レビュー
「ゲームと音楽に向く」というSteelSeries製ヘッドセットの本質を探る
SteelSeries Siberia Neckband
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ゲームだけでなく音楽リスニングにも向き,Xbox 360でも利用可能――。
「Professional Gaming Gear」を標榜するSteelSeries製品としては,異色の存在といえるヘッドセットを榎本 涼氏が分析する。プロのサウンドデザイナーは,1万3000円強のヘッドセットをどう評価するだろうか。
今回取り上げるヘッドセット「SteelSeries Siberia Neckband」(以下,Siberia Neckband)も,ゲーム用ヘッドセットとしての最終最適化が,著名なCounter-StrikeプレイヤーであるAbdisamad“SpawN”Mohamed氏によって行われるなど,本質的にはSteelSeriesらしい製品になっている。だがその一方で,音楽のリスニングにも向くとされ,さらには標準添付のアダプタを用いることでXbox 360用ヘッドセットとしても利用可能になっているなど,ある程度カジュアルな使い方が想定されていることも,見逃すわけにはいかないだろう。その意味において,SteelSeries製品としてはやや毛色の異なる製品だが,実際のところはどうなのか,テストから明らかにしてみたい。
好みが分かれるネックバンド仕様
ブームマイクの作りは○
ネックバンドタイプは,ヘッドバンドタイプのように髪型が乱れたり,帽子をかぶった状態で取り付けにくかったりといったことがないというメリットを持つ。一方,構造的な弱点から顔を挟み込む力が弱くなって“だらーん”とぶら下がってしまい,「スピーカーエンクロージャー」(※スピーカー本体「スピーカードライバー」を囲む部分。耳を覆う部分という理解でかまわない)と耳との間に隙間が生じ,結果,低域や高域の音が失われやすいというデメリットもあって,好き嫌いが分かれやすい。筆者も個人的には苦手だ。
もっとも,実際に試してみると,Siberia Neckbandのネックバンドは挟み込む力が相応にある。“ぶら下がり感”はさすがに残るものの,音が失われるほどのひどい隙間は空かなかった。もちろんバンドの経年劣化という問題は残るはずだが,ひとまずネックバンドタイプとしてはよく出来ているといって差し支えない。
「ブームマイク」(※マイクと,マイクを固定する部分の総称)はSteelSeries製品として定番の引き出し式。本体左側のエンクロージャー部から引き出したら,自在に形状を変えられる特性を生かして,好きな場所へ配置できる。特筆すべきはブームが一般的なヘッドセットよりも長い点で,ポジショニングの自由度がかなり高いのは歓迎したいところだ。
迫力の重低域&多少籠もる中高域はゲーム向けか
マイク特性は無難な作りで及第点
肝心要の音質評価だが,筆者のヘッドセットレビューでは,ヘッドフォン部は試聴,マイク部は測定をメインにテストを行っていく。後者のテスト方法は少々複雑なので,本稿の最後に別途用意した。基本的にはテキストで説明を行い,グラフの見方が分からなくても問題ないように配慮するつもりだが,本稿で示すグラフにどういう意味があるのか興味を持ったなら,一度目を通しておいてもらえれば幸いだ。
また,過去のヘッドセットレビューとは測定方法が異なっており,データに互換性はなくなっている。横並びの比較は行えないので,この点は十分に注意してほしい。
販売価格が数千円クラスのヘッドフォンだと,150〜200Hz付近の中低域を無理矢理ブーストさせて“低音感”を出そうとすることが多いのに対して,Siberia Neckbandでは,それらよりずっと低い重低域をしっかりとカバーできている。スペック表によれば18Hzまでカバーしているとのことで,本当に18Hzかどうかはさておき,20Hz近辺まで再生できていることに驚いた。この帯域を再生できるということはつまり,地鳴りや爆発音,室内の低周波ノイズといった非常に低い帯域に及ぶ効果音を,迫力を持って再生可能ということだ。ゲームのリアリティ向上に寄与できるわけで,Siberia Neckbandが持つ低周波特性の良好さは特筆に値する。
総じて,強い低域によるマスキングの割に定位感(≒ステレオ感)はよく,ヘッドセットとして高価なだけのことはあるといえよう。
音楽鑑賞用ヘッドフォンとして評価すると,「ヘッドフォン部の品質を上げていったら,音楽もそこそこ楽しめるようになった」という印象だ。ボーカルが気持ちよく聞こえる2〜3kHzの“おいしい”部分が弱いうえに,重低域が強すぎるのである。ただ,先ほど述べたとおり再生帯域が広いこともあって,数千円クラスの単体ヘッドフォンより総合的な音質はよくなっている。
次にマイクの評価だが,あらためて強調しておきたいのは,従来のヘッドセットレビューとはテスト方法が異なっていること。従来のイメージがまだ頭にある人はすべて捨ててほしい。
さてグラフを見てみると,比較的フラットな印象を受ける。600Hz以下でやや落ち込んでいるものの,これは許容範囲だろう。200Hz以下が盛り上がっているのはテストルームに存在するノイズ(=PCなどの動作音)を拾っているためと考えられるので,実際には,「ピンポイントの目立った落ち込みはないものの,600Hz付近より下の周波数帯域で緩やかに落ち込んでいく特性」と捉えるべきだろう。とくに300Hz付近より下でリファレンスとの乖離が進むが,80Hz〜15kHzとされるマイクの公称周波数特性と比べるに,80Hz〜250Hzはそのほかの帯域に比べてやや弱めに入力されると考えていい。
しかし,これが品質的に問題かというと,そういうわけではない。この帯域は大声で突然叫ぶなど過入力時に非常に歪みやすいからだ。もちろん,それをリアリティと考える人はいるかもしれないが,実際のところ音を「情報」として収集しなければいけないマルチプレイなどでは歪まないに越したことはないので,この帯域がやや弱いのは,むしろゲーム用ヘッドセットとして正しいチューニングという考え方もできる。
なお,高周波の上限は16kHzで,公称周波数の上限とほぼ一致。16kHz以上では急激な落ち込みが発生する。音声(=会話)の収録用としては高周波上限も十分にある。
総じてマイクについては「周波数上のクセがなく,ツボを押さえた最低限のチューニングが施された,フラットな周波数を指向している」といえる。つまり,老若男女・声の質を問わず,割と素直にスピーチを入力できるマイクだということだ。とくに,このフラットな周波数特性は,PC用ヘッドセットにしては優秀だ。実際モニターしてみて,いい意味で「普通の音声」が聞こえてきた。Siberia Neckbandのマイクは十分,及第点に達している。
マイクに関する唯一といっていいマイナスポイントは,(入力インピーダンスが原因で)入力レベルが思ったほど高くない点である。マイクゲイン(※入力音量という理解でかまわない)を思い切り上げて,ぼそぼそしゃべるようなユーザーにはあまり向かないだろう。まあ,高品位なマイクはだいたいこの傾向なので,筆者は正直それほど問題とは思っていないが。
価格には納得の完成度
ネックバンドに抵抗がないならオススメ
もちろん,まったく問題がないわけではない。一にも二にも,大型スピーカードライバーを内蔵したネックバンドタイプというのは,それだけで好き嫌いが分かれる。個人的には,Siberia Neckbandと同じスピーカードライバーとマイクを持つヘッドバンドタイプが欲しいと思うほどで,この形状に不満を感じる人には勧めにくい。また,入出力ともに最大音量が低めなのは,やや人を選ぶだろう。
とはいえ,全体的な完成度は,一世代前の定番モデルを明らかに凌いでいる。SteelSeriesの成した仕事を素直に讃えたい。
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(Dynaudio Acoustics製「BM6A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力。入力用PCに取り付けてあるサウンドカード「Sound Blaster X-Fi Elite Pro」とヘッドセットを接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。もちろん事前には,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みだ。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,女声ソプラノのボーカルでもない限り,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形の例。こちらもリファレンスだ
ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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