ニュース
新機軸アドベンチャー「ファーレンハイト」の真の魅力に迫る
「ファーレンハイト 日本語版」は,メディアカイトから4月14日に発売されたアドベンチャーゲームだ。本作がどういったゲームなのか,その概要については「こちら」の記事などですでにお伝えしたとおり。今回の記事では,序盤のレストランを舞台に,本作の大きな見どころである「アクション場面」に着目してみることにした。
ゲームの舞台となるのは2009年のニューヨーク。ごく普通の会社員である「ルーカス・ケイン」は,レストランのトイレで,いきなり見知らぬ他人を刺殺してしまう。これは自らの意思ではなく何者かに操られていた模様で,我に返ったルーカスは茫然自失。しかし事態はさらに深刻で,店内には警察官も訪れており,いつトイレに入って来てもおかしくない状況だ。
トイレには主人公以外に誰一人おらず,手には血まみれのナイフ,そして足元に横たわる死体。ファーレンハイトは,このような絶体絶命のピンチ状態から始まるのだ。まずはなんとかしてこの危機的状況を切り抜け,容疑者として追われながらも,事件の真相を解明していくのが目的となる。
もう,このプロローグからして緊迫感たっぷりの展開だが,本作のアクション要素は,この「緊迫感」をさらに盛り上げるために存在している。
アクションといっても,操作自体は「LキーとRキーを交互に素早く押す」などといった具合で,極めてシンプル(キーボードとマウスでも遊べる)。これらは「謎解きの合間に挿入される,取って付けたようなミニゲーム」といった興ざめなイメージでは全然なく,むしろ,ストーリー展開の中で緊迫感が高まってきたときなどに始まる,より一層ドキドキ感を高めるための演出といえる。
■そこかしこに散りばめられた選択肢と遊び心
本作で驚かされるのは,大量に用意された選択肢による,行動の幅の広さにある。
もちろん,ほとんどの選択肢は,その後の展開を大きく変えてしまうというわけではない(中には大きな分岐もある)。死体を隠そうが隠すまいが,凶器を処分しようがしまいが,店内でお金を払おうが払うまいが,話の大筋としては同じ展開が待っている。
しかし細かい変化を生む可能性のある,「この行動にはどういった意味があるんだ?」といった選択肢が,ゲーム中には数多く用意されている。中には本当に意味のない,単なるお遊びのものもあるだろう。元いた席に戻って食事の続きをしてみたり,ジュークボックスを使ってみたり,カウンターに座ってテレビを見たりなんてこともできる。警官に自分から話しかける,なんて選択肢もあるのだ。
しかし,お金を払わないで店を出ようとするとウエイトレスに呼び止められ,席に戻って払うか,そのまま逃げるかという新たな選択肢が生まれる。どこかで小銭を見つければ店の公衆電話が使えるが,後で警察に通話履歴を調べられる可能性もあるのだ(それもプレイヤーの行動次第)。
■危機的状況の果てに待つのは安堵か破滅か
危機的な状況の中で,さまざまな選択肢が用意されている。ということは,当然さまざまな結末も用意されているということだ。多くのプレイヤーが最初のプレイでおそらく迎えるのが,トイレの中でもたもたしているうちに警官がやって来て,その場で逮捕。破滅。うわーん! というエンディング(ゲームオーバー)だろう。
しかし,もし警官がトイレに入ってきても,死体を隠していれば若干の猶予が生まれる。警官が個室のドアを開けて死体を見つけるまでの,わずかな時間のうちに店内から脱出すれば,助かる可能性は高くなる。もちろん,たっぷり余裕を持って店の外に出ることも可能だ。
しかし無事に外へ出たところで,どうやら家まで歩いて帰るのは無理らしい。視界の悪い吹雪の中,なんとかして交通手段を探さねばならない。もちろん危機的状況にあることに変わりはなく,ゆっくり歩き回っている余裕はない。無事この地を抜け出て次のチャプターへと進めるのか,はたまた殺人犯として逮捕されるのか,最後まで気は抜けないのだ。
■3人の主人公の個性が物語にさらに深みを
主人公ルーカス・ケインを無事に帰してやると,チャプター2に進んで第2,第3の主人公が登場する。そう,ファーレンハイトには全部で3人の主人公が存在するのだ。
その主人公とは,「カーラ・バレンティ」と「タイラー・マイルズ」の2名。二人ともニューヨーク市警の刑事だが,カーラは男勝りの根性を見せる女性刑事,かたやタイラーは元ギャングの経歴を持つというユニークなコンビである。
プレイヤーは,先ほどのレストランへやって来た二人を操り,今度は殺人事件の捜査を行う。最初のチャプターでプレイヤーがルーカスに何をさせたかによって,現場の状況,ウエイトレスの証言などは少しずつ変わってくるのが実に面白い。例えばチャプター1で凶器のナイフを隠していた場合,チャプター2ではその凶器を探さなければならない。まったく,余計なことをしてくれたものである。
「アクション場面」に匹敵する,本作のもう一つの面白さ。それは主人公が3人いることだ。このチャプターでは,カーラとタイラーを切り替えて交互に操作することになる(切り替え可能なシーンのみ)。しかし二人の性格があまりにも違うせいか,目を付けるところもかなり異なるのである。
例えばルーカスのテーブルを調べた場合,カーラはテーブルの上にコーヒーとコーラが同時にあることを不審に思い,タイラーは領収書にコーヒーがないことを不審に思う。チャプター1でルーカスが自分の席に再び座っていた場合,カーラは座席に血が付いていることを発見する。
外にいるホームレスから有力な情報を聞き出せる可能性があるのはカーラのみだったり,タイラーで公衆電話を調べると私用の電話をかけるのに対して,カーラで調べると通話記録の調査を依頼したり,タイラーがジュークボックスで曲をかけるとカーラが怒ったりと,何かとカーラの優等生っぷりが目立つ。しかしタイラーはタイラーで妙に鋭いセリフを吐くことが多く,また肝心の隠された凶器を探し出すのは,イタズラ心(?)の旺盛なタイラーである。なんというか,実にいいコンビなのだ。
■アクションゲームの偏見を打ち破る斬新なタイトル
アドベンチャーゲームのタイトルと聞くと,画面をひたすらクリックしてストーリーを追っていくだけ,という内容をイメージする読者も多いだろう。アクションシーンなどは,むしろ排していることをウリとするアドベンチャーゲームのほうが圧倒的に多い。だが本作のアクション性は,その固定概念を打ち破るに十分で,プレイしていて実に新鮮である。
さらに,主人公が紛れもない殺人犯であることを,プレイヤー自身が最初から分かっているという大前提が,物語の中に緊張感を生み出している。しかもプレイヤーは,刑事側の動きも逐次分かっているため,ルーカスが捕まったりしないかというハラハラドキドキが,いつまでも続くのだ。この立場から一体どのようにして身の潔白を証明してくのか,最初の時点ではまったく想像もつかない。しかも本作のストーリーは途中で分岐し,マルチエンディングになっている。
本作の最大のウリである,アクションや操作システムに興味を持った読者は,とりあえずデモ版(英語版)をプレイしてみてほしい。例のトイレからの脱出シーンをプレイでき,この範囲内だけでも本作の緊迫感がひしひしと伝わってくるはずだ。(ライター:川崎 政一郎)
- 関連タイトル:
ファーレンハイト 日本語版
- この記事のURL:
Manufactured and marketed by Atari Europe SAS. Created by David CAGE, Developed by Quantic Dream(C)2006. All rights reserved. Developed with the help of Centre National de la Cinematographie. All other trademarks are the property of their respective owners. Licensed by Atari Japan.