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[GDC 2011]ゲームは生活のさまざまなところに入り込んでいる。研究者の提唱する「スマート・ゲーミフィケーション」の時代
今年のシリアスゲーム・サミットで,突然のように熱く語られだしたのが,「ゲーミフィケーション」(Gamification)という業界の最新用語だ。
ゲーミフィケーションについては,以前の連載記事「奥谷海人のAccess Accepted 第284回:ゲームが社会の一部として活用される時代」で言及しているので,興味のある方は先にそちらを読んでいただくのがいいだろう。要はゲーム的な要素を,本来ゲームとは関係のないコンテンツやサービスに当てはめて,ユーザーの興味を獲得しようという考え方である。
現在キム氏は,ゲーミフィケーションという用語が一人歩きし,ただの流行語として終わってしまうことを懸念しているようで,今回「Smart Gamification: Virtual Systems Shaping the Physical World」(スマート・ゲーミフィケーション 〜 現実世界を作り出すバーチャルなシステム)というテーマで,ゲーミフィケーションの体系化を促している。
キム氏は,まずゲーミフィケーションが利用されるコンテンツには,MMORPGのようなゲームと同じように,いくつかのフェーズが当てはめられるべきだと説いている。
それはつまり,「ノービス」(初心者)向けには,誰でも入り込みやすいように極力スタート時のハードルを低くする「オンボーディング」(onboarding)の要素を忘れず,「エキスパート」には,新しいコンテンツを次々と提供していくことを忘れず,さらに「マスター」達には特別会員システムのような,エクスクルーシブな地位を与えるようにするという,段階を踏んだサービスを心がけるということである。
またキム氏は,ゲームの良さである「流動性」(ダイナミクス)と「システム性」(メカニック),そして面白味を探求する「美学」(エステティックス)の3つのバランスを考慮すべきとしつつ,人工知能の研究者として知られるリチャード・バートル(Richard Bartles)氏が1996年にオンラインゲームの調査により提唱した「Bartles’ Player Types」論に当てはめる。
すなわち「Achiever」(業績追求タイプ),「Explorer」(探検家タイプ),「Killer」(悪行タイプ),そして「Socializer」(社交家タイプ)の4つのカテゴリーにおいて,どのタイプをターゲットにするのか自分のコンテンツを明確にしたうえで,プレイヤーの旅(ジャーニー)を演出するようなサービスを展開するべきだというのだ。
また,今回のセミナーには,ゲーミフィケーションを利用したサービスを展開する企業から2名のゲストを迎え,その具体例について紹介した。
1人目は,モバイルゲームの開発会社として名の知られた,Booyahのブライアン・モリソロー(Brian Morrisoroe)氏だ。現在,スマートフォンのGPS機能を利用した「MyTown」などのサービスで人気を獲得している同社だが,実はアメリカのiPodにデフォルトでインストールされている「Nike +」を委託開発したメーカーでもある。
このNike +は,iPodを万歩計のように利用するアプリで,プレイヤーの走行距離の累計をデータ化したり,世界各地で行われる1万Kmマラソン大会にシンクさせたりというようなゲーミフィケーションを取り入れたサービスを行い,「ランナーご用達のミュージックプレイヤー」としての,iPodの地位を確固たるものにしたサービスなのだ。
2人目のゲスト,フィオナ・オドーネル・マッカーシー(Fiona O‘Donnel McCarthy)氏は,インターネットで徐々に人気を集めているファッションブランド,「ModCloth」のプロダクトマネージャー。
ファッション業界からのGDC参加は初めてのことではないかと思われるが,このModClothでは,「Be the Buyer」と呼ばれるプログラムが行われ,デザインされた試作サンプルに対してユーザーが投票を行い,実際に売り物にするかどうかを決定するというゲーミフィケーションが行われている。
投票させることで消費者のニーズが分かるだけでなく,実際に「自分が商品化に関わっている」という気分を味わってもらうことで,購買意欲を高めようというシステムになっている。それぞれ6000〜8000の投票と,200〜500程度のコメントを集めており,商品化された衣服に投票した人には,購買の際に優先権を与えるといったことをしているのも面白い。
スポーツはゲームと相性のいい分野であるが,ファッションまでゲーム化させるという試みは非常にユニークなもの。先の連載記事中でも,教育分野や食品業界にゲーミフィケーションが派生していることは述べたが,今回紹介された事例を含め,今後しばらくゲーミフィケーションの波が我々の生活に押し寄せてくるのは間違いなさそうだ。
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