスト結果しか示せていないのが気になるところだが,この傾向自体は,HD 5670のレビュー時,そしてHD 5450のレビュー時と同じ。ピクセルシェーダ周りは,もう少し最適化の余地があると見るべきだろう。大規模アップデートになると予告されているATI Catalyst 10.2以降に期待したいところだ。
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GPUの汎用プロセッサ利用における可能性を見る「Shader Particles」(シェーダパーティクル)と,DirectX 9世代における長いシェーダプログラムの実行性能をチェックする「Perlin Noise」(パーリンノイズ)の結果がグラフ5,6。HD 5000シリーズ有利となりやすいShader Particleで,HD 5570のスコアがHD 4670を下回った事実からは,HD 5570におけるメモリ周りの制約が相当に大きいことを窺い知れる。
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実際のゲームタイトルから,グラフ7は「Crysis Warhead」のテスト結果だ。このクラスのGPUだと,エントリー設定でDirectX 9モード動作させても,Crysis Warheadをマトモに動作させるのは厳しいが,傾向自体は,3DMark06のそれを踏襲している印象を受ける。
HD 5570がGT 220より高いスコアを収めている点にも注目しておきたい。
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お次は「Left 4 Dead」。ここでは,HD 5670とHD 4670,HD 5570が第1グループを形成し,GT 220を大きく引き離している(グラフ8)。とくに,1680×1050ドットで,レギュレーションが「快適にプレイできるレベル」と規定する平均60fpsをクリアしているのは特筆すべきポイントだ。
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「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果は,3DMark06を踏襲したものになったと言ってよさそうだ(グラフ9)。HD 5570はHD 4670と同じスコアを示し,揃ってGT 220を引き離し,HD 5670からは置いて行かれている。
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グラフ10で示したバイオハザード5だと,HD 5450比で2倍以上のスコアを示すGT 220に対して,HD 5570が20%以上高いスコアを示しているのが目を引く。上位グループの序列はこれまでと変わっていないが,ここでもHD 4670とHD 5570は概ね同じくらいのスコアだとまとめてよさそうである。
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GeForceシリーズで高いスコアが出る傾向にある「ラスト レムナント」だと,GT 220のスコアが良好。突出したスコアを示したHD 5670に続く第2グループを,HD 4670,HD 5570とともに形成しているのを,グラフ11から読み取れる。ラスト レムナントをプレイするに当たって,この3製品にパフォーマンスの違いを感じることはまずないはずだ。
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最後に,DiRT 2の結果をまとめたものがグラフ12となる。
まずATI Radeonの3モデルでDirectX 11モードの結果を比較すると,モデルナンバーどおりにスコアが並んでいるのはいいとして,HD 5570とHD 5670の差がかなり大きいのは少々気になった。
一方,DirectX 9モードで見ると,HD 4670のスコアが最も高くなってしまった。HD 5670のレビュー時だと,HD 5670がHD 4670を上回っていたこと,そして,HD 5450のレビュー時にお伝えしたとおり,一定以上の負荷がかかったときのスコアがおかしくなることも踏まえるに,今回試用したレビュワー向けドライバに問題があると見るべきではなかろうか。
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HD 4670を下回る消費電力を記録
GT 220とほぼ同程度?
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では,それは実際の数値上にも現れるのか,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測してみたい。テストに当たっては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ13のとおり。アイドル時,アプリケーション実行時とも,HD 5570の消費電力は,HD 5670やHD 4670と比べて,(劇的ではないものの)確実に低減できていると述べていい。アプリケーションによってややバラつくが,GT 220とおおむね同程度と言ってもよさそうだ。
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最後に,念のためGPU温度も見ておこう。
今回は,室温22℃の環境で,システムをバラック状態に置いたまま,3DMark06を30分間ループ実行した時点を「高負荷時」とし,アイドル時と合わせてGPU-ZからGPU温度を計測している。
そして,グラフ14がその結果だ。ファンレスGPUクーラーを搭載したHD 5450のスコアが高めに出るのは当たり前として,高負荷時におけるHD 5570の温度は60℃弱と,問題のないレベルに収まっている。冷却面で気を遣う必要はまずもってなさそうだ。
なお,高負荷時におけるGT 220の温度が一段低いレベルにあるのは,今回テストしたグラフィックスカードのうち,GT 220だけが2スロット仕様のGPUクーラーを搭載しているためなので,この点はお断りしておきたい。
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HD 4670よりもバランスが優れたGPU
エントリー市場の主役となる可能性大
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もちろん,Crysis Warheadのスコアで見られたように,エントリーモデルらしい限界はある。3D性能に過度な期待は禁物だ。だが,たいていの3Dオンラインゲームをプレイするのに必要十分な,HD 4670と同等の3D性能を,HD 4670よりも低い消費電力で実現できるというのは,やはり魅力的。付け加えるなら,標準でLow Profile仕様のため,メーカー製ブックサイズPCのアップグレードパスになり得るという点も,求められる市場を考えるに,大きなメリットだろう。
ドライバが安定し,かつ,店頭価格がHD 4670とオーバーラップしてくれば,という条件付きだが,エントリー市場において,新たな主役となり得るGPUが登場してきたといえそうだ。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 5600/5500
- この記事のURL:
(C)2010 Advanced Micro Devices, Inc.