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連載
【ミートたけし】「メグとばけもの」コンサート
ミートたけし / 川村 竜 / ベーシスト,作編曲家 ,ストリーマー
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ミートたけしの「世界の平和が俺を守る!」ミートたけしYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@meatalk |
第17回:「メグとばけもの」コンサート
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例えば今回の演者。
等しく「一度はメグばけをプレイする」ことが絶対条件として突きつけられた。こんな現場はハッキリ言ってほかにない。
どれだけ感動的な演奏をしようとも,やはり音楽家にとって演奏は仕事である。誤解を招くことを覚悟のうえで言うならば,ゲーム音楽コンサートで演奏するにあたって,プレイ済みか未プレイかで演奏が大きく変わることはない。だってみんなプロなんだから。
しかし“大きく変わることがない”というのがミソだ。つまり“小さく変わることがある”のだ。
今回のメグばけコンサートのスタッフ達は,我々にその微々たる変化すら求めてきた。まさしく狂気の沙汰である。狂気の沙汰ではあるが,その暑苦しいまでの思いに応えられずして表現者と言えるのだろうか? 我々はいつの日からか演奏ができることを,当たり前のように感じてしまっていたのではないだろうか?
今,我々はあらためて岐路に立たされたのだ。演奏家として生きていくのか。表現者として生きていくのか。そんな覚悟を求められたような気がした。
でもね。俺ね。
もうプレイしてたからさ。
ほかのみんなはたいへんだったと思うよ。
いくら5時間でクリアできるゲームとはいえ,毎日演奏で忙しい売れっ子ミュージシャン達が,その時間を確保するのが難しいのも分かるよ。
でもさ。俺もうプレイ済みなんだわ。
ちょっと高みから君たちのこと見守らせてもらうぜ?
名作の一部になれる喜び
まぁ,冗談半分であり本気半分でもあるわけだが,そもそもなぜ自分がプレイ済みの状態でこのコンサートに臨めたのか? それはほかならぬ,作曲家の裏谷くんのおかげだ。
コンサートの開催が決定する1年以上前。事務所に一人の若者がやってきた。それが作曲家の裏谷くんだ。
もちろんそれ以前から,「モンスターハンター」シリーズや「FINAL FANTASY VII REBIRTH」など,さまざまなゲーム音楽を生み出している彼の名は知っていた。
しかしこの時点では「メグとばけもの」(PC / Mac / Xbox Series X|S / Nintendo Switch / Xbox One)のことは知らなかった。そんな状態の自分にグッサリと刺さるぐらい,裏谷くんの思いの強さに衝撃を受けた。
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決して感情を激しく表に出すタイプではない彼だが,静かに淡々と,しかしものすごい熱量を帯びながら話してくれるコンサートの構想は非常に濃密だった。
作曲家自らが,ミュージシャンに演奏依頼を直談判してくることなんて,私の25年のキャリアの中でも初めてのことだったし,恐らくこれからもこんなことはないだろう。コンサートを主催することに関しては,右も左も分からない状態の裏谷くんだったが,彼をここまで突き動かすものが,異常なまでの作品に対する思いであることは完璧に伝わってきた。
これを引き受けないわけにはいかない。演奏家として彼の思いに応えなければならない。心の底からそう思えた。
その日のうちに「メグとばけもの」をダウンロードした。そして裏谷くんやコンサートの公式Xアカウントの協力を得つつ,実況配信をしたあの日。全然人が観にきてくれなかったあの屈辱を,私は一生忘れることはないだろう。裏谷くん,すまん。
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がらくた楽器で再現する世界観
裏谷くんの常軌を逸したこだわりは,コンサートの楽器編成にも表れていた。ピアノ,ウッドベース,ストリングスカルテットと,ここまでは分かる。
がらくた楽器。
まじか。こいつやる気だ。
そこまでやるのか。
今回の音楽の肝と言える,がらくた楽器を担当するのは,名古屋を中心に活動する「kajii」というクマーマさんと創さんからなる日用品演奏ユニット。“音楽と楽器をもっと身近に”という願いから,180種類以上の日用品楽器を創り出したというから驚きだ。茶碗,どんぶり,湯呑みなどを並べたオリジナル楽器「食琴」(しょっきん)をメインに,タライ,空き缶,ペットボトル,お菓子の空き箱などから飛び出す音楽が絶賛されている。
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彼らも裏谷くんが自ら探し出し,そしてやはり直談判で連れてきたという。通常の打楽器からは得られないであろう,さまざまな音色やニュアンスはとても刺激になった。自分が今取り組んでいる,コーヒー食器,器具を使った音楽制作にも非常に参考になることばかりだった。今回をご縁にkajiiとは,いろんなプロジェクトでの共演を目論んでいるが,それはまたの機会に。
ちなみにkajiiという名前には,
・日常生活の中から(家事)
・工夫して楽器を作り(鍛冶)
・新しい風を生む(風)
という,三つの意味が込められているとのこと。
クラファンの結果が物語るファンの思い
今回のコンサートでもう一つ語らなければならないのは,クラウドファンディングの結果が物語る,ファンの皆さんの熱い思いだ。
目標金額400万円からスタートしたクラウドファンディング。結果から言うと,なんと目標の4倍近い1500万円もの支持を集めることになった。
これはとんでもないことだ。これだけの思いを持つファンが「メグとばけもの」を支えていたのだ。これは単純に1500万円集まった! やったー! で済まされることではない。我々はこの思いに十二分に応えなければならないのだ。
実際,初めての主催コンサートでいろいろと分からないことや心労も多かったであろう裏谷くんだが,当日は常にファンのことを考えて動いていた。
クラウドファンディングのリターンとして,本番前のリハーサルに数名のファンの皆さんをご招待していた。リハーサルというのは当然ながら,その日のコンサートのクオリティを決める大切な時間だ。本来なら裏谷くんも,リハーサルに集中したかったことだろう。しかしそんな中でも「あと●分でリハーサルご招待の時間です!」と常に応援してくれる皆さんのことを考えて動いていた。
時間軸は前後するが,公演終了後のサイン会,楽屋ご招待,そして何と異例中の異例,打ち上げご招待まで! その間もずっとファンの方達のことを考えていた。はっきり言って尊敬する。
ここまで作品に対して,そしてファンに対して,思いとエネルギーを注ぎ込める彼が作った音楽だからこそ,人々は魅了されるのだろうと思った。
コンサートを終えて
草月ホールでのコンサート本番は,できうることをすべて注ぎ込んで無事に終えた。1年前,裏谷くんが事務所に来たあの日から今日まで,あっという間だった。私があっという間に感じたんだから,裏谷くんにとっては1週間くらいに感じられたのではないだろうか。
ステージから見えるお客さんの笑顔や涙や拍手。そしてSNSなどに寄せられた感想の数々を見るにつれ,確かな手応えを感じることができた。
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言ってしまえば“コンサート初心者”である裏谷くんから学んだことは,とてつもなく大きかった。今後の音楽活動にも確実に影響のある経験だった。こうして名作と言われるゲームの音楽に携わり,その一部となれる喜びを噛み締めていると,やはり今回もこのフレーズで締めくくらざるを得ない。
世界の平和が俺を守る……と。
4月にはNintendo Switch用パッケージ版も発売される「メグとばけもの」。未プレイの方もプレイ済みの方も,ぜひ「メグばけ」の世界を堪能してみてほしい。
「メグとばけものコンサート -音楽の世界-」レポート。作曲家・裏谷玲央氏が自らフルアレンジした人気楽曲の数々で,ゲームの世界観を再現
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2月23日,「メグとばけものコンサート -音楽の世界-」が,東京・草月ホールにて開催された。「音楽を通じてゲームの“ストーリーを追体験できる”」ことをコンセプトに掲げた本公演では,ピアノ,ベース,ストリングスに加え,“がらくた”製のオリジナル楽器によって,「メグとばけもの」の世界観が再現された。
■■ミートたけし / 川村 竜(ベーシスト,作編曲家 ,ストリーマー)■■ ベーシストとして国内外各所でライブやコンサートで演奏活動をしつつ,配信活動も活発に行っているミートたけしこと川村 竜さん。現在は主にYouTubeチャンネル「ミートたけし-MEAT TAKESHI-」とTwitchチャンネル「ミートたけしの『太くてニューゲーム』」で,雑談配信をしたりゲーム配信をしたりと大忙しの様子です。 |
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