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サイバーコネクトツーの松山 洋氏,二塚万佳氏が劇場用3Dアニメ「ドットハック セカイの向こうに」を語る。学生向けに実施された特別講義をレポート
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サイバーコネクトツーの松山 洋氏,二塚万佳氏が劇場用3Dアニメ「ドットハック セカイの向こうに」を語る。学生向けに実施された特別講義をレポート

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 サイバーコネクトツーの松山 洋氏と二塚万佳(ふたつか かずよし)氏のお二人による特別講義が,代々木アニメーション学院の東京本部校において,2012年1月11日に実施された。
 この特別講義は,2012年1月21日から全国公開中の劇場用3Dアニメーション「ドットハック セカイの向こうに」をテーマにしたもの。実際の制作事例を紹介しつつ,サイバーコネクトツーによるこだわりの作品作りのノウハウを,松山氏と二塚氏が学生達に向けてアツく語った。

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サイバーコネクトツー 代表取締役社長 松山 洋氏
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サイバーコネクトツー プロジェクトリーダー 二塚万佳氏

 「ドットハック セカイの向こうに」は,ゲームをはじめ,さまざまなメディアで展開されてきた「.hack」シリーズの最新作で,シリーズ初の劇場用3Dアニメーションとなる。また,3D立体視のみで上映されるというこだわりの作品だ。
 本作品では,フル3DCGで作り出された「現実の世界」とオンラインゲーム「The World」(ザ・ワールド)の世界という二つの“セカイ”を舞台に,主人公・有城そらの青春ドラマと“世界”を救う冒険が描かれる。
 なお本作品の脚本は,「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「機動警察パトレイバー」,“平成ガメラシリーズ”などで知られる,伊藤和典氏が担当している。

 本講義は,東京本部校をはじめ全国10か所の代々木アニメーション学院校舎でサテライト中継され,合計で約1000人が受講したそうだ。4Gamerも,この特別講義におじゃましてきたので,本稿では,その聴講レポートをお伝えしよう。

劇場用3Dアニメーション「ドットハック セカイの向こうに」公式サイト

サイバーコネクトツー公式サイト内
「ドットハック セカイの向こうに」ページ



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 まず松山氏は,サイバーコネクトツーの会社概要を簡単に説明。同社は福岡本社と東京スタジオを合わせると210人以上のスタッフを抱えるゲーム開発会社で,“面白ければなんでもやる会社”だから映画を作ったと,制作の経緯をごくごく簡単に説明。

 松山氏は,「ドットハック セカイの向こうに」と,ゲーム「.hack」シリーズの違いを簡単に紹介した。それによると,ゲームのシリーズでは現実世界のパートが1割,ゲーム世界のパートが9割というバランスだったが,映画では現実世界6割,ゲーム世界4割と,バランスを大きく変えたそうだ。
 その理由は,映画はゲームよりも“気軽”なメディアなので,前情報なしに鑑賞に堪えられるものにするためだと,松山氏は語る。
 たとえば,映画館に足を運んでその場で「何を観る?」と決めるようなライト層にとって,“現実世界”と“ゲーム世界”という二層構造の「.hack」シリーズの世界観はややこしい。鑑賞しても混乱しないように,“地に足の着いた”現実世界のパートに比重を置いたそうである。
 また,観客が今“どちらの世界”を見ているのかを,演出に明確な差をつけることで分かりやすくしたという。
 具体的には,現実世界を“2.5D”の淡い質感表現とし,立体感を抑えるなど,いわばセルアニメに近いCGで制作。対するゲーム世界は,CGの質感をよりゲームっぽくし,立体感を強めにしているそうだ。

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 次に松山氏が紹介したのは,制作チームの組織編成だ。
 松山氏は,制作の時期と内容で活躍するスタッフが違うと,その規模を年次別に時系列で紹介。福岡に本社を置くサイバーコネクトツーだけではなく,東京や中国の外部スタッフと協力して映画を制作したと話す。
 プロジェクトが動き出したのは,オリジナルアニメ「.hack//G.U. TRILOGY」制作中の2007年のこと。このときの人数は5人程度で,キャラクターデザインやロケハン,立体視検証といった土台となる部分を作った。
 2008年は約50名となり,絵コンテやモデル制作などを行った。2009年は約160人とさらに人数が増え,制作の佳境となった。2010年は約200人にまで達し,アフレコや3D立体視の視差調整など,仕上げ作業を行ったそうである。そして2011年は約30名ということで,延べ人数で450人ものスタッフが関わった作品となった。
 なお,中心となったサイバーコネクトツーの映像制作チーム「sai −サイ−」では,ピーク時に40人ほどが投入されたとのこと。

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 松山氏によれば,「sai −サイ−」は“祭”のようなものだという。専属のスタッフだけで構成されているわけではなく,サイバーコネクトツーの中でプロジェクトが立ち上がると映像制作に長けたスタッフを集め,各々がやることをやったらゲーム制作に戻り,プロジェクトが完了したら解散する,というスタンスが採られている。
 ピーク時のチームメンバーは40人ほどだったが,映画が完成した現在,「sai −サイ−」のメンバーとして動いているのは,松山氏と二塚氏の2人だけらしい。

 松山氏は,ゲーム制作の場合,ハードウェアスペックを超えた表現はできないが,映像であれば,やろうと思えば1カットに何千万ポリゴンでも使える。つまり,ゲーム機で「将来的に実現できるかも」という高いレベルの技術を,先んじて使用できるわけだ。普段のゲーム作りにおける制約から解放され,思う存分映像表現に取り組めることから,スタッフは皆,ノリノリで参加するのだそうだ。

 なお,サイバーコネクトツーがこのようなスタイルを採る理由には,R&D(Research and Development)の意味合いも含まれている。
 たとえば,“4K解像度”と呼ばれるような高解像度の映像は,現行のゲーム機では採用に至っていないが,今回の「ドットハック セカイの向こうに」のような形であれば,先行して経験を積むことができる。近い将来,テクノロジーの進歩でゲーム機に“4K解像度”の波がやって来ても,ノウハウを持ったうえで余裕を持って対応できる,というわけだ。


「sai −サイ−」プロジェクトリーダーの二塚氏が
実際の制作工程を解説


 続いては,チーム「sai −サイ−」のプロジェクトリーダーである二塚氏から,「ドットハック セカイの向こうに」における映像制作の流れが解説された。その流れは以下のとおり。

1.シナリオ・絵コンテ
2.イメージボード制作・デザイン設定
3.モデリング
4.アニメーション・ライティング
5.レンダリング
6.コンポジット・色味調整
7.立体視化
8.最終調整


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 通常の2D映画であれば具体的な手順は「6」までとなるが,3D立体視に対応させるとなると「7」「8」の手順が発生する。二塚氏は,この2つがとくに重要になると説明。それぞれ具体的な事例を踏まえつつ,紹介していった。

 先に補足しておくと,3D立体視の映像は,2D-3D変換器を使えば2D映像から生成できるので,「7」「8」の手順を簡略化できる。しかし,それだけでは立体視や視差に問題が残るなど,クオリティの低い映像にしかならない。“見やすい”立体視映像を作るには,「7」「8」の手順にこそ力を入れなければならないということだ。

●1:シナリオ・絵コンテの作成

 通常であれば,上がってきた脚本のシナリオをカット単位で分割し,文章を絵コンテに起こす作業が行われるのだが,サイバーコネクトツーではその前に,“脚本デバッグ”を行っているという。
 脚本の内容に矛盾がないか,見どころがきちんと生まれるか,ムダなカットはないかといったことを,それこそ文節単位でチェックし,必要に応じて改稿していくとのこと。
 なお脚本デバッグは,数人のスタッフが「実際にどう表現するか」のブレインストーミングを行い,頭の中で映像化しながら行っているそうだ。
 絵コンテで描き直しが発生すると作業が膨大になってしまうため,脚本デバッグは重要なのだと松山氏は語っていたが,“矛盾や無駄な工程を発生させない”という考え方は,いかにもゲーム制作会社らしいといえる。ちなみに「ドットハック」では,脚本は第8稿,絵コンテは第6稿が最終稿だったそうだ。

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●2:イメージボード・デザイン設定
●3:モデリング


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 登場キャラクターはデザイン画を基に3DCGにしていくのだが,ここで重要なのは,どうモデリングをするかである。
 平面図のデザイン画を3DCGモデル化する際,破綻が生まれることがある。二塚氏は,そのようなときはキャラクターデザイナーに目的を告げ,モデラーの意向を反映してリデザインしてもらうと述べていた。
 たとえば,“カイト”の元のデザイン画では膝の部分に丸い膝当てがあったが,ポリゴン化すると膝の曲げ伸ばし時にこれが変形してしまう。そのためデザインを変更したと,二塚氏は具体例を挙げて説明していた。
 関節部分では,なめらかに動くようにポリゴン数を多くするなど,「演技できる」ようなリグ設定にすることが重要とのこと。そのほか,リアルな質感であったり,メッシュ割であったり,ポリゴン数であったりと,この工程で考えなければならないことはかなり多いという。

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 続いては,背景制作の事例が紹介され,二塚氏は,まずデザイナーとモデラーが,どんな街を作るか,イメージのすりあわせを行なってから,制作に取り掛かると述べた。ただ,基となるデザイン画は情報が多いので,そのまま制作を進めるとどうしてもポリゴン数が多くなり,時間がかかってしまうとコメント。
 プロとしては,決められた納期までにどう表現するかも重要なため,そのバランス取りは難しいと,二塚氏は話していた。その隣で松山氏が苦笑いしていたのは,ここだけのヒミツだ。

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●4:アニメーション・ライティング

 この工程では,絵コンテに沿ってアニメーションを付けるという作業が行われる。また,1シーンが10カットで構成されているようなシーンでは,それぞれのカット間のつながりを確認したり,整合性を取ったりといったことも行われる。
 作業が終わると,二塚氏曰く“監督の松山氏によるダメ出し”のターンとなり,それはもう細かいところまでチェックされるそうである。

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●5:レンダリング
●6:コンポジット・色味調整


 続いては,3DCGから映像素材を出力するレンダリングを行う。時間のかかる作業なので,効率化のためにスクリプトを使用して,最終調整に必要なエレメントを複数出力するとのこと。また,3D立体視のために,右目用と左目用の素材も別々に出力するそうだ。
 そして,メインキャラクター,モブキャラクター,オブジェクト,背景など,レンダリングした各種素材をAdobe AfterEffects上でコンポジットし,色味調整などを行う。

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●7:立体視化
●8:最終調整


 次に,「6」の工程で準備した右目用と左目用の素材を用い,Adobe AfterEffectsを使用して3D立体視用の素材を制作していく。松山氏によれば,「ここはアクセルを踏むところだ」という判断から,かなり力を入れたそうである。
 サイバーコネクトツーでは,サイドバイサイド方式を今回は採用し,準備した映像を3D立体視対応ディスプレイで再生して,チェックをしていたとのこと。
 最終調整では,立体視自体に問題がないか,視差がつきすぎていないか,素材にちらつきがないかといった“バグ”のチェック作業が行われる。
 たとえば,オブジェクトなどのデータが右目用/左目用いずれかにしかない場合,3D立体視で見ると,ちらつきなど“見にくさ”の原因になる。そのため,1フレームずつコマ送りでチェックし,すべてのフレームに問題がないことを確認して,はじめて完成となるわけだ。

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さまざまな“こだわり”が「ドットハック セカイの向こうに」を生んだ


 講義のプレゼンターはここで再び松山氏に移り,「サイバーコネクトツー独自のこだわり」について説明が行われた。

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 最初に松山氏が挙げたのが,「プロジェクトに対するこだわり」である。
 「.hack」シリーズは,ゲームをはじめ,アニメ,小説,コミック,映画といった,異なるプラットフォームで展開されているものも,物語としてすべて“つながっている”のが特徴である。
 作品の中にいわゆる“外伝”は存在せず,シリーズの年表にある作品群においては,一つ一つの作品における登場人物や物語の伏線などが,相互に関連性を持っている。たとえば,「ドットハック セカイの向こうに」における“ソフィア事件”は,OVA「.hack//Quantum」の“電子監獄事件”,さらにはPSP用ソフト「.hack//Link」の“イモータルダスク事件”ともつながっている。

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 ちなみに,年表の最後にある“2025年”は「?」となっているが,これは先日,公式サイトでその存在が明らかにされた,「.hack」シリーズ最新のゲームプロジェクトを指している。このゲームプロジェクトでは,“2025年”を舞台にした事件が起きるのだが,もちろんその事件ともつながりがあるとのこと。
 どの作品においても,“一つの作品として面白くする”ことが大前提ではあるが,ゲームを遊ぶなら「ドットハック セカイの向こうに」を観ておいたほうがより楽しめる,と松山氏は語っていた。

 また,マルチメディアでシリーズものを展開するうえでは,漫画,アニメ,ゲームにはそれぞれ文法や流儀があるのでそれを尊重すること,“ほかのメディア”から入ってきた人が見たらニヤリとする要素を入れてつながりを持たせること,といったあたりにも気をつけていると述べていた。

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 次は,「立体視へのこだわり」だ。先に書いたように,「ドットハック セカイの向こうに」では,CGの質感表現や立体視の奥行き感など,現実世界とゲーム世界のパートで差がつけられている。これは,先に書いたように,二つの世界を区別しやすくするという意味があるのだが,実はそれだけではない。
 ご存じのように,3D立体視対応映画を実際に鑑賞するときに,観客は3Dメガネをかけることになる。一方,「ドットハック セカイの向こうに」の登場人物達は,ゲーム世界を体験する際,3Dメガネのような「FMD」(フェイスマウントディスプレイ)をかけている。つまり,3Dメガネを装着して鑑賞している人が,FMDを装着する登場人物達に“なりきり感”のようなものを感じるという,没入感を高める仕掛けでもあるのだ。

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 松山氏はさらに,「設定へのこだわり」も並々ならぬもので,サイバーコネクトツーでは,作品の本編に登場しないところまで設定を練り込むことを説明した。
 たとえば,以前「こちら」の記事で紹介したことがあるように,「ドットハック セカイの向こうに」におけるFMDやゲームコントローラの化粧箱,「THE WORLD」のログイン画面や「ALTIMIT OS」の画面,果ては「デビッドの名刺」などの“実物”を制作している。

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 もちろん,作中に登場するオンラインゲーム「THE WORLD」においても,ゲーム内の世界観や周辺地図など,それだけでゲームが1本作れるほど,細かい部分まで設定が練り込まれている。
 松山氏は,自分をはじめスタッフが皆,CC社(※劇中で「THE WORLD」を開発しているという設定の企業)のゲームデザイナーになったつもりで,設定を作っていると述べた。
 松山氏は「多くを語らなくても説得力のある絵作り」と語っていたが,いわば“ごっこ遊び”の延長のようなものにプロが真剣に取り組むからこそ,劇中の世界にリアリティが生まれるということだろう。

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 次の話題は,「ロケハンへのこだわり」だ。
 「ドットハック セカイの向こうに」では,リアリティを追求するために,関係各所に協力を得ることで,劇中に登場する数多くの施設やグッズの“実物”を登場させている。それらの協力企業・団体数は18に上り,福岡市,柳川市の全面協力も得て,街並みや市営バスなども,現実の街並みがほぼそのまま再現されている。
 劇中に“現実と同じ柳川市や福岡市”が登場するということは,これ以上ない“リアリティ”を再現していると言えるだろう(ただし,デジタルサイネージなどの電子広告をはじめ,“2024年”に合わせた「ちょっとだけ未来の街並み」になっている)。

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 ちなみに,主人公達が通う中学校についても協力を得ており,実際の教室や机,椅子などのサイズを測らせてもらって,同じものをCGで作り上げているそうだ。もちろん,学生服も実際に使われているものと同じとのこと。
 ただ,中には“4年”という制作期間中に“古い”ものになってしまったものもあるそうで,松山氏は,「時間かけすぎるのも考え物」だと,苦笑交じりにコメントしていた。

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松山氏と二塚氏が学生の疑問にズバリ回答


 講義の最後は質疑応答の時間となり,事前に学生から寄せられた質問に,松山氏と二塚氏が答えた。

 「ゲームをプレイしたことがないが,映画を観る前に知っておいたほうがいいのか?」という質問が出たが,松山氏は,「.hack」シリーズを知っている人ならニヤリとできる要素を入れているが,「一つの作品として完結しているので,前情報は必要ない」と断言していた。
 松山氏は,近年,3D立体視の映画は数多く上映されているが,人によっては目が疲れたり痛くなったりすることがあり,人間の目がついていける作品は多くないと発言。
 「ドットハック セカイの向こうに」は3Dのみの上映となるが,サイバーコネクトツーでは数年前から立体視を研究しており,今回は3D立体視の一つの指標となれるような作品を目指そうという意気込みで取り組んだとのこと。松山氏は「3D立体視が苦手でも間違いなく大丈夫」「超見やすい,気持ちいい」作品になっていると力強くコメントしていた。
 なお,3D立体視はよく“飛び出す”と表現されるが,松山氏は,奥行きや空間の広がりを表現するのが,今の3D立体視に適したスタイルであるとも語っていた。

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 「映画の中での日常風景とゲーム世界の風景の描き方の差別化の方針とは?」という質問について松山氏は,「ドットハック セカイの向こうに」では,まずゲームパートから考えていったとコメント。
 何度か書いているように,「ドットハック セカイの向こうに」は,現実世界とゲーム世界の二層構造という,“ややこしい世界観”になっている。
 そのため,観客が「今はどちらの世界なのか」迷うような状況にしてはダメで,明確に差別化する必要があるという。そこで,まずゲーム世界のパートを“分かりやすい”CG表現で制作し,次に現実世界のパートを,ゲーム世界と差別化が図れるような形で作っていったそうだ。

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 松山氏は「ドットハック セカイの向こうに」を,「人間の仕草や心理描写といった,一つ一つの動作やカットまで考え抜いた新しい挑戦であり,新しいサイバーコネクトツーを見てもらえる作品」と表現していた。
 ちなみに,松山氏と親交の深いレベルファイブの日野晃博氏(代表取締役社長/CEO)や,バンダイナムコゲームスの原田勝弘氏(「鉄拳」シリーズチーフプロデューサー)は,試写を観て,松山氏が今までゲームで作ってきたような“アツい”ノリの映画かと思っていたら,それとはまったく違った方向性に仕上がっていたことに驚いたそうである。

 「ゲームを制作するときと,アニメを制作するときの違い」という質問も出た。これについて松山氏は,ゲームの“ディレクター”,アニメの“監督”,どちらも言葉の意味としては同じだが,両者で“脳みそ”は違うので切り替えている,と話していた。
 アニメのときは,ゲーム制作以上に,スタッフとたくさん話すようにしているとのこと。作品の意図や狙い,どこまでやれば効果的で,どこまでやり過ぎたら無駄になる,といったところまで,神経質なほどにいっぱい考えて,スタッフに伝えるようにしているそうである。
 なお,何故話すことが大事かというと,“ディレクター”や“監督”の業務は,チーム全員の意思を統一し,円滑に制作を進行することであるからだ。またそのためには,ほかのスタッフと深く話し合い,相互理解を得る必要があるため,すべての業種を股にかけた“知識”も必要となる。

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 そのほか松山氏は,サイバーコネクトツー独自の取り組みとして,“編成”を毎月行うということを挙げていた。
 同社では現在,まだ公開できないものも含めて合計8〜9のプロジェクトが動いており,プロジェクトの進行に合わせたスタッフの編成と席替えを,毎月行っているとのこと。ゲームでも,先に二塚氏が紹介した「ドットハック セカイの向こうに」同様,立ち上げ時期の数人レベルからピーク時の百数十人レベルに至るまで,人数が目まぐるしく変わっていくそうだ。

 松山氏は,「社会に出てからも勉強し続けないと,一線級では戦えない」と,学生達にアドバイスをした。“学校の勉強”とは違い,好きなことだから頑張れる,つらくはないと松山氏は話す。それができないのであればクリエイターとしては成功できないし,目指すべきではないと語っていた。
 サイバーコネクトツーでは,インターネットや本だけでなく,「人が持っている“情報”が一番ためになる」「情報を制した人間が勝つ」という考えから,外の会社,別の業種との交流会を必ず年12回以上実施。2011年は計18回の交流会を行ったそうだ。
 また,これらの事例では,「何においても“下”には合わせないこと」が大事だという。自分達が学ぶ価値のある“上”の人々との交流でなければ,実施する意味がないというわけだ。

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 講義として話題に上がったテーマに関するレポートは以上となるが,講義後には,松山氏と二塚氏が,東京本部校の学生達の質問にその場で答える時間も設けられた。筆者もそれを聞かせてもらったので,その中からいくつかのトピックをピックアップして,以下に掲載しておこう。

画像集#039のサムネイル/サイバーコネクトツーの松山 洋氏,二塚万佳氏が劇場用3Dアニメ「ドットハック セカイの向こうに」を語る。学生向けに実施された特別講義をレポート

 まず,「.hack」シリーズは,大枠として同じことの繰り返しなのではないか,という質問について。
 松山氏はこの疑問に対し,シリーズ物を作るうえでは,“予定調和”を繰り返す部分があると説明。「.hack」におけるそれは,「The World」というオンラインゲームであり,そこで起きるデジタルハザードであり,中心となる中学生くらいの子供達であり,“大人は分かってくれない”という状況で,子供達が世界を救うことなのだという。
 なお,作品を特徴付けるキーワードがあり,それは「.hack//G.U.」ではGrow Up(成長)であり,「.hack//Link」では絆だった。「ドットハック セカイの向こうに」では,「僕たちは,思ってる以上につながってるのかもしれない」というメッセージが,それに当たるそうだ。

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 松山氏は最初,「映画をやる」という話になったとき,オリジナルの企画書を用意していたそうだ。しかし,バンダイナムコゲームス 代表取締役副社長の鵜之澤 伸氏に,映画においても「実績を作ってから,オリジナルで好きなことをやりなさい。せっかく『.hack』というIPがあるのだから,それで映画をやろう」と逆に提案してもらったことで,「.hack」の映画化が決まったのだという。

 「.hack//感染拡大 Vol.1」〜「.hack//絶対包囲 Vol.4」や「.hack//G.U. TRILOGY」に収録されていたパロディモードは,「ドットハック セカイの向こうに」にも用意されるのか,という質問もあった。これに対する松山氏の答えは「NO」だ。
 説明しておくと,「パロディモード」とは,本編と同じ“絵”を使いながらもセリフを差し替えて新規収録した,お遊び要素である。
 松山氏によれば,「.hack//感染拡大 Vol.1」〜「.hack//絶対包囲 Vol.4」でパロディモードを入れたらユーザーに怒られ,「.hack//G.U.」で取ったら別のユーザーに怒られ,「どっちやねん! と言いたくなった」と,冗談を交えつつコメントしていた。
 松山氏はこのことに関連して,“けなす情報”も大事だと学生達に語っていた。
 ゲームに限らず,エンターテイメントコンテンツの多くはすべてのユーザーを満足させることは難しく,売れれば売れるほど,“叩く人”もまた増える傾向にある。ただ,叩かれるということは,注目されていることの裏返しであり,また,そこから得られるものも少なくない。決してマイナス面だけではない,という捉え方をしているわけだ。
 松山氏曰く,クリエイターにとって一番残酷なのは,関心を持たれないことだという。たとえば松山氏が,「NARUTO -ナルト-」のゲームを作っています,「.hack」の映画を作っていますと言っても,相手がそれを知らなければ,そこからは何も生まれないからである。

画像集#049のサムネイル/サイバーコネクトツーの松山 洋氏,二塚万佳氏が劇場用3Dアニメ「ドットハック セカイの向こうに」を語る。学生向けに実施された特別講義をレポート

 なお松山氏は,クリエイターを目指すのであれば,評判の良いものだけでなく,悪いものも見ておくべきだとコメントしていた。筆者が思うに,何がまずいのかを把握し,「自分だったらこうする」と考えることも,自分の糧になるということだろう。
 松山氏がこれほどまでに強く主張するのは,クリエイターは子供達に夢を与えるものであり,その夢を壊すようなことがあってはならない,という考えが根底にあるからである。
 松山氏自身,子供の頃に高いお金を払って“残念なゲーム”を掴まされたことは鮮明に覚えており,その開発者は今でも許せないと話していた。転じて,クリエイターになるということは,それだけ確固たる意志を持ってコンテンツを制作し,責任を持つべきだということだろう。

 クリエイターとしては,話題になる作品作りを心がけることは必須であり,そのために,話題になっている“旬”のコンテンツの研究は欠かせないとも松山氏は述べた。
 たとえばアニメなら,多くても1クールに40本程度であり,そのすべてをチェックするのは当たり前とのこと。当然,すべての番組を全話通して見る必要はなく,その中から「見るべきもの」を選別していっていいのだが,見ていなければ評価はできないし,何が受けて何が注目されるのか,分析もできないということである。
 加えて,視聴率の高いバラエティ番組や,業界No.1と言われる雑誌といった媒体にも目を通すべきだとアドバイスをしていた。
 たとえば雑誌では,コロコロコミックの発行部数は約95万部,週刊少年ジャンプは約280万部である。総務省の統計(※PDF)によれば,5〜9歳男子の人口が280万人,10〜14歳の人口が約302万人であることから,その影響力は推して知るべしであり,ヒットメーカーとしての手腕に学ぶところも多い,といったところだろうか。

画像集#051のサムネイル/サイバーコネクトツーの松山 洋氏,二塚万佳氏が劇場用3Dアニメ「ドットハック セカイの向こうに」を語る。学生向けに実施された特別講義をレポート

 松山氏自身にまつわる質問もあり,氏がゲームクリエイターになるまでの経緯も語られた。
 松山氏は小学校6年の頃,ファミコンを親に買ってもらい,弟と「マリオブラザーズ」で遊んだのが,ゲームコミュニケーションの始まりだったそうだ。“ゲームは普通に好き”というレベルで,当時は,マンガやアニメのほうがもっと好きだったと言う。
 ゲームクリエイターになったきっかけは,「ゲーム制作会社を立ち上げるから,一緒にやらないか」という友人の誘いだったとのこと。そこからゲーム業界のことを勉強した松山氏は,ゲーム業界は“若い”業界で,進化が早いことを知った。
 松山氏は,もともと何らかの「作品を作る」ことを生業にしたいと考えていたが,ゲームは総合エンターテインメントとしてなんでもできるコンテンツだと感じたことで,ゲーム業界に足を踏み入れることを決めたそうだ。それが,サイバーコネクトツーの前身となるサイバーコネクトである。
 松山氏は,当時知らないことは多かったが,知らないこと,気になることはすべて社内の仲間に聞いたと述べる。皆ゲーム業界の先輩であり生き字引きなのだから,その人達に聞くのが手っ取り早く,また最もためになるのだと学生たちに説明していた。

 二塚氏がサイバーコネクトツーに入社した経緯も語られた。
 デジタルハリウッド福岡校出身である二塚氏は,サイバーコネクトツー入社以前はCM制作などを行っており,代表作として,真島理一郎氏らと制作した「スキー・ジャンプ・ペア」などが挙げられる。
 福岡で活動していた時期にサイバーコネクトツーのことを知り,「ほかとは違うことをやっている会社」だと興味を持って,面接を受けて入社するに至ったという。
 ちなみに二塚氏は,松山氏との社長面接では「新世紀エヴァンゲリオン」の話で盛り上がり,今振り返ると,居酒屋で雑談しているような面接だったと語っていた。

 松山氏は,サイバーコネクトツーでは,単独会社説明会や学校での講義など,年間3000人から4000人の学生に話をしていると述べていた。少々古い記事であるが,以前「こちら」の記事でお伝えしたように,採用までの流れや合格・不合格の決め手,社会で通用するために学生時代に最低限やっておくべきことなどを,かなり具体的に教えている。
 今回の講義のレポートは,以上となるが,これからエンターテインメント業界に足を踏み入れようとする学生達にとっては,非常に貴重な機会になったはずだ。
 最後に,「ドットハック セカイの向こうに」の上映館一覧を掲載しておくので,クリエイターを目指している人は,近郊の上映館にぜひ足を運んでみてほしい。

画像集#050のサムネイル/サイバーコネクトツーの松山 洋氏,二塚万佳氏が劇場用3Dアニメ「ドットハック セカイの向こうに」を語る。学生向けに実施された特別講義をレポート
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劇場用3Dアニメーション「ドットハック セカイの向こうに」公式サイト

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