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Access Accepted第820回:GDCで見えてきた業界の動きと「Consume Me」
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ゲーム業界最大の開発者会議「Game Developers Conference 2025」がサンフランシスコで3月17日から21日まで開催され,4Gamerでも精力的に情報発信した。今回は,AIなどの新しいテクノロジーが紹介され,ゲーム業界の構造や,ゲーム作りそのものの変化も見えてきたイベント全体を振り返ろう。
ちょっと元気がなかったGDC 2025
3月17日から21日までの5日間,カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・センターで,「Game Developers Conference 2025」が開催された。GDCは,ゲームエンジン,グラフィックスやオーディオ,さらにはチームマネージメントや教育,法務,マーケティングにサービス運営など,さまざまなテーマが750以上のセッションで議論された,世界最大の開発者会議だ。
参加人数は「ほぼ3万人の登録参加者」 (nearly 30000 registered attendees) という曖昧な数字が発表されており,実際に登録した人すべてが参加したかどうかは不明だ。確かに人気のセッションでは立ち見が出たり入れない人もいたりしたが,今年は例年に比べて明らかな変化があった。それは,展示フロアがスカスカだったということだ。
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GDCの展示エリアは,モスコーニ・センターの地下にある大きなフロアスペースで行われる。このスペースはノースホールとサウスホールに分かれ,2つのホールは大きな通路でつながっている。最近では企業やインディースタジオだけでなく,大学の展示ブースや商談スペース,そして国家パビリオンなどの出展が増えていたので,この通路も所狭しとブースが並ぶ場所だった。
ところが,今年はEpic GamesやUnityなど,これまで長らくGDCをサポートしてきた大企業の大きなブースが姿を消していた。昨年は「ゲームエンジン戦争」とでも言うべき自社テクノロジーのショーケースを盛んに行っていた両社だったが,今年は講演で細かく説明するなど,地に足のついたスタイルに移行していた印象だ。
もちろん,これは「勢いが落ちた」とは言えても,「衰退」とまでは言えない。投資や消費が減ることで,こうしたイベントに参加したり,ゲームやテクノロジーを作るパワーも減ってしまうが,そうした変化を乗り越えることで,産業自体が強くなっていくのが,デジタルエンターテインメントの特性とも言える。
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アメリカ社会の世情も反映
展示フロアで存在感を発揮していたのがAI関連企業だ。AIを活用した仮想キャラクター生成プラットフォームなどでお馴染みのInWorldや,GenMotion AI,GNUS.ai,Incymo,Parametrixなどのブースが多く,UnityやRoblox,さらにはGoogle DeepmindやMetaなどの企業が,新しいAIツールや最新テクノロジーの成果を発表するなどしていた。
国家パビリオンでは,ブラジル,イタリア,スペイン,ドイツなどの常連に加えて,今年は日本,インド,ポルトガルなどが国内タイトルやテクノロジー企業の商談スペースを設けていた。日本パビリオンは,かなりの人だかりで人気だったが,これは無料で振舞われた日本酒の効果というだけはなかったはずだ。
また,物価高騰によりサンフランシスコのホテルや食費代が高く,地域外からの参加を見合わせる人はかなりいた。それでも,GDCを最大限に利用したいという人は多く,お酒やオードブルが振舞われる「GDC Nights」というネットワーキングイベントには,月曜から木曜までの4日間で延べ6000人以上の業界関係者が集まったという。ゲームや映画視聴会などをとおして交流を深めたということで,この取り組みは,大成功だったと言えるのではないだろうか。
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元気のないゲーム業界を反映してか,Communications Workers of America(北米通信業組合)という70万人もの会員数を誇る組合団体が,新たに「United Videogame Workers」(連合ビデオゲーム労働者)という下部組織を発足したことをアナウンス。「CWA-UVW」は,Microsoftに買収されたBethesda Softworksと,Blizzard Entertainmentで2024年7月に発足した複数の組合を統合した組織で,Activisionでも組合結成の動きがみられる。今回は,その動きを拡張させようと,展示フロアに大きなブースが設置されたり,期間中に200人規模の行進が行われたりと,活発な活動を繰り広げていた。
また,ゲーム業界では,SNSの利用がXからBlueSkyへと移行しつつあるようだ。講演の最後は「来てくれてありがとう。質問があったら,ここに連絡してください」というようなスライドで締めくくられることが多い。その際にはメールアドレスよりもSNSアカウントを表示している場合がほとんどだが,Xを連絡先に利用している人は,何かの申し合わせがあったかのように一人もいなかった日もあった。イーロン・マスク氏への反発が,ゲーム業界にかなり浸透している印象だ。
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IGFでシーマス・マクナリ―大賞を受賞した「Consume Me」とは?
さて,お伝えしているとおり,今年のIndependent Games Festival(IGF)のシーマス・マクナリ―大賞(Seamus McNally Grand Prize)には,ジェニー・ジャオ・シャ(Jenny Jiao Hsia)氏が10年にもわたって開発を続けてきた「Consume Me」が受賞した。革新的なゲームに贈られるNuovo賞,そして性別の固定観念にとらわれないゲームに贈られるWings賞の三冠を達成しており,今年のイベントでもっとも評価されたタイトルになった。
「第819回:今年もゲーム開発者会議GDC 2025開幕。インディーゲームの頂点,IGF大賞の候補作品を紹介」で,シーマス・マクナリ―大賞にノミネートされた作品6つを大まかに紹介したが,筆者にとってのお気に入り作品だった「ANIMAL WELL」や「Mouthwashing」などは選外佳作という扱いで,個人的には納得がいっていない。「Consume Me」はまだ発売されてもいないというのも,その理由の一つだ。
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「Consume Me」は,高校最後の1年を迎える主人公のジェニーが,学業と恋愛,バイト,家事といった大忙しのスケジュールをこなしていくコメディタッチのゲームで,それぞれのタスクはミニゲームのようになっている。食事の消費が大きなテーマで流れてくる食べ物を片っ端から摂取していると体重が増えてしまうが,ダイエットのために摂取量を減らすとカロリーが足りなくなって充分なミッションをこなせなくなってしまう。
聞くところによると,開発者であるシャ氏は実際に摂食障害に悩まされていた過去があるらしく,「Consume Me」は日々の生活から受ける女学生のプレッシャーを,コミカルなゲームとして表現したのだろう。
画面に表示される食べ物も,もはや何を食べたいかではなく,1つ1つがカロリー数値であり,プレイするに従って数字しか追わなくなるところに,不気味で味気ない体験を表しているようだ。
この作品を選んだゲーム開発者たちが,「他のゲームを模倣するのではなく,自分の個人的な体験を作品に落とし込むべき」と考えたのかどうかは定かではないが,ありがちなインディー作品ながらも,こうしたドキッとさせる体験をできるところが評価されたのかもしれない。
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