レビュー
シングルGPUで叩き出される圧倒的な3D性能と,消費電力を検証する
ZOTAC GeForce GTX 280
GeForce GTX 280リファレンスカード
GeForce GTX 260リファレンスカード
» “GeForce 8800の焼き直し”感が強く,パフォーマンス指向のゲーマーからすると肩すかしだったGeForce 9800シリーズの登場から,わずか3か月。新しい製品命名ルールで登場した本命を,さっそく宮崎真一氏が評価する。最上位のGeForce GTX 280,そしてその下に置かれるGeForce GTX 260は,既存のハイエンドGPUをどこまで引き離せるだろうか。
日本時間2008年6月16日10:00PM,NVIDIAは新世代のフラグシップGPUシリーズ「GeForce GTX 200」を発表した。そのGPUアーキテクチャ詳細は「(1)ワンビッグGPUの夢よ,再び?」,GeForce GTX 200と同時発表されたソフトウェア開発環境「CUDA 2.0」やGPUベースのPhysXアクセラレーションについては「(2)CUDA 2.0&PhysXでGeForceは生まれ変わる」を,ぜひチェックしてほしい。
本稿では,「GeForce GTX 280」(以下,GTX 280)と「GeForce GTX 260」(以下,GTX 260)が,それぞれ,どれだけの実力を持っているのかを,ベンチマークテストにより明らかにしてみたいと思う。
GeForce 9800 GX2を彷彿とさせる外観
280と260,最大の違いは電源仕様
まずは入手したカードの概観から紹介していこう。
今回4Gamerで用意できたのは,GTX 280搭載カードが2枚,GTX 260カードが1枚。GTX 280カードのうち1枚は,PC PartnerグループのZOTAC International製品「ZOTAC GeForce GTX 280」(型番:ZT-X28E3LA-FSP)で,これは同社および販売代理店であるアスクの協力で手に入れている。また,残る2枚はNVIDIAのリファレンスカードで,これらは4Gamerが独自に入手したものだ。
ZOTAC GeForce GTX 280 メーカー:ZOTAC International 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 予想実売価格:8万円台後半(2008年6月16日現在) |
GTX 260リファレンスカード |
写真右に見えるファンで吸気し,ブラケット部のスリットから排気する仕様 |
カード裏面もカバーで覆われている。PCケース内部に向けた排熱スリットはごくわずかだ |
カード長は約267mm(突起物除く)で,これは「GeForce 8800 GTX」(以下,8800 GTX)や「GeForce 9800 GTX」(以下,9800 GTX)と同じ。ミドルクラスのグラフィックスカードとは比べるまでもなく巨大だが,極端に大きいというわけでもない。
ちなみにZOTAC GeForce GTX 280には,PCI Express用の6ピン補助電源ケーブル×2を8ピンに変換するケーブル,そして4ピンのデバイス用電源ケーブル×2を6ピンに変換するケーブルがそれぞれが用意されていた。
カバーやGPUクーラーを外すと,カード本体が姿を見せる。同じくカバー仕様の9800 GX2と比べると,GPUクーラーの取り外しはかなり容易だった。液冷ヘッドなど,より冷却性能の高いクーラーに取り替えたいときも,そう難儀することはなさそうである。
GTX 280のカード | ||
こちらはGTX 260。カード上のメモリチップが,表裏それぞれ1枚ずつ少ない。また,電源周りの部品実装点数も若干少なめ |
G92/G94コアを採用する最近のGeForce 8/9シリーズでは,NVIOがGPU内部に取り込まれていたので,GT200でまた追い出された格好になるが,これはGPUのダイサイズを少しでも減らしたかったのと,GT200のメインターゲットとなる並列コンピューティング市場ではあまり必要とされない機能だからではなかろうかと思われる。
GTX 280およびGTX 260は専用ドライバで検証
GeForce 8/9シリーズのハイエンドと比較
一通りカードを眺め終えたところで,テストに入っていこう。
冒頭で述べたとおり,今回はGTX 280カードを2枚入手できているため,GTX 280についてはシングルカードとSLI構成でのスコアを取得する。GTX 260はシングルカードのみだ。TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.2.3)でGTX 280とGTX 260のスペックを確認すると,動作クロックはいずれもリファレンスどおりだった。
このほかテスト環境は表1のとおり。SLI環境でのテストを行うため,マザーボードには「nForce 780i SLI」チップセットを搭載するASUSTeK Computer製品「Striker II Formula」を用いた。
ところで今回,GTX 280/260用としてNVIDIAからレビュワー向けに配布されたグラフィックスドライバ「ForceWare 177.34」は,両GPU専用版。そのため,既存のGPUのテストには「ForceWare 175.16」を用いており,バージョンが異なっているので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
ちなみにForceWare 177.34は「NVIDIA PhysX」非対応で,さらに別途nForce 780a SLIマザーボードで試した限り,HybridPowerも非対応だった。このあたりは,一般ユーザー向けとなる今後のアップデートできちんと対応されることを望みたい。
最後に念のため,GTX 280/260と,比較対象となるGPUのスペックを表2にまとめておいた。今回テスト対象としていない「GeForce 8800 Ultra」も入れておいたので,興味のある人は参考にしてもらえれば幸いだ。
高解像度&高負荷に強いGTX 280/260
9800 GX2並みのスコアを1GPUで叩き出す
グラフ1〜2は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)から,「標準設定」のスコアである。高解像度になるにつれ,9800/8800 GTXに対するGTX 280とGTX 260の優位性がはっきりしてくる一方,デュアルGPUカードの9800 GX2には及ばないのも見て取れる。
ただし,4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」では(それでもGTX 280が9800 GX2に及ばない事実は覆らないが)9800/8800 GTXに対するGTX 280/260の強みは大きくなる(グラフ3,4)。面白いのはGTX 280/260のスコアが高解像度でもほとんど落ちない点で,シングルGPU構成ながら,まるでSLI構成のような傾向になっている。
グラフ5〜7は,3DMark06の標準設定,1280×1024ドットで「Feature Test」を実行した結果だ。ここではカードの得手不得手を見ることもあって,シングルカード構成のみをテストしているが,まずFill Rateでは,Single-Texturingでほぼ,ROPユニットの数やテクスチャユニットの数に応じたスコアになっている。やはりGTX 280の従来換算32ROPsは効いている。一方,よりテクスチャユニットの数が効いてくるMulti-Texturingでは,2GPU構成の9800 GX2がやはり強いが,GTX 280が8800 GTXの2.5倍近いスコアを出している。
Pixel ShaderとVertex Shaderのスコアは,その数値よりも,むしろ傾向に注目したい。Vertex Shaderのスコアはまるで振るわないが,Pixel ShaderのスコアはGTX 280が9800 GX2に迫り,GTX 260も9800 GTXより40%も速いのだ。統合型シェーダアーキテクチャを採用するGTX 280/260なので,3DMark06で見せる傾向がそのままほかのゲームタイトルでも当てはまるわけではないが,GTX 280/260で,Pixel Shader性能を相当意識したドライバチューニングが行われているのは非常に興味深い。
実際のゲームアプリケーションでのパフォーマンスはどうだろうか。まずは「Crysis」のGPUベンチマークテスト「Benchmark_GPU」から,標準設定のスコアをグラフ8,9にまとめた。
Crysisは,低解像度でSLIの効果が出にくいタイトルだが,こうなるとシングルGPU仕様となるGTX 280/260のスコアが光る。とくにGTX 280は,1920×1200ドットで平均40fpsを維持。二つのスコアを横断的に見ると分かるが,このスコアは9800 GTXのSLI構成時とほぼ同じだ。
高負荷設定では,グラフィックスメモリインタフェースが256bitに留まるGeForce 9の2製品が大きくスコアを落とすのに対し,GTX 280/260は安定して高いスコアを出している(グラフ10,11)。とくに,GTX 280のシングルカードがすべての解像度で8800 GTXのSLIを上回っているのは,素直に驚くほかない。512bitメモリインタフェースと32基のROPが,極めて有効に機能しているといえるだろう。
続いては,標準設定のスコアのみとなる「Unreal Tournament 3」。結果はグラフ12,13にまとめたが,シングルカードにおいて,9800/8800 GTXは順当にスコアを落としていき,1024×768ドットと1920×1200ドットでは40〜50fpsほどの差が出ているのだが,GTX 280では15fpsしか落ちていない。
一方,SLIではUT3の描画負荷が低すぎて,2基のGPU間で生じる調停がボトルネックになってしまう。少なくともUT3において,SLI構成を利用するメリットはなさそうだ。
もう一つFPSから,こちらも描画負荷は比較的軽めの「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2EP2)。グラフ14,15に示したHL2EP2の標準設定では,正直,8800 GTXでもプレイには何一つ支障がないものの,スコアで見るなら,1600×1200ドット以上でGTX 280/260のスコアが突出する点に注目したいところだ。
高負荷設定でも傾向は同じ(グラフ16,17)。ただ高解像度では,GeForce GTX 200シリーズとGeForce 8/9シリーズのスコア差が拡大する。
描画負荷が高く,かつSLIへの最適化が進んでいるTPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)における,標準設定のスコアをまとめたのがグラフ18,19である。SLIへの最適化が進んでいることもあって,標準設定では9800 GX2が強く,その意味では3DMark06とよく似ているが,GTX 280がSLI構成で見せるスコアの伸びは秀逸だ。
高負荷設定時も,傾向はあまり変わらないが,シングルカード時に1280×1024ドットでGTX 280が9800 GX2をわずかに逆転するのは見逃せない(グラフ20,21)。ロスト プラネットのような,グラフィックスメモリ負荷の高いタイトルの高負荷時にスコアが落ちにくいのは,メモリ周りやROPユニットにボトルネックが少ないことの証左といえそうだ。また,SLI時のスコア差は標準設定よりさらに拡大しており,1920×1200ドットでは9800/8800 GTX比で70%も速い。
また,9800 GX2の存在があるので目立たないが,GTX 260のスコアも相当優秀である。
RTS「Company of Heroes」の結果から,標準設定のスコアをまとめたのがグラフ22,23だが,傾向は3DMark06やロスト プラネットと比較的似た印象だ。高解像度でGTX 280が9800 GX2に若干置いて行かれているのは,ロスト プラネットほどにはCompany of Heroesのメモリ負荷が高くないためと思われる。
高負荷設定でも傾向は変わらないが,SLI構成時に1920×1200ドットで200fpsを超えているのはなかなか強烈だ(グラフ24,25)。
消費電力も圧倒的なGTX 280/260
ただし,アイドル時はかなり低い
GTX 280の消費電力は公称236W。GTX 260も182Wで,いずれもかなり高い。NVIDIAはシングルカード動作時において
- GTX 280:12V出力が40A以上ある550W電源ユニット以上
- GTX 260:12V出力が36A以上ある500W電源ユニット以上
の利用を推奨しており,電源ユニットに対する要件はかなり高い。
では実際に消費電力はどの程度なのだろうか。消費電力変化のログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用してシステム全体の消費電力を測定し,その結果をまとめることにした。
今回は,OSが起動してから30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,タイトルごとにスコアを取得している。
ここで気をつけてもらいたいのは,ゲームによってCPU負荷が異なる点だ。例えば3DMark06とCompany of Heroesでは,CPU負荷が異なるため,「消費電力が高いアプリケーション=グラフィックス描画負荷が高いアプリケーション」ではない。あくまで,ゲームをプレイするうえで,どれくらいの電力を消費しているのかの目安としてみてほしい。
というわけで,結果をまとめたのがグラフ26である(※巨大になるため,バーにスコアを書き込んだものは別ウインドウで表示させることにしました。具体的なスコアをチェックしたい場合は,グラフの画像をクリックしてください)。
まず気づくのは,アイドル時において,GTX 280/260のスコアが非常に低い点だ。スコアは実に150W前後で,9800 GTXすら下回る。その低さは,「ノートPC用GeForceファミリーで採用する省電力機能「PowerMizer」を採用したのでは?」と思えるほど。
ただ,負荷がかかると,消費電力は一気に増大する。ゲームによって多少のバラ付きはあるものの,GTX 280搭載システムが320〜330W,GTX 260搭載システムが310W前後で,9800 GTXと比べて40〜50W増している計算になる。また,SLI構成時にはトータルで600Wを越す例も見られ,電源ユニットには相当酷なGPUであるといえよう。
もっとも,GTX 280シングルカードの消費電力が9800 GX2のそれを下回っているのは,一点の光明といえるかもしれない。
最後に,アイドル時と,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,GPU温度取得機能を持つ汎用ユーティリティソフト「ATITool」(Version 0.27 Beta 3)でGPUの温度を取得した結果がグラフ27である。テスト環境は,PCケースに入れていない,バラックの状態で検証した結果になる。
GTX 280のスコアを見てみると,アイドル時のGPU温度は50℃程度とかなり低い。しかも,ファン回転数は40%(実測で710rpm前後)まで下がり,はっきり言って静かだ。
ちなみにリファレンスクーラーのファンは,GPU温度が90℃に達するとファン回転数が80%まで引き上げられる(同1300rpm前後)が,こうなると動作音はかなりのもの。今回,GTX 280は高負荷時にも80℃を下回って運用されていたので,よほど劣悪な温度環境でなければ,ここまで回転数が上がることはまずなく,そううるさくもないが,最悪の場合は,かなりの騒音になる可能性がある。
なお,GTX 260のスコアが若干おかしいが,何度かクーラーを付け直しても値は変わらなかったので,カードや温度センサーの不具合によるものなのか,別の要因があるのかは,現時点では判断できない。しかし,明らかに異常なのは確かなので,今回は参考程度に見て貰えれば幸いだ。消費電力のスコアはGTX 280に準じたものになっているので,製品版のGTX 260では,おそらくGPU温度も上位モデルに準じたものになると思われる。
ようやく登場した,8800 GTX正当後継
コスト度外視なら間違いなく買い
ネガティブなデータを出してみると,まず消費電力面はかなり厳しい。電源ユニットを選ぶだろう。(ここまでとくに触れてこなかったが)ビデオ再生周りでは,G94(=GeForce 9600 GT)と同じ第2世代のPureVideo HDから,新しくなった部分が何一つない点も気になる。また,販売代理店筋の情報を総合するに,GTX 280の店頭価格は8〜9万円程度になる見込みだ。GTX 260も6万円前後になる気配で,下位モデルらしいコストパフォーマンスからは縁遠そうである。
NVIDIAによれば,2008年7月にはPhysX対応ドライバがリリースされる予定で,それも買い換えの“トリガー”としては悪くない。
GTX 260はその立ち位置からしてコストパフォーマンスが求められるため,正直,このままでは厳しいと思うが,フラグシップのGTX 280なら話は別。コスト度外視で高い性能を求めるハイエンド指向のユーザーに向け,久しぶりに手放しで「買い」と勧められるGPUだ。
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