レビュー
価格改定で旧価格比ほぼ半額になったPS3対応ヘッドセットは買いか
SteelSeries Siberia v2 for PS3
今回取り上げるのは,旧価格1万5800円(税込)から7980円(税込)へと,ほぼ半額に改定されたワイヤードヘッドセット「SteelSeries Siberia v2 for PS3」(以下,Siberia v2 PS3)だ。SteelSeries製品のなかでも屈指の歴史を持つ「Siberia」(シベリア)ヘッドセットを,PlayStation 3(以下,PS3)へも対応させてきたものという位置づけの製品である。
軽量で使いやすいSiberia v2 PS3
PS3本体とマッチした,シックな色合いが特徴
SteelSeriesはとくに関連性を謳っていないが,チャコール・ブラックを本体色に採用した最新モデルのPS3(型番:CECH-3000B)と合わせたときに違和感のない色だとはいえるかもしれない。
まずヘッドフォン部は,エンクロージャ部にある金属メッシュ状や脇のスリット,円環状の溝が,オープンエア仕様であることを全力でアピールしような形状になっているのだが,実は密閉式というのが大きな特徴になっている。50mm径のスピーカードライバーを搭載することもあって,エンクロージャ自体の口径は大きいのだが,イヤーパッド(+スピーカードライバー)部に小型のエンクロージャをくっつけたような二層構造を取ることによって,全体としてコンパクトかつスマートな印象を与えようとしているものと思われる。
ちなみに,密閉型なので言うまでもないのだが,上で紹介したメッシュや,それを囲むスリット,二層構造を“らしく”見せる溝はすべて純然たる意匠であり,ここから音が漏れ出たりはしない。もっとも実際に試すと,大音量で音楽を聴いている場合,横に立っている人が何の音楽か分かる」程度には音漏れがする。低音が抜けて聞こえたりしないように密閉型エンクロージャが採用されているだけで,音漏れへの配慮はあまりない印象だ。
ヘッドバンド部は,金属製と思われるパーツに灰色のチューブを被せたパイプ2本と,テグス(≒釣り糸)風の合繊糸で支えられるヘッドバンドからなっている。この設計のおかげで,必要に応じてエンクロージャ部を耳から浮かせるようなときに必要な力は最小限で済み,装着時のバンド長調整も無段階で可能となっているため,ブリッジ部の可動範囲が小さいことはまったく問題にならない。
実際,装着感は,一言で述べて非常に軽い。実測98cm長のアナログケーブル込み重量は240gなので,アナログ接続型ヘッドセットとしてズバ抜けて軽いというわけではないから,装着感のよさが,実測重量以上に軽く感じさせているのだと思われる。
なお,ヘッドバンドはクッションがなく,スエード調加工のなされた内側がユーザーの頭に直接触れるようなデザイン。合皮製と思われる外側にはSteelSeriesのロゴがプリントされているが,これも灰色で,全体の雰囲気を崩さないものになっている。SteelSeries v2 PS3でSteelSeriesは,レトロさを感じさせつつ,シックで控えめなところを狙ってきているということなのだろう。
少し気になったのは,「無造作に装着すると,ヘッドバンドの端がパイプに引っかかる」という問題があったこと。ヘッドバンド自体がテグスで引っ張られるように支えられているだけなので,パイプ&エンクロージャ部から独立して(勝手に)動いてしまうケースがあるというわけだ。だからどうという問題があるわけではないものの,人前だとみっともないので,装着時はパイプとヘッドバンドの位置関係を気にするようにしておいたほうがいいかもしれない。
ちなみにマイクの先端部を見てみると,口側にスリットが3本用意され,口の反対側には直径1mmにも満たない空気孔のような穴が開いているが,公式の仕様が単一指向性なので,シングルマイクという理解でいいと思われる。
付属のAudioMixerがゲーム機との接続を可能に
PS3だけでなくXbox 360&PCにも対応
先端はマイク入力用とヘッドフォン出力用の3.5mmミニピン端子2系統となっているので,Siberia v2 PS3自体は,ちょっとケーブル長が短いものの,純然たるアナログ接続型ヘッドセットということになる。なので,インラインリモコンが不要ということであれば,このまま直接PCと接続して利用できる。
AudioMixerというのは,ゲームのサウンドとボイスチャット相手の声とを,文字どおりミックスしてヘッドセットへ送ってくれるデバイスのこと。通常,PS3でゲームをプレイする場合,ゲームのサウンドはテレビやスピーカーから出力し,ボイスチャットの音声だけをヘッドセットで処理するが,AudioMixerを用いると,すべての音をヘッドセット1台でまかなえるようになる。
「ゲームのサウンドに埋もれて声が聞こえにくい」という問題を回避すべく,声が聞こえるときだけゲームの音量を下げる「LiveMix」という機能も利用できるのだが,そのあたりについては後述したい。AudioMixer自体はXbox 360の純正コントローラと接続できる単体版が「SteelSeries Spectrum AudioMixer」として販売されており,今回の価格改定で2980円(税込)となっているが,Siberia v2 PS3に付属するのはインラインリモコン然としたデザインになので,「延長ケーブル付きサウンドミキサー」という説明になったというわけである。
ただ,ここで注目してほしいのは,2系統の3.5mmミニピンメス端子の間に,黒い2.5mmミニピンメス端子が用意され,「XBOX」いうシルク印刷が刻まれていること。そう,AudioMixerは,標準でXbox 360コントローラとの接続がサポートされているのだ。製品ボックスには2.5mmミニピンケーブルすら用意されているので,Siberia v2 PS3はその製品名から受けるPS3専用モデルというわけではなく,実際はPS3とXbox 360,PCのマルチプラットフォーム対応ということになる。
AudioMixerから伸びるケーブルの先端はUSB Type-Aと3.5mmミニピンに分かれている |
Siberia v2 PS3と付属品。AudioMixerのほか,スプリッタと,Xbox 360コントローラ接続用の2.5mmミニピンケーブルが用意される |
これをどうやってPS3やXbox 360,PCと接続し,適切に設定するかだが,順に見ていくことにしよう。まずPS3の場合,PS3の製品ボックスに付属するAVマルチケーブルを本体と接続。そのうえで,Siberia v2 PS3の製品ボックスに付属の,アナログステレオ出力に割り込んでインターセプトするアダプタ(以下,スプリッタ)を接続する(※アダプタの先に延長ケーブルを接続してテレビやスピーカーなどに接続するのが本来の使い方だが,アダプタを直接テレビやスピーカーに接続したり,逆にヘッドセットしか使わないのであれば差さなかったりしてもいい)。そこにAudioMixerから伸びるミニピンケーブルを差せば,ヘッドフォン出力の準備は完了だ。AudioMixer側のUSB端子はマイク入力となるので,これはPS3本体と直接接続する。
とくに注意すべきは,「入力機器」だけでなく「出力機器」も「USB PnP Sound Device」に設定しておく必要がある点だ。これは製品ボックスのクイックスタートガイドに書かれておらず,設定しなくてもマイク入力は行えるのだが,設定しておかないとLiveMixが機能しなくなるのである。
Xbox 360との接続におけるSiberia v2 PS3の配線イメージ。2.5mmミニピンケーブルは実測約0.8m長で,Xbox 360純正ゲームパッドを持ってプレイすることを考えるとちょうどいい長さだといえる |
こちらはPCとAudioMixer経由で接続するときのイメージ。もっとも,Siberia v2 PS3とAudioMixerをつないだだけだが |
スプリッタをXbox 360のAVケーブルと接続するあたりはPS3と同じだが,Xbox 360の場合,USBによるマイク入力は行わないため,USBは純然たる給電用となる。マイクは前出の2.5mmミニピンケーブルを使ってXbox 360用コントローラと接続すればOKだ。
Xbox 360側では,ゲームコントローラ上の[Xboxガイド]ボタンから「設定」→「プレイ環境」→「ボイスの設定」→「ボイス出力」と進み,「ヘッドセット」または「両方から出力」のどちらかを選べばいい(※マニュアルだと「ヘッドセット」を選ぶよう指示されているが,筆者が確認した限り,「両方から出力」を選んでも問題なかった)。
最後にPC接続だが,前出の「AudioMixerを使わずアナログ接続」だけではなく,PS3と同じ接続方法,つまり,ヘッドフォン出力をアナログ接続で,マイク入力をUSB接続でも利用できる。
試した限り,AudioMixerが内蔵するUSBサウンドデバイスはD/A変換にも対応していた。なので,ヘッドフォン出力もUSB接続化できなくはないのだが,どうやらマイクと同じモノラルのように聞こえて,ステレオ感が失われ,低域と高域も落ち込んだ印象になってしまう。PC側のサウンド出力デバイスがバーチャルサラウンド出力に対応していたとき,それを活かす意味でも,ヘッドフォン出力は素直にアナログ接続すべきだろう。
なおPC側では,コントロールパネルの「サウンド」から,「USB PnP Sound Device」を「録音」用の「規定のデバイス」に設定しておくのをお忘れなく(※ただその仕様上,PCだとLiveMixは利用できなくなる)。
相変わらず「Well-balanced」な出力品質
LiveMixは確かに便利だ
それでは,テストに入っていこう。
本製品はPS3向けと見せかけてマルチプラットフォーム対応製品だったので,今回は音楽試聴時の比較のほか,PS3では「Call of Duty: Modern Warfare 3」(以下,MW3),Xbox 360では「Gears of War 3」(以下,GoW3)のマルチプレイ,PCでは「Call of Duty 4: Modern Warfare」のマルチプレイを“録画”したデータを用い,PCによる音楽試聴も交えつつ,出力の評価を行っていきたい。
なお,テストに用いたシステムは表のとおり。いつものようにサウンド出力デバイスは「PCIe Sound Blaster X-Fi Titanium HD」で,音楽試聴時はバーチャルサラウンドヘッドフォン機能「CMSS-3Dheadphone」を無効化している。また,そのほかのプロセッサ(≒機能)はすべて無効だ。
さて,まずは音楽の再生品質だが,結論から述べると,オーディオの世界でいうところの「ウェルバランス」(Well-balanced)な出力品質である。
低域から高域まで破綻がなく,ジャンルを問わずに,ほとんどの音楽を心地よく聞ける印象。2kHz〜4kHz付近の「プレゼンス」(Presence)と呼ばれる帯域も出ているため,クラシックなどを聴く場合,多少の硬さを感じるかもしれないが,全体的にはプレゼンス帯域も含めてよいバランスだと感じられる。
一方,バランスのよさもあって普段は意識しないだろうと思うが,実のところ,重低域のシンセベースや効果音などは相当に大きな音で再生されている。このあたりはまさに「いつものSteelSeries」と言えるだろう。
CMSS-3Dheadphoneの効果も良好。CMSS-3D特有のモジュレーション感(変調感)も聞こえてしまうが,これはまあ,ヘッドセットの出力が優秀であるがゆえの弊害と述べて差し支えない。
そして主役たるPS3とXbox 360だが,評価を行う前にちょっと情報収集を行ったので,その結果からお話したい。
というのも,PS3やXbox 360のアナログステレオ出力では,「Dolby Pro Logic II」か,機能的に準じる類似のプロセッサを用いて,人間がサラウンド感を味わえるようにうまくダウンミックスする機能が用意されている――ヘッドフォン向けのバーチャライゼーション機能は採用されていない――との情報を掴んだからだ。
ちなみにこれは,ゲームのサウンドシステム開発にも関わる,いわゆる「プログラマー寄り」のサウンドデザイナーから聞いた話である(※筆者はワーキングエンジニア寄りのサウンドデザイナーだ)。そもそも,ゲーム開発プラットフォームに関する情報は厳しくNDA(Non-Disclosure Agreement,秘密保持契約)で制限されているうえ,サラウンドまで含めてサウンド関連の開発を行えるプログラマーやエンジニアは日本でもほんの一握りしかいないので,そこからの情報には相応の確度があると判断し,書き進めている次第だ。
まあ,実際にはほとんどブラックボックスであり,これ以上は突っ込んで調べることもできないのだが,しかし仮にそうだとすれば,「なぜテレビやヘッドフォン,ヘッドセットを使ったときにある程度のサラウンド感が得られる(ことがある)のか」という疑問に対して,一定の解釈が得られることになる。要するに,本格的なバーチャルサラウンドヘッドフォン機能のような効果が得られるわけではないが,少なくともフロントとリアを区別して認識できる程度のバーチャルサラウンド効果が,最終的なステレオサウンド出力に付与されている可能性があるというわけだ。
ただし,これがタイトルごとの実装に依存しているのか,システムレベルの実装になっていて,タイトルごとにオン/オフのフラグを立てるような仕組みになっているのかは定かでない。あくまでも,あるサウンドデザイナーから,NDAに抵触しない範囲で聞き取った内容を,筆者なりに理解して書いているだけだからだ。ただ,PS3とXbox 360について言うなら,タイトルというよりはシステムレベルで実装されている可能性のほうが高いと筆者は見ている。異なるタイトルを聞き比べたときに,サラウンドの効果がよく似ているのがその理由だ。
誤解を防ぐために繰り返しておくと,Dolby Pro Logic IIxやCMSS-3D(≒THX TruStudio Pro)のような,定位を正確にポジショニングする本格的なバーチャルサラウンドヘッドフォン機能ほどの精度ではないが,フロント&リアを何となく認識できる程度のバーチャルサラウンド効果はサポートされている可能性が高い。また,バーチャルサラウンドに対応していないヘッドセットでも,相応のサラウンド感が得られるのは,これが理由である可能性が高い,ということになる。
もっとも,最新世代のゲームタイトルでは,以前にも増して細かな効果音が増えており,音の密度というか,情報量の多さは尋常でない。そのぶん,ボイスチャットの音声が効果音のなかで埋もれ,聞き取りにくくなりがちなのだが,そこで活きてくるのが,先に後述するとしたLiveMixだ。
「アナログヘッドセットなのにどうやって?」と疑問に思う人もいると思うが,キモになっているのはUSB接続のようで,どうやら,USB経由でPS3やXbox 360側の内部ミキサーへデジタルアクセスし,チャット音声が入ってきたときだけそれ以外の音量を下げるという仕組みになっていると思われる。SteelSeriesは動作の仕組みを一切公表していないのであくまでも推測となるが,「PS3との接続にあたり,サウンドの『出力機器』としてAudioMixerを指定しておかないとLiveMixが有効にならない」という仕様からするに,おそらく,大きく間違えてはいないはずである。
さて,公表されている仕様によると,AudioMixerに用意されたLiveMixスライドスイッチでは,LiveMix無効のほか,「LOW」「MEDIUM」「HIGH」の3段階で効果の度合いを変更できるようになっている。ネットワーク越しにほかのプレイヤーからの音声が届いたとき,LOWでは最大5dB,MEDIUMでは最大15dB,HIGHでは最大25dBほど,ゲームのBGMや効果音が下がるという仕掛けだ。
その効果は一言で述べて絶大であり,HIGH設定時は,まるで「ぐーん」という擬態語が聞こえてきそうなほど,ボイスチャット以外の音量が一気に下がっていく。それが好ましいかそうでないかというのは別の話として,ボイスチャット中,相手の声がゲームの音に埋もれて聞こえにくいという場合は有効化すればいいだけなので,間違いなく便利ではある。
使ってみる場合は,ひとまずMEDIUMにして,効果が強すぎると感じたらLOWに落としてみる,くらいがいいと思われる。
USB接続時は多少鼻づまり気味に
聞こえるマイク入力
マイク入力のテストに移ろう。
ここでは,周波数特性および位相特性の計測と,マイクに入力した音を録音しての試聴という2パターンでテストを行っている。PCにおける測定方法の説明は長くなるため,本稿の最後にテスト方法を別途まとめてあるので,興味のある人は合わせてチェックしてもらえれば幸いだ。基本的には,本文を読み進めるだけで理解できるよう,配慮しているつもりだ。
Siberia v2 PS3でマイクの仕様は50Hz〜16kHzとなっているが,下に示したグラフだと下は40Hz,上は16kHz以上で落ち込んでいくので,ほぼ仕様どおりと述べていいだろう。SteelSeriesは以前から仕様の“自己申告”が正確だが,Siberia v2 PS3でも果たして仕様どおりだったわけだ。
波形全体では,2kHz以下でリファレンスよりかなり低くなる一方,2kHz以下の波形において,50〜200Hz付近が相対的によく出ていることと,3kHz〜5.5kHzと8kHz〜12kHzでは4kHz付近のピークを中心として大きな山になっていることが目を引く。位相は完璧だ。
一方のアナログ接続時だが,グラフ形状は総じてUSB接続時と近いものの,一点,16kHz以上でもリファレンスより高く伸びている点で,USB接続時と異なるのが分かる。つまり,先ほど紹介したマイク入力仕様の50Hz〜16kHzというのはあくまでもUSB接続時のものであり,マイク自体の特性はもっと高く,20kHz付近まで入力できるのである。
なお,アナログ接続すると1.8kHz付近に落ち込みが生じているのも見て取れると思うが,この理由は正直分からない。
そして試聴印象だが,何といっても,USB接続時にやや鼻づまり気味なのが気になる。アナログ入力時だと鼻づまり感はかなり和らぐので,50Hz〜200Hz付近が比較的よく出ていて,同時に16kHz以上で落ち込んでいることが,鼻づまり感を出しているのではないかと思われる。
USB接続時の遅延は,少なくともテストした限りでは感じられない。
もちろん,音切れが生じる率はゼロではなく,音切れのせいで何を言っているのか分からないケースも発生した。ただ,とくにPlayStation Networkで顕著なのだが,ログインしているユーザーが多く,ネットワーク環境に高い負荷がかかっている状態だと,ボイスチャット時の音質が低下し,音切れも発生しやすくなるので,ネットワークが原因という可能性も否定できない。
マイク品質は総じて実用的なレベルに達しているとまとめていいだろう。
この使い勝手と品質で8000円なら買い
SteelSeriesにはマニュアルの充実を望む
かけ心地は良好で,ヘッドフォン出力品質は上々,しかもLiveMixはうまく使えば意味があるというわけで,Siberia v2 PS3は,機能・性能とも申し分ないと言っていいだろう。しかも,スマートにマルチプラットフォーム対応を実現できている点も評価できるところで,人を選ぶ要素があるとすれば,1万5800円(税込)という,お世辞にも安価とはいえない価格くらいだ。これで価格がもう少し安価であれば広く勧められたのだが……と書こうとしたところで,冒頭でも紹介した価格改定の報が届いた次第である。
旧価格比でほぼ半額という7980円(税込)にまで値下がったことで,4桁円台後半の市場に有力な選択肢が生まれたと言っていい。PS3ユーザーだけでなく,マルチプラットフォームでヘッドセットを使っていきたい人なら買いだろう。
1万円台中後半のゲーマー向けヘッドセットをぽんと購入するような人だけを相手にしているなら,ある意味「放りっぱなし」でもいいのかもしれないが,数千円クラスのヘッドセットを購入する人が,直訳か機械翻訳かといったレベルの分かりづらい日本語で,かつ,LiveMixの挙動に関する重要な説明が抜けていたりするというのを受け入れてくれるかというと,大いに疑問が残る。
ペラ紙1枚でもいいから,正しい使い方を説明する日本語マニュアルが必要なのではなかろうか。価格を下げて,多くのユーザーに訴求して,日本市場での地位を確固たるものにしていくのであれば,おそらく次にSteelSeriesが取り組まなければならないのはそういう部分だ。頑張ってほしい。
SteelSeriesのSiberia v2 PS3製品情報ページ
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製「S3A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力。それをヘッドセットと接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。もちろん事前には,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みだ。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形例。こちらもリファレンスだ
ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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