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印刷2009/06/15 11:18

レビュー

徳岡正肇のこれをやるしかない! / 第7回:「Red orchestra: Ostfront 41-45」で地獄の戦場を追体験

徳岡正肇のこれをやるしかない!
これこそ(たぶん)東部戦線! ただただやられ続ける兵隊さん達 第7回:「Red orchestra: Ostfront 41-45」で地獄の戦場を追体験

 

 不定期連載「徳岡正肇の これをやるしかない!」第7回は,Tripwire Interactiveが2006年にリリースした「Red orchestra: Ostfront 41-45」をやっつけよう。もともとミリタリーゲームファンが「Unreal Tournament 2003」のMODとして制作したものだけに,商売っけ抜きの徹底的なリサーチが行われ,あの手この手で東部戦線が再現されている。プレイヤーは「その他大勢」で「一山いくら」の歩兵となり,実にあっけなく撃ち倒される。そんなゲームが面白いの? という人もいるだろうが,そんなゲームが面白いのだ。それはなぜか? というのが今回のテーマである。

 

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人の技量にはまったく関わりないマルチプレイFPS

 

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リアル系とはいえ,自分がマップ上のどこにいるかぐらいは表示可能。いや,これがないと迷子になる

 対戦を主眼においたFPSは,それがリアル系であれスポーツ系であれ,個々のプレイヤーの技量を競い合うものだという暗黙の前提がある。もちろん多人数vs.多人数であればチームワークが非常に重要になるし,ときには運が味方する(あるいはしない)場面にも遭遇するが,その根底を支えているのは個人のテクニックだ。

 だが,必ずしもすべての作品がそうだというわけではなく,そしてまた,そうでないと面白くないのかいえば,必ずしもそうでないのが,実に面白いところだったりする。

 

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歩兵は地べたを這いずってなんぼ。小銃の精度は比較的高いとはいえ,100m以上の距離で当てるのは結構大変

 この「そうでない」の,かなり鋭い例として挙げられるのが今回紹介する「Red orchestra: Ostfront 41-45」(以下ROO)だ。
 ROOはもともと「Unreal Tournament 2003」のMODとして制作された,第二次世界大戦/東部戦線モチーフのFPS(大型MODによる西部戦線とアフリカ戦線もある)で,徹底したリアリティを売りにした作品だ。現在は「Steam」などで購入でき,商品化から3年以上が経った今なお,ネット対戦が盛んにプレイされている人気ぶり。
 これほどまで長期間にわたって一定のポピュラリティを維持できる背景には,ROOが文字どおり「ユニーク」なゲームであるということが挙げられるだろう。ROOのゲーム体験は,ほかのFPSではなかなか味わえないのだ。

 

 

地獄の東部戦線を追体験するツールとして

 

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MAPの状況を簡単に説明してくれる,一種のヒストリカルノート。読まなくても基本的に問題はない

 ROOでは,普通のFPSが当たり前のように備えている要素が,(意図的に)大幅に欠落している。
 例えば,銃を撃ったらどこに命中するのかをガイドするレティクル(照準線)は,ROOには存在しない。狙って撃つには,アイアンサイトを使わなければならないのだが,現実を考えてみれば,これは実に当たり前のことだ。
 自分の持っている銃に何発の弾丸が残っているかも分からない。現代的なシースルーのマガジンならいざしらず,当時の鉄製マガジンでは残弾確認は容易ではない。プレイヤーは残りの弾数を常に頭に入れていなければならないのだ。

 ヘルスゲージは存在しない。致命傷ゾーンに打撃を受ければ,それがたった1発の弾丸であっても,それまでだ。手を撃たれれば銃を落とすし,足を撃たれれば動きが遅くなる。頭や胸を撃たれれば死ぬ。シンプルかつ現実的だ。

 

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ドイツ軍の高射砲陣地を攻め落とそうとするソビエト軍。高台を延々と登っていくマップは過酷のひとこと

 

 職能ごとの,火力の厳密なバランスは存在しない。ROOにはSMG(サブマシンガン)やLMG(ライトマシンガン)といった高火力を誇る武器,あるいはシナリオによっては世界初のアサルトライフルであるstg44を持つ兵士もいるが,一般的な兵隊が持っているのは単発式のボルトアクションライフルだ。遠距離での戦いとなればSMGよりずっと便利だが,連発ライフルの不利感は否めない。もっとも,戦場には武器が(死体と一緒に)ごろごろ落ちているので,必要ならば現地調達で賄えばよいのだが。

 味方が撃った弾だから,味方にはダメージを与えないなどというご都合主義は存在しない。手榴弾や梱包爆弾,砲兵支援や戦車砲も同様だ。TK(チームキル)が一定回数を越えると対戦部屋から締め出されるが,意図的ではない累積TKで締め出される不名誉は,ROOプレイヤーであれば一度は経験があると思う。

 

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橋を挟んでの激しい攻防戦。遮蔽物がほとんどないので,必然的に負けているほうが消耗戦に引きずり込まれる

 

 一方,ルールは基本的に陣地占領戦だ。攻撃側が一定時間内にすべてのキャプチャーポイントを占領すれば攻撃側の勝利。できなければ防御側の勝利である。マップによってはゲーム終了時にキャプチャーポイントの占領数が多いほうが勝つ場合もあるが,問題とされるのは常に占領状況だ。
 このため,実のところROOでは火力の差はあまり大きな問題にならない。さすがに戦車と歩兵くらいの差があるとダメだが,そうでもない限り,キャプチャー地点において敵軍よりも人数で上回っていることが最も重要であって,銃撃戦はそれを実現するための手段に過ぎない。
 そして,同じキャプチャーポイントの支配を巡り,互いに遮蔽物の陰から撃ち合うような状況が頻発する。こうなると,相当のスキル差がない限り人数が少ないほうが単純に不利だ。数は,ほぼ常に正義である。

 

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砲撃が近くに落ちると視界がぶれる。スクリーンショットがピンボケしているわけではないので注意

 

 つまりROOにおいて追求される「リアル」は,「現実に起こるのはこのような状況ではないだろうか」という架空のリアリティではなく,実際に発生した戦争における,ごく普通の兵士達にとってのリアルなのだ。
 しばしば指摘されるROOの弱点として,ゲームのテンポが悪い,移動が遅い,銃が当たらない,フレンドリーファイアが嫌だ,戦車が出てきたら普通の歩兵には何もできないといったものが挙げられるが,これらの指摘はまったく正しい。
 戦争は映画のようにテンポよく進んだりしないし,重たい荷物を背負った兵士が延々とダッシュしたりはできない。誤射はあちこちで起こり,戦車を前に対戦車装備を持たない歩兵は何もできないのだ。

 

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銃弾が近くを飛ぶと恐怖で視界が軽くゆがむ。反射的に伏せるかしゃがむかしたくなる

 

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昔のゲームだが,グラフィックスの水準は必要十分(だと思う)。これはダンツィヒの街での攻防戦

 ROOにおいて,プレイヤーはとにかくやられる。呆れるくらい死ぬ。しかしそれは,現実を誇張はしていない。とりわけ,数々の証言や統計数字が教える東部戦線においてはだ。誇張があるとすれば,単位時間に死ぬ人間の数が多いというだけで,それさえ誇張とはいえないケースだってある。
 そうやって無数の屍を積み重ねながら,建物一つ,広場一つ,ときには部屋一つの支配を巡って争う。この血まみれの団体戦が,東部戦線なのだろう。ROOはそれを追体験させてくれる装置として有用に機能する。

 

 

「見せない」という演出とシステム

 

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死んだらリスポーンするが,陣営全体で数に上限がある。それを過ぎると生き残っている仲間の背中を眺め続けることに

 「チームワークが勝利の秘訣」というFPSは,とても多い。そして実際,ほとんどのFPSのチーム戦は,緊密なチームワークが勝負の行方を握っている。けれど,そうはいっても個人のスキルというのは重要で,多少のチームワークの差は個人の能力差で埋め合わせられてしまうこともままある。
 ROOでは,個人の能力差が戦場の行方を決定することは,あまりない。一人の明らかな愚行がゲームを決めてしまうマップがないわけではないが(筆者の知る限り一つ,そういうマップがある),一人の英雄的な活躍が勝利を導くことは,まずない。

 

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リロードの描写もいちいち非常に細かい。拳銃を持ってダッシュすると,勝手にセーフティをかけたりする

 実はこの方針は,ROOのゲームシステムや設計がそうであるというだけでなく,インタフェース部分にもおよんでいる。
 ROOでは,キル数/デス数にほとんど意味がないだけでなく,ゲーム中に参照することもできない。FPSでよくある「K/Dレート」に固執することはシステム上,不可能だ。スコアは存在するが,これはキャプチャーによって上昇する部分がほとんどで,戦場から遠く離れた場所で伏せて狙撃に専念しても,スコアはまったくのびない。そもそも,スコアに固執することにも意味がない――重要なのは集団の勝利であって,個人のスコアではないのだ(Steamの「功績」に記録されるというギミックが増えたが,これはもう余技の部分といっていい)。

 

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ソビエト軍の対戦車ライフルが,いままさにドイツ軍の戦車を捕らえようとするところ。この後,奇跡的に戦車の破壊に成功

 個人的には,この「K/Dを評価しないシステム」というのは,ROOのようなリアル系FPSにとって実に素晴らしいギミックだと思う。ROOの面白さは,ままならない歩兵の群れによる集団行動であり,それはすなわち戦場を追体験するという面白さである。そこにおいて,DはともかくKに拘ったプレイが主流になると,ゲーム自体を壊してしまいかねない。
 また,軍隊においては「突撃しろ」と言われれば,明らかにやられる場面においても突撃するのが兵隊の仕事である。実際ROOでも,何人か死ぬことがわかっていながら突撃すべきシーンは多い。こういうシステムで,Dの少なさを評価することは,あまりにも意味がない。ゲーム的な累積ペナルティが存在しないからこそ,ROOでは戦場の熱狂にとりつかれたかのような突撃というリアリティが成立する。

 

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ちょっといい感じの村はずれだが,そこでも死闘は繰り広げられる

 

 実際のところ,この「あえて見せない」「あえてカウントしない」という方法論は,ROOだけに限った技法ではないように思う。
 いわゆる職人芸が存在するゲーム――FPSに限らず,シューティングや音ゲー,格闘ゲームといったジャンル――において,最近ではハイスコアや勝率,リプレイなどをインターネットで共有するのが一つの常識になりつつある。

 

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ソビエト軍が占領する駅舎に向かって突撃するドイツ兵たち。ここから地獄の塹壕戦がはじまる

 それはそれで,深く楽しみたい人にとっては励みになるし,目標にもなる。けれど,純粋にゲームを楽しみたい人にとってはどうだろう? ただ弾を撃ち,音を鳴らし,ステップを踏み,技を出すのが楽しいという,ジャンルにまつわる原初的な楽しさにとって,それが客観的な数値で判断されて全世界レベルで比較されるという仕様は,本当にその楽しさを促進しているのだろうか?
 「数値で評価されることを,人間は楽しむ」という意見は確かに存在する。またそれを否定するつもりもない。けれど,ゲームの楽しさは,評価される楽しさと完全に一致はしないだろう。ただ遊んで単純に楽しい。この楽しさに,評価の関与する余地はないと思う。

 

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ときにはそっと隠れて占領し続けるのも作戦。というかそのほうがずっと大事

 ハイスコアや功績といった,記録の蓄積と顕示という「コミュニケーションの面白さ」に,我々は少々目を眩まされすぎてはいないだろうか。ゲームをただのゲームとしてライトに楽しむサイレントなプレイヤーのことを,無視しすぎてはいないだろうか。彼らに対し,「マニア向けの仕様もありますが,その部分は無視すれば楽しめます。でも本当に楽しみたいなら,マニア向け仕様にぜひ取り組んでください」と言うだけで,ケアしたことにしていないだろうか。
 「気にしなければいい」と言うのであれば,「気にせずに済む」システムを組み込むべきで,それはそんなに哲学的な問題ではない――単に,例えばスコアが表示されないとか,その程度のことだ。けれどその程度のことが,ROOにおいては,ゲーム性の根底にまで影響する。

 極論すれば,ROOは,ただ走って,闇雲に銃を撃って,誤射したりされたり撃ち殺されたり,自分の投げた手榴弾で死んだり,偶然敵兵を撃ち殺したり,匍匐前進中に突然死したりする,それだけで(というかそれが)面白いように作られた作品だ。評価と呼べる評価は「あなたたちは勝った」「あなたたちは負けた」しか存在させておらず,集団の勝利だけを追求する「組織戦」という戦争の真実と結び付けられているからこそ,そこに一層のリアリティを感じる。

 

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車両に乗り,銃座に座るとこんな感じ。外部カメラのない時代の装甲車両なんだから当たり前だが,視界はおそろしく狭い

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シングルプレイも可能だが,BOTのデキがイマイチなのでお勧めできない。マップを理解する助けになる程度

 

 ROOは,現在「Unreal Engine 3」でのリメイクが進行している。グラフィックスはROOのリアリティの本質ではないが,なんにせよ新作が出るというのは常に良いニュースだ。東部戦線の過酷な戦場を追体験しつつ,期待して待ちたい。

 

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
 最近,新しいPCにリプレースしたという徳岡氏。とある有名なパラドゲーのなんとか3のプレビューバージョンが,何時間も思考し続けているのに業を煮やした結果だそうだ。いやー,Core 2 Duoはすごいですねえ。実に速い。すばらしい。と感動の様子なので,Core i7の話はしないほうがよさそうだった。
  • 関連タイトル:

    Red Orchestra: Ostfront 41-45

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