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ゲーム業界に求められるプロデュース能力とは。業界を影から支え続けるトーセの代表取締役兼CEO齋藤氏によるデジタルハリウッド大阪校での特別講義を取材
同社は1979年に設立された京都に本社を置くゲームソフト開発会社で,アーケードゲームの生産に始まり,1983年以降はファミリーコンピュータなど,今日のゲームの主流となるコンシューマゲーム作品の企画開発を行い,1999年以降は,モバイルコンテンツの企画開発・運営にも携わっている。自社での販売は一切行わず,基本的にゲームメーカーから開発を受託する形を取っていることが特徴だ。トーセの社名はゲームソフトのクレジットなどにはほとんど出ておらず,どの作品の開発に携わっているかは,ほとんど公表していないので,ゲーム開発によほど明るい人でもなければ,同社を知らないのではないだろうか。
しかしトーセは,ほとんどの大手ゲームメーカーから開発を受託しており,コンシューマゲーム/モバイルコンテンツ/アーケードゲームなどを含めて,これまでに“1900以上の作品”を世に送り出している。知らないだけで,同社が携わった作品を遊んでいる人は少なくないはずだ。
さて,そんなトーセの代表取締役社長兼CEOである齋藤 茂氏が,2011年3月22日にデジタルハリウッド大学院大阪キャンパスにおいて,同校に併設された専門スクールとなるデジタルハリウッド大阪校の2校共同開催で,特別講義を行うという。どのような講義内容だったのかをレポートしよう。
講義は2部制に分かれ,1部ではゲーム産業の歴史を解説しながら,トーセという会社の強みや特徴,31年もの長きにわたり黒字経営を続けられる理由などを紹介,2部では齋藤氏とデジタルハリウッド大学大学院専任准教授 高橋光輝氏により,「業界に求められるクリエイティブ能力・プロデュース能力とは?」をテーマにした対談が行われた。
ゲーム業界を影から支え続けるトーセ
いったいどういう企業なのか?
そんなトーセの特徴は,先ほど紹介したとおり,多くの有名大手ゲームメーカーや中小ゲームメーカーの“縁の下の力持ち”に徹しているところだ。
トーセはこうしたメーカーに対して,企画の提案,ソフト開発,情報の提供を行い,そしてトーセの直接の顧客であるメーカーからは,開発売上とロイヤリティ売上,運営売上による収益,そして「情報」を得ているのだという。
ここでとくに重要なのが,各メーカーから得られる情報だ。例えば,メーカーがどのハードウェアに期待しているのか,発注の仕方などからだけでも読めてくるだろう。これが2社間であれば,その開発会社はメーカーの考えで戦略を練ることになるが,トーセの場合は特定メーカーだけの受託を行っているわけではないので,より広い範囲からの情報が得られているわけだ。そうして得られた情報は,トーセが企画を提案するときに戦略を練るための,大きな武器になる。
齋藤氏はこの状況を“近未来のことが分かる立場”だと話し,それ故にハズレがないのだと語る。こうして,メーカーに比べれば一つ一つの利益は大きくないものの,情報を有効活用することで,トーセという企業は31年連続黒字経営という結果を生み出しているわけだ。
また,トーセは異種業とのコラボレーションを,““縦の異業種交流”と呼び,積極的に仕掛けている。コラボと言えばメーカー同士が横で繋がるというイメージだが,トーセはコラボを仕掛けるときに,各社から必ず受注が請けられる縦の繋がりを保つ戦略をとっている。ここでも,展開の前面に出るのは,コラボによって横に繋がる各メーカーであり,トーセは縦の繋がりに関わる縁の下の力持ちに徹しているのだ。
プロデュースに必要な能力とは。
トーセが必要とするのはどんな人材?
2部では,デジタルハリウッド大阪校の卒業生であり,現在トーセで活躍する,坂井原太郎氏のインタビューを掲載したブログを参照しながらの対談として始まった。坂井氏のインタビューはデジタルハリウッド大阪校公式サイトの「こちら」に掲載されている。興味がある人は確認してみよう。
坂井氏は,デザインに関する現場監督の一人で,デザイナーの採用面接や,新人教育,進行管理,方針相談まで幅広く担当しているのだが,その紹介に関連して齋藤氏は,「トーセに入ると色々なことが経験できる」と話した。
“色々なこと”の一例として齋藤氏は,トーセが扱うジャンルについて説明。例えば,あるゲームメーカーに入社できたとして,そのメーカーがRPGをメインに開発していれば,入社後はRPGに関する開発をずっと続けることになる可能性が高い。しかしトーセであれば,さまざまなメーカーの作品に携わることになるため,RPGからシミュレーション,アクションといったさまざまなジャンルのゲームを制作していくことになるという。
それに対して齋藤氏は,「貪欲に情報を仕入れること,つまり“欲”」であると答えた。これは齋藤氏自身が,どこに何の本が置いてあるのか分かるくらい,本屋に毎日通って定点観測しているという経験を元にしている。本の配置を覚えることで,日々変化していく流行りすたりが敏感に感じ取れるので,その時その時にどんなものを作れば良いかを考えるキッカケになるというわけだ。
また,プロデューサー育成について聞かれた齋藤氏は,社内での育成よりも,顧客からのプレッシャーによる成長が大きいという,トーセならではの育成方法を述べた。
というのも,本来は納期が迫れば,社長である齋藤氏が「頑張れ!」「徹夜しろ!」と社員にはっぱを掛けなければならないが,トーセでは(納期を一番気にしている)顧客がプロデューサーを叱ってくれるので,自分はそれをなだめてフォローしてあげれば良いのだとか。ある意味で得をしていますと,笑いながら話していた。まあ,当のプロデューサーにとっては,そのプレッシャーは大変なもので,なんというか成長せざるを得ない状況を切り開かなければ,仕事が進まないと言うことなのだろう。
そんな“プロデューサー”の人物像として齋藤氏は,どの相手にどういうゲームを作り,どれだけ売れるかを推測し企画できる人物だと述べた。これは,先ほどの本屋の定点観測の話にも通じるもので,ターゲットを設定し,その時期に(対象のターゲット層で)流行しているものの情報をつかみ,そして発売するタイミングを測れることが必要ということだろう。
とくに原作モノなどは,流行のタイミングを見誤ると売上げが減るため,納期を優先して動かすことになる。そのため,そのゲームを100%と言えるものまで作りきれずに,ときには“クソゲー”と呼ばれたこともあると話す。しかし,(発売時期で言えば)ビジネスとしては成功なのだという。
たしかに,作品のクオリティを重視して作り込めば,より開発のための期間は長くなるだろう。その結果,発売までに流行していたコンテンツが,すたれてしまう可能性は低くはない。とくに原作モノは,そのコンテンツが盛り上がっているときに発売される/遊べることが,ファンにとっての一つの大切な要素と言えるだけに,その時期を逃すことはビジネスとして失敗という結果に繋がるだろう。
齋藤氏は,とにかく納期を優先するものと,クオリティを優先するのもので適材適所の選択が必要であり,それがビジネスの大変なところだと述べた。
ちなみに齋藤氏が話す,トーセが求めるクリエイター/プロデューサーの人材像は以下のようになっている。
■トーセが求めるクリエイター/プロデューサーの人材像
・SNS技術を持つ人
・プラス思考で前向きな人
・悩むときも,一面だけではなく多方面から考えられる人
・チームワークが取れる人
独創的なことができる人も大切だが,それは10〜100人に1人いれば良いとのこと。今や40〜50人で3年という開発期間が必要な中で,チームワークが取れないと,ゲームが仕上がらないからだ。
・自分で目標設定ができる人
経営者は目標を設定して解決し,また次の目標を設定して解決していかなければならない。最初からできるわけではなく,経験してできるものなので,入社後に必要とされる能力だ。
・継続してできる人
・コラボレーションを考えられる人
トーセでは,毎月社員からコラボレーションのアイデアを出してもらい,そこから4〜5件が選ばれ金一封が渡される。さらにそれが採用されてヒットすれば賞与が出るということだ。
・経営目線で見れる人
以上のすべてを満たしていれば即採用とのことだが,もちろんそれは非現実的だ。むしろ,こういったことを意識できる人,考えられる人を欲しているのだろう。能力は,入社してからでも高めていけるわけで,実際にトーセの中でもデバッグ要員のアルバイトからクリエイターになったり,プログラマが経営管理部門のトップになったりと,その後の努力によってポストは変化していくのだ。
今回の講義用のパワーポイント資料を作成したのも,齋藤氏の車の運転手を担当している人物だ。齋藤氏は運転手を雇うときに,よく見るような年をとっている人ではなく,運転しない間にも勉強ができるような,やる気のある若い人を選んだのだとか。彼はまだ正社員ではないが,そうしてスキルを磨いていけば,いずれは専門的知識を備えた正社員になれるのだという。
また齋藤氏は,高橋氏からの「LEVEL5を目指さないのか」という問いに,「目指しません」と返答。これは,LEVEL5のように開発会社からパブリッシャを目指さないのかという問いであり,それに対して齋藤氏は,あくまで裏方でいることを強調したわけだ。
むしろ,トーセを追い抜いて,LEVEL5のようなメーカーが多く出てきたほうがありがたいのだとか。え,ライバルに追い抜かれちゃっても良いの? と思うところだが,トーセにしてみれば,そのライバルが大きなメーカーになることで,いずれ“トーセのお客様”になってくれるからなのだ。ほかでは出ることがない,なんとも“トーセ”らしい考え方だと言えるだろう。
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