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カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望
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印刷2015/12/29 00:20

インタビュー

カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望

オンラインゲームの運営・開発チームを円滑に運用するために必要なもの


4Gamer:
 ここからはオンラインゲームのサービスを提供するチームのマネジメントについてお聞きします。杉浦さんは,現場にかなりの裁量を与えているとおっしゃいましたが,そのほかにもチームを円滑に回すコツはありますか。

画像集 No.033のサムネイル画像 / カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望
杉浦氏:
 私は大学で経営学を専攻していたので,もともと組織論や組織運営の話は大好きなんです。1期生で先輩がいなかったこともあって,サークルを自分で立ち上げてリーダーを務めていましたし,もっと遡れば眼鏡だったという理由だけで学級委員長を任されたこともありました。

酒井氏:
 ああ,眼鏡=委員長の件は僕も同じです(笑)。

杉浦氏:
 そういう経緯もあって,人をうまくマネジメントすることにはずっと興味がありました。社会人になった後も,上司や先輩から指示を受けるときには,「自分だったら,こうするのに」ということを考えながら仕事をしていたんです。ですから,いざ自分がプロデューサーとしてチームをまとめる立場になったときは,それまでの思いや経験を活かせたというところはあります。

4Gamer:
 杉浦さんなりのやり方に依る部分が大きいと?

杉浦氏:
 一口にコツと言っても,その状況によって,前にうまくいったやり方が,別のときには通用しないことがあります。チームの人員や環境に応じて,やり方をいろいろ変えるしかないでしょうね。
 たとえば,現状では上司の小野が海外を飛び回っているときは私が国内でリーダーシップを発揮し,逆に小野がガッチリ国内で見られるようになったら,2番手として小野の意見を咀嚼し,部下に伝える役割に専念するといったように,私自身のポジションも状況に応じて変えています。
 MHFの頃はほかに手がけているタイトルがなかったので,ワンマン体制で引っ張っていましたが,今のように扱うタイトルが増えると,そのやり方では身体が持ちません。そこで現場のスタッフを育成し,リーダーには裁量を与える体制に切り替えたんです。裁量を与えることで,私に頼らずとも各自で考え判断できる組織にしたいという意図もあります。
 ……ただ,スタッフには「杉浦は子どもが生まれたから,優しくなった」と思われているかもしれません(笑)。

4Gamer:
 チームのマネジメントについて,酒井さんはいかがでしょう。

酒井氏:
 PSUのときにチームの人数がかなり増えたので,そこからプロジェクトのマネジメントを考えるようになりました。とくにPSUやPSO2はアップデートが頻繁なので,バージョン管理のツールをいろいろ変えてみたり,運営のやり方を考えたり。それまでは1人でやっていたことも手が足りないので人を増やし,班を作ってリーダーを立てたり,といったことを繰り返してきました。
 その結果,PSO2のチームは,プロデューサーの下にシリーズディレクター,その下にエピソードディレクター,メインプランナーといった階層構造になっています。ただ,そうなると階層ごとに監修の必要が生じて,たびたび決定事項がひっくり返されることになったり,まとめ役の負担が大きくなったりするので,どこまでを監修するのかという線引きを変更するなどの試行錯誤を繰り返している状態ですね。

杉浦氏:
 MHFの初期は,プログラマー,プランナー,グラフィックスとセクションを分けていたんです。しかし,それではプランナーが企画を決めないと,ほかのセクションがまったく動けなかったので,モンスター班,武具班,フィールド班という分け方に変えました。それぞれの班に,プログラマーやプランナーがいるというアジャイル形式ですね。

画像集 No.034のサムネイル画像 / カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望
酒井氏:
 確かにアクション要素のあるゲームは,その形式のほうが合いますね。PSO2もアクション班には多くの人員を割いています。あとは班ごとに島が分かれていると,コミュニケーションロスが増えるので,席替えをするなどして風通しを良くしたり。
 ゲーム内で小さなトラブルが起きたら,デイリーでミーティングして問題点を共有することも重要です。問題が起きたら,早めに上の階層の人間が把握できるようにする。アップデートが頻繁にあるので,それぞれの締め切りも早くなります。だから,問題の把握が遅れることは致命傷になりかねないんですよ。

杉浦氏:
 そうそう,班分けで面白いのは,リーダーを任せる人物の経歴によって傾向が分かれるところですね。プログラマー出身のリーダーは論理的な説明が上手な反面,論理的な理由がないとなかなか納得しません。工数をすぐに割り出せるのは大きな強みですね。
 一方,グラフィックス出身のリーダーはインスピレーションで「こういうのがあるといい」と新しいアイデアを打ち出すんですが,そこに工数などの裏付けがあまりない傾向にあります。
 それぞれ長所短所がありますので,最近はいかにうまくコンビを組ませるか,というところを楽しめるようになってきました。

4Gamer:
 オンラインゲームは長期的に開発や運営を継続していかなくてはなりません。チームのモチベーションを保つ秘訣はありますか。

杉浦氏:
 こちらも手法は,いろいろですよ。スタッフそれぞれに思いがありますから,それを理解し,一人一人に合わせたやり方を取っています。同じことを何年も追究したいという人がいれば,半年で別のことをやりたくなる人もいますから,一概に「これをやれば万事OK」とはいかないです。

酒井氏:
 根本的な部分では,チーム内でビジョンを共有できること,そしてスタッフ各自に自分の成果に対してリターンがあることの2つが大事だと思います。
 PSO2チームでは「プレイ会」というものを設けていて,アップデート前にスタッフ全員でユーザーの気持ちになってゲームを遊んでみます。もちろん自分のキャラクターを使って。そこで出てきた「分かりにくい」「こうしたほうがいい」といった意見を反映していくことで,ゲームの完成度を上げていくようにしています。自分が直接関わっていないパートに対しても意見を言えて,それが改善につながっていくのはモチベーションに繋がりますよね。

杉浦氏:
 ユーザーデータが取れないゲームだと,声が大きい人の意見が通りやすいということもありますが,オンラインゲームの場合,データを使って説得するという方法があるので,いろいろな人の意見が採用されやすいです。その意味では,オンラインゲームの運営開発はモチベーションを保ちやすい,と言えるかもしれません。

画像集 No.035のサムネイル画像 / カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望

酒井氏:
 そもそもオンラインゲームの運営・開発に向いている,向いていないという素質も重要ですけどね。

杉浦氏:
 学生時代に文化祭や体育祭で張り切っていた人は向いていると思います。

酒井氏:
 僕は15年近く,この仕事をやってきましたが,その間,退屈したことはないですね。常に何かしら新しいことをやっているので,いつだって新鮮な体験ができていますよ。

杉浦氏:
 ときどき,疲れ切ったときに「平穏であってほしい」と思うくらいで(笑)。

酒井氏:
 ああ,僕もそう(笑)。

杉浦氏:
 でも,そういうときに限ってトラブルが起きるんですよね。逆に,大きなアップデートのときに何も起きないと,「おかしい。何もないわけがない」と思いますから。 不謹慎な話ですが。

酒井氏:
 職業病ですよね(苦笑)。


アクション要素を持つオンラインゲーム同士,そのライバル意識はいかに


4Gamer:
 2012年7月,PSO2が正式サービスの提供を開始しました。このとき,杉浦さんはどのような感想をお持ちでしたか。

杉浦氏:
 いろんな思いがありましたね。正直なところ,PSO2以前だと,MHFの競合タイトルはほとんどなかったんです。悪く言えば,油断していてもある程度までは大丈夫だったんです。
 そこにPSO2が発表されたので,良い意味でスタッフの気が引き締まりました。オンラインゲームは酒井さんがおっしゃるようにサービスです。そしてサービスにおいては,良いものが評価されます。もしもPSO2のサービスがMHF-Gよりも良かったら,当然お客さんもそちらに流れていく。そういった緊張感や覚悟がありましたね。

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4Gamer:
 Free-to-Play(基本プレイ無料)というビジネスモデルについてはいかがでしょう。

杉浦氏:
 時流を考えたら,当然のことだと思いました。しかし,あの当時にFree-to-Playを採用する決断をして,それを実現させるのは,おそらく皆さんが考える以上に大変だったはずです。と言うのは気持ちや根性だけでなく,技術力も必要となるからで,マゾさ加減もすごくなります(笑)。

酒井氏:
 マゾいと言うのは,確かかもしれません(笑)。

杉浦氏:
 ですから,PSO2の発表当時は「やっぱりセガさんはすごいな」と尊敬の念を抱きつつ,「今後どうなるんだろう」「うちもFree-to-Playは避けて通れないだろうな」と考えていました。

4Gamer:
 Free-to-Playのビジネスモデル採用を発表するにあたって,当時,酒井さんが極めて慎重に段階を踏んでいるという印象を受けました。

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酒井氏:
 そうですね。すでにいろんなところで説明していますが,そのタイミングに関してはものすごく計算しました。お客さんの「このゲームをプレイしたい」という欲求が,極限に高まったタイミングで「無料です」と発表しないと,おそらく既存のタイトルに負けるだろうと。
 と言うのは,それまでの「基本プレイ無料」という言葉には印象の悪さや拒否反応があったからです。それをひっくり返さなければならないのですが,単に言葉にしただけでは伝わらない。「このクオリティのゲームが無料で遊べる」「具体的にこのゲームのどこを無料で遊べるのか」ということをきちんと説明できて,かつお客さんがそれに納得できる環境で言わなければ意味がないんです。
 そこでαテストを終え,クローズドβテストを告知するタイミングで,発表することに決めました。

杉浦氏:
 課金形態の発表は,どのタイトルでも苦しみますよね……。

酒井氏:
 それでも,必ず最適なタイミングがあるんです。そのタイミングを外してしまうと,目も当てられないことになる。お客さんの期待感が高まっているときに,それを裏切らない形で発表しないと,本当に失敗してしまいます。

4Gamer:
 ちなみに,PSO2の立ち上げにあたってはMHFをどのくらい意識していたんでしょう。

酒井氏:
 「意識していない」と言えるのならカッコいいのですが,やはり意識はしていました。汚い言葉を使えば「どれだけ(プレイヤーを)ぶん捕れるか」と(笑)。
 ただ,僕らは初代「モンスターハンター」のリリース以前から,カプコンの開発チームとは交流がありました。彼らとよく話すのは,「我々はオンラインプレイやマルチプレイを普及させるためにゲームを作っているので,そのためにお互い頑張りましょう」ということなんです。
 その意味では,どちらかが欠けても進化が止まってしまう恐れがありますから,常に「モンスターハンター」がやっていないこと,できないことにチャレンジしていこうと考えています。もっとも「ほかがやらないことにチャレンジする」ことに関しては,「ファンタシースター」シリーズがずっと掲げているテーマでもありますけれど。

4Gamer:
 なるほど。

酒井氏:
 あと,やはりPCで始めるからには「PCゲーム人口を増やす」というのも大きな目的として掲げていました。
 先ほど「どれだけぶん捕れるか」と言いましたが,MHFのお客さんだけを取ったとしても,MHFより大きくはなれません。より大きなところを見て,ほかのゲームからというだけでなく,「今,PCでゲームを遊んでいない人がどうしたら遊んでくれるのか」ということも考えていたので,MHFのことだけを気にしていたというわけではないですね。
 とにかく,もっともっと多くの方にオンラインゲームを遊んでもらうにはどうしたらいいのか。そのための手段として,Free-to-Playを選択したという経緯があります。

4Gamer:
 国産IPで,かつアクション要素があるオンラインゲームということで,MHFとPSO2はプレイヤー層が重なっている部分もあるかと思うのですが,実際,それはデータに表れているのでしょうか。

杉浦氏:
 PSO2のサービスイン初日,MHFのログイン数が通常の2〜3割落ちましたね。「ファイナルファンタジーXIV」「ドラゴンクエストX」などがサービスインしたときは5%も影響がありませんでしたので,最も影響が大きかったタイトルと言えます。これは,コンシューマの「モンスターハンター」シリーズがリリースされたとき並みの影響です。
 ただ,PSO2のときは,またMHF-Gに帰ってくるというお客さんも多くて,数字はすぐに回復しました。コンシューマの「モンスターハンター」が発売されると,3か月は帰ってこないので,さまざまな対策を講じなければならず悩ましいです(笑)。

4Gamer:
 なるほど。
 PSO2の3年後,2015年8月にはDDONがFree-to-Playでサービスインを果たしました。そのとき酒井さんは,どう思われましたか。

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酒井氏:
 ついにやって来たなと。しかもDDONにはMHF-Gのチームが加わっており,さらにはFree-to-Playとなると,大きなライバルになり得ると思いました。
 ただ,PSO2とDDONでは方向性が異なります。アクションが好きなお客さんはDDONを選ぶかもしれませんが,本当にPSO2を頑張っているお客さんはキャラ愛が強いんですよね。そういう意味では,そこまで心配しなくていいとも考えていました。

杉浦氏:
 酒井さんのおっしゃるとおりで,カプコン社員でもPSO2にハマっている人がいますけど,Facebookには自社のゲームのことは一切書かず,ひたすらPSO2のキャラクターへの愛ばかりを書いていますから。ちょっとは自重しろと(笑)。

4Gamer:
 DDONでFree-to-Playを採用するにあたり,PSO2を意識した部分はありますか。

杉浦氏:
 最初に考えたのは,MHF-Gのお客さんがDDONに流れたのでは意味がないということでした。そうではなく,MHF-Gのお客さんを1とするならば,そこにDDONのお客さんを加えることで1を超える,それこそ2にしようと。
 実は他社さんの事例を見ると,そこに失敗しているケースが多く見られます。同じデベロッパだったり,ゲーム性が似ていたりすることで,旧作から新作にお客さんが移行してしまうんですね。それはネットカフェの稼働ランキングの変化に,もっとも分かりやすく表れています。

酒井氏:
 ネットカフェの稼働ランキングと言えば,MHF-Gは長く不動の1位をキープされていますよね。

杉浦氏:
 今でこそ,そうなんですが,最初はずっと2位だったんです。ところがそれまでずっと1位だったタイトルのパブリッシャが新作を出すタイミングで,旧作からのお客さんの移行が発生してしまい,1位を取れたんです。そこからネットカフェに営業攻勢を仕掛けて現在に至るのですが,それで得た教訓が「似たようなゲームを出すのは良くない」ということでした。
 ただそうなると,スタッフにはDDONをどう作ればいいのかという疑問が生じます。そこで,ようやく質問の答えになるのですが,そのとき名前をお借りしたのがPSO2でした。「PSO2からお客さんを引っ張って来たら,MHF-Gのお客さんを減らさずに,DDONのお客さんを増やすことができるし,ビジネスモデルもFree-to-Playだから例えとして分かりやすいだろう」と(笑)。

4Gamer:
 酒井さんは「MHFからどれだけぶん捕れるか」とおっしゃっていましたが,DDONでも似たようなことがあったと(笑)。

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杉浦氏:
 もちろん,それは「PSO2を真似しろ」という意味ではありませんよ。それよりも,社内で同じようなタイトルを作ることの無意味さを説明するという意図のほうがはるかに強い。実際,MHF-GとDDONの責任者同士で,「お客さんの取り合いになるんじゃないか」という不毛な言い争いをしていたときに,「お前ら,相手はPSO2なんだぞ。どうして内部でケンカするんだ」という形で名前を出していました(笑)。
 また,PSO2以外にも知名度の高いタイトルは,よく引き合いに出しますよ。「ファイナルファンタジーXIV」のリリース時には会議中,あまりにも頻繁に名前が出てきてしまい,逆に分かりにくくなったので,「FFを比喩に使うの禁止!」にしたこともありました。

4Gamer:
 DDONなどの動向によって,PSO2のプレイヤー数に影響が出ることはあるのでしょうか。

酒井氏:
 すごく影響があった,ということはないです。PSO2はちょっと特殊で,僕が昔から言っているとおり「1日1〜2時間でも楽しめるオンラインゲーム」で,もっとざっくりしたことを言えば「緊急クエストを楽しむだけでもいいゲーム」なんですよ。もちろん,もっと長時間頑張っているお客さんも,とても多くいらっしゃいますが,緩く楽しむプレイヤーも多いというゲームですから。

4Gamer:
 ほかのタイトルが出てきたからと言って,ガクンと数字が落ちることもないと。

酒井氏:
 それは運営側からすると,Free-to-Playのいい部分だと思います。僕らは,アップデートの告知ページや「PSO2放送局」など,自分達のメディアやSNSを使って,常に新しい情報を出すようにしているのですが,しばらくPSO2から離れているお客さんもそれらをチェックしてくれています。だから,アップデートで良いコンテンツが実装されるとなったら,敏感に察知して戻ってきてくれる。アップデートの内容次第で,グンと数字が盛り返せるという,いい波の繰り返しができていますね。

杉浦氏:
 私も,PSO2のお客さんほどマメに新情報をチェックしているオンラインゲームプレイヤーはいないと思います。4Gamerの記事ランキングにも,それは顕著に現れていますね。
 お客さんを大事にしている酒井さんの姿勢や,PSOシリーズの長い歴史から蓄積されてきたものが,財産になっているんでしょう。素直に素晴らしいと思います。

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