MSIは,COMPUTEX TAIPEI 2008の同社ブースにおいて,同社の
「DrMOS」ブランドを拡大していく姿勢を明確にした。
今回は,MSIでP45マザーボードのプロダクトマネージャーを務めるJoseph Shih氏に,マザーボード製品ついての話を聞いた
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DrMOSについては
2008年5月16日の記事で紹介されているが,あらためて説明しておくと,「ハイエンドサーバーなどで採用されている,MOSFETとドライバICをシングルパッケージに統合した
『Driver-MOSFET』を採用するPWM回路」に対してMSIが名づけた,マーケティングブランドである。「Intel P45 Express」(以下,P45)など,Intel 4シリーズチップセットの上位モデルで採用される。
Driver-MOSFETでは,MOSFETを駆動するドライバICを同一チップ内に格納することで,MOSFETのシームレスなオン/オフ切り替えを実現してエネルギー変換効率を高めるとともに,リーク電流も低減させるため,発熱量を大幅に低減できる。MSIのDrMOS搭載製品では,ルネサス テクノロジ製となる第2世代のDriver-MOSFET,「R2J20602NP」が採用されている。
DrMOSを搭載するP45マザーボードの「P4S8D」。5月16日の記事で,製品名が明らかになっていなかった,DDR3/DDR2コンボ仕様の製品だ。DrMOSチップ上には,触れても熱くないという意味を込めた「DrMOS Touch」という文字が刻まれた小型ヒートシンクが取り付けられている
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MSIに限らず,マザーボードベンダーはマザーボードに省電力機能を実装するのに熱心だが,流行は,PWMコントローラベンダーの技術を利用したソリューション。実際のところ,MSIもDriver-MOSFETの採用だけでなく,負荷に応じてフェーズ数を切り替えることで,さらに効率的な電力変換を実現する。DrMOSは“Driver-MOSFETを意味するMSI語”というより,総合的な省電力ソリューションと捉えるべきだろう。
P45マザーボードのフラグシップモデルとなる「P45 Diamond」。DrMOSや,液冷への対応が目を引く(※液冷ユニットは付属しません)。Sound Blaster X-Fi Xtreme Audio相当のサウンドカードが付属するのも特徴だ |
DrMOSと,従来のPWM回路に採用されていたMOSFETの違い。DrMOSではドライバICとTop-MOSFET(High-side),Bottom-MOSFET(Low-side)を一つのパッケージに収めることで,パワーロスを最小限に抑え,高い電源変換効率と低発熱性を両立する |
DrMOSの機能を整理する
もう少し踏み込んで説明すると,DrMOSは,以下の3機能(もしくは技術)からなる。
- GreenPower
- XpressCool
- RapidBoost
P45D3 Platinum。DDR3メモリに対応し,「Circu-Pipe」チップセットクーラーを搭載するハイエンドモデルとなる |
P45D3 PlatinumはIntersil製のPWMコントローラ「ISL6336A」を採用し,6フェーズPWMの動的な制御を実現する。同コントローラは,GIGABYTEブランドのマザーボードが持つ省電力機能「Dynamic Energy Sever」で採用されているものと,同じシリーズの製品だ |
順に見ていくと,まずGreenPowerは,Driver-MOSFETの採用による高効率の電力変換と,駆動するMOSFETの数(=フェーズ数)を負荷に応じて動的に制御するフェーズチェンジ機能により,高い電力変換効率を実現すると謳われる,省電力技術の総称だ。「P45D3 Platinum」マザーボードでは,電力変換効率は最大93.1%に達するという。
一般的なマザーボードのPWM回路では,Top-MOSFET(High-side),Bottom-MOSFET(Low-side)の二つをドライバICが制御し,12Vの入力をMOSFETが流したり流さなかったりというスイッチングを繰り返すことで,1.3Vの交流電力(AC)を作る役割を果たす。マザーボードのVRM回路は,このMOSFETが作り出した1.3Vの交流電力を基に微調整しながら,CPU駆動に最適な電圧のDC電力に変換する仕組みだ。このとき,一組のPWM回路で作り出せる電力には限りがあるため,複数のPWMを組み合わせて,より多くの電力を作り出すことになる。そこでGreenPowerでは,CPUがあまり電力を必要としない場合に,駆動するPWMの数を減らすことで,電力変換効率を高める役割を果たしている。
DrMOSが持つ三つの特徴をまとめたスライド(左)と,GreenPowerの特徴を示したスライド(右)。最適なPWMコントロールを可能にすると謳われる
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XpressCoolの特徴 |
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RapidBoostの特徴 |
続いてXpressCoolは,「DrMOSで採用するDriver-MOSFETでは,電力変換に必要な回路がチップ内に収められているため,電力変換のロスを最小限に抑えられるだけでなく,発熱も低くできるというメリット」に対する呼称。電力変換ロスが少ないということは,熱に変換される量が少ないということなので,こういえるわけである。従来型のMOSFET採用型PWM回路と比べて,DrMOSでは30%もの温度低下を果たしており,フルロード時にもDrMOSチップを指で触れるほどである。
だが,「Driver-MOSFET以外の部分の発熱にも対処するためと,マーケティング上の理由により」(Shih氏)多くのDrMOSマザーボードでは,ヒートパイプを用いた大がかりなファンレス冷却システムを搭載する。
最後にRapid Boostだが,これは「MOSFETとドライバICが同じパッケージに収められているから,入力電流の変化に対して素早く応答できるというメリット」に対して与えられた名前だ。Driver-MOSFETでは,電流量が急激に増減するときに生じる,出力電圧の変化も非常に少ない。そのため,CPUの駆動電圧変化に素早く対応可能で,CPUなどのオーバークロック性能も最大限に引き出せるとMSIはアピールしている。
AMDプラットフォーム,そしてグラフィックスカードへ
拡大するDrMOSソリューション
冒頭で述べたとおり,MSIはDrMOSソリューションを広げていくが,そのターゲットは,AMDのAM2+プラットフォームとグラフィックスカードになる。
AMD 790GXチップセット搭載のK9A2GX Digitalは,AMDプラットフォームとして初めてDrMOSを搭載したモデルとなる。MSIらしくない(?)青い基板を採用するのも特徴
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DrMOS対応のAM2+プラットフォーム用マザーボード第1弾となるのは,2008年第3四半期に市場投入予定となっている,「AMD 790GX」グラフィックス機能統合型チップセット搭載マザーボード
「K9A2GX Digital」だ。
なぜAMD製CPU対応マザーボードにおけるDrMOS採用がトピックになるかというと,前出のルネサス テクノロジ製Driver-MOSFETは,
同社のWebサイトにあるドキュメント(※クリックするとPDFファイルのダウンロードが始まります)を見ても分かるように,Intelプラットフォームに最適化された製品だからだ。さらにPhenomに対応したAM2+プラットフォームでは,CPUコアと,CPU内蔵メモリコントローラなどのノースブリッジ機能部に対して,別々の電圧を供給する必要がある。
Driver-MOSFET×2,ダイレクトMOSFET×3の5フェーズPWM構成を採用するK9A2GX Digital
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そこでMSIが採用したのは,CPUのVRMに5フェーズのPWMを採用するK9A2GX Digitalにおいて,そのうちの2フェーズのみDrMOSを採用し,残る3フェーズには従来どおりの単体MOSFETを組み合わせるという,ユニークな実装だ。
「動的にPWMフェーズ数を制御することで省電力性能を高めたマザーボード」というのは,別にMSIが初めてではない。しかし,こうした技術は,いずれもIntelプラットフォームでの実装。2種類の電圧を作る必要のあるAM2+プラットフォームで,PWMの動的な制御は難しく,COMPUTEX TAIPEI 2008の会場でも,少なくとも4Gamerで取材した限り,MSI以外からAM2+プラットフォーム向けの省電力技術採用マザーボードは披露されていない。
AM2+プラットフォームに最適化されたPWMコントローラであるISL6323Aを搭載。同コントローラは4フェーズの制御機能もサポートする
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もっとも,いくら省電力機能を実装したところで,CPU負荷が低いときの電力変換ロスを抑えられなければ意味がない。そこでMSIは,DrMOSが持つ,電圧変更に対する応答性の良さを生かす方向のアプローチを採用したようだ。また,CPUコア用に電力を供給する4フェーズを動的に制御する機能を持ったIntersil製のPWMコントローラ「ISL6323A」を搭載していたことから考えるに,K9A2GX Digitalでは,GreenPowerによるフェーズ数コントロールをサポートする可能性が高そうである。
なお,K9A2GX DigitalにおけるDrMOSの実装が,(RapidBoostによる)オーバークロック性能の向上といった恩恵につながるかどうかだが,さすがにこれは,実際にマザーボードが市場投入されるのを待つほかなさそうだ。
DrMOS採用グラフィックスカード
「N9600GT Diamond 2G」
金色のカバーが外観上の特徴となる,GeForce 9600 GT搭載のフラグシップモデル「N9600GT Diamond 2G」
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続いてグラフィックスカードについてだが,MSIが公開した
「N9600GT Diamond 2G」は,「Hybrid Freezer」技術を採用する,フラグシップモデルになる。
Hybrid Freezerは,システムがアイドル状態,あるいは2D処理が多いときはGPUクーラーのファンを停止し,3D処理の負荷が高まってGPUの温度が90℃を超えるとファンの回転が始まるという,準ファンレスともいえる冷却機構。同技術を採用した「GeForce 9600 GT」搭載グラフィックスカード「N9600GT Hybrid Freezer」は国内でも販売されているが,N9600GT Diamond 2Gでは,Hybrid Freezerに加え,カードのPWM回路にDriver-MOSFETを採用することで,さらなる低消費電力&低発熱化を図ったモデルになる。
すでに販売の始まっているN9600GT Hybrid Freezer。単なる準ファンレスではなく,一般的なヒートパイプより1mm太い6mm径のヒートパイプを採用し,フィンを溶かして固定するなど,冷却能力への配慮が見られる
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MSIのグラフィックスカード担当プロダクトマネージャーであるMatt Su氏は,「Hybrid FreezerとDrMOSは,ミドルクラスPCゲーマーにとっての最適解だ。コアゲーマーと違い,ミドルクラスのゲーマーは,必ずしもPCをゲームのためだけには用いない。ゲーム以外の,3D性能をそれほど必要としないときには,静かに,かつ低消費電力でPCを利用したいというニーズに応えた製品になる」と,N9600GT Diamond 2Gを紹介する。また,ファンが常時回転しないため,ホコリが溜まりにくく,いきおいカードの寿命も伸びるという。そう頻繁にグラフィックスカードを買い換えたりはしない,ミドルクラスのPCゲーマーに向けた配慮というわけだ。
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N9600GT Diamond 2GのPWM部(左)。コンデンサの奥に見えるのがDriver-MOSFETだ。N9600GT Hybrid FreezerのPWM部(右)と比べると,回路構成もシンプル |
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COMPUTEX TAIPEI 2008の会場にあったデモ機を使い,GreenPower Centerから1フェーズ動作に切り替えてもらった。切り替えたことで何Wの消費電力削減を行えたかなどを,リアルタイムで確認できる |
ブラケット部に見える赤いボタンが「Turbo Button」。DVI-I×2に加え,HDMI×1,DisplayPort×1という充実したインタフェースにも注目したい
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さらにN9600GT Diamond 2Gには,ブラケット部にOCボタンが用意され,ワンプッシュでグラフィックスカードをオーバークロック動作させることができる。オーバークロックに当たって,システムの再起動は一切必要ないとのことだ。
依然として4GBというメモリI/Oマップの壁が残る32bit OSを利用するユーザーが多いことを考えると,グラフィックスメモリ容量2GBという仕様をどう評価すべきかは悩むところだが,静音性と省電力性,オーバークロック性能の3拍子を兼ね備えたN9600GT Diamond 2Gが,ミドルクラスGPU市場において,かなりの異彩を放つ個性的な製品とはいえるだろう。