インタビュー
[OGC2008#01]日本のオンラインゲーム市場規模は予測の3分の1以下。ダウンロードサービス会社CDNetworksがゲームのPRを支援する理由
このイベントは,BBAが昨年まで開催してきた「Asia Online Game Conference」(AOGC)の後継に当たり,オンラインゲームとその周辺をテーマとしたセッションが多数開講されるのだが,名前と開催期間の変更に応じてか,今年は必ずしもオンラインゲームに限らず,広くWebコミュニティサービスを題材にした催しとなる。その象徴といえるのが,コーエー 代表取締役 執行役員 社長 COO 松原健二氏と並んで,「ニコニコ動画」を運営するニワンゴの代表取締役社長 杉本誠司氏が基調講演を担当することだろう。
ただし,オンラインゲームの運営はいまさら言うまでもなく一種のコミュニティ運営でもあり,また,例えば「ニコニコ動画」のサービスが,UCC(User Create Contents)の話題としてゲームにも絡んでくるのは必然だ。今後オンライン対応タイトルの整備を進めるコンシューマゲームプラットフォーム関連の講演も含め,PCオンラインゲームの関係者に向けられたカンファレンスとしては,異色ながら有用なラインナップになっている。
そんなOGC 2008のメディアパートナーとして,4Gamerではこれから,個々の講演を担当する講師の方々へのインタビューを通じて,講演のプレビューおよび,ゲーマーにとって気になるであろう関連情報をお届けしていく。それらの記事を参考に,自分が聴くべき講演を選んでいただければ幸いだ。その第1弾として,今回は,多くのオンラインゲームパブリッシャに,ダウンロード/ストリーミングソリューションを提供するシーディーネットワークスジャパンの,ゲーム支援事業部・部長 久保田克彦氏の講演予定内容を扱う。
そんな,オンラインゲームに欠かせない分野で,韓国において9割以上のオンラインゲームサービスに採用されている――つまりディスクスペースと配信帯域を貸している――のが,CDNetworksのソリューションだ。2005年1月には日本法人シーディーネットワークス・ジャパンが設立され,日本でも同様のソリューションを展開,日本でサービスされているオンラインゲームの5割以上,6割近くがこれを採用しているという。分かりやすいところでは,「リネージュII」のクライアントダウンロードがそれだ。ダウンロード画面をよく見ると「CDNetworks」の名が入っている。
また,携帯電話向けサービスの「モバゲータウン」,ストリーミングコンテンツでは「オリコン」などが,同社の顧客の代表格といえるだろう。
汎用的なCDNサービス(ストリーミング用途がメイン)では,米Akamai社が圧倒的なシェアを持っているものの,CDNetworksはオンラインゲームサービス向けのノウハウを豊富に蓄積して,今日の地位を築いた。そして日本法人シーディーネットワークスジャパンは,CDNソリューション提供に留まらず,持ち前の技術を生かしてストリーミング放送によるオンラインゲームのPRに乗り出した。
ブロードバンド推進協議会(BBA)が3月14日に開催する「Online Game & Community Service conference 2008」では,その狙いと具体的なサービス内容が講演されるのだが,それに先立って,講師を務めるシーディーネットワークスジャパン ゲーム支援事業部・部長 久保田克彦氏にインタビューを行った。講演のいわばプレビュー版を兼ねて,インフラ提供者であるシーディーネットワークスジャパンから見た日本のオンラインゲーム事情に興味をそそられる人は,ぜひお読みいただきたい。
プロモーションを含めたワンストップサービスを提供
本日はよろしくお願いします。OGC 2008では,「ネットゲッチャ」の講演をされるそうですね。まずこれについて,簡単に教えていただけますか。
久保田克彦氏:
ネットゲッチャは,毎週木曜の8:00PM〜9:00PMに放送しているリアルタイムストリーミング番組です。オンラインゲームのPRを目的としています。
4Gamer:
それは,シーディーネットワークスジャパンの新しい収益事業なのですか?
久保田克彦氏:
いいえ。現在は当社のソリューションをご利用いただいているパブリッシャ様への無料サービスとして展開しています。ただし,当社のCDNサービスをご利用いただいているパブリッシャさん以外に,PR手段として着目していただけた場合は,また違ったプランを考えていかねばならないわけですが。
4Gamer:
とりあえずはCDNサービスを核としつつ,一種の顧客サービスとして立ち上げた,ということですか。
久保田克彦氏:
そう考えていただいてけっこうです。CDNサービスを本業とするシーディーネットワークスジャパンですが,昨年(2007年)11月から,方針が大きく変わりました。
ストリーミングサービスは,もともとシーディーネットワークスジャパンが手がける事業の中で,それほど割合が大きくなかったのですけれども,まずこれをもっと伸ばしたいということです。また,日本におけるオンラインゲームの市場が,思ったより伸びていないという事実が背景にあります。
4Gamer:
そこで積極策に出た,と。
久保田克彦氏:
もっとシェアとサービスを拡大するのにどうしたらよいだろうかと考えたとき,我々がプロモーションのお手伝いをしていくべきだろうと。その結論に基づき「動画をプロモーションツールとして考えてみませんか」と提案するのが,ネットゲッチャなのです。
4Gamer:
なるほど。それで独立事業になっていないのですね。
久保田克彦氏:
そうです。サービスメニューの拡大と思っていただいたほうがよいと思います。私達がスタジオを持って撮影し,映像の編集もするコンテンツとして,コンソールゲームタイトルを扱う「ゲッチャTV」という番組を,もう7年ほど作ってきています。その中に,クライアント様のオンラインゲームを専門に扱う番組を作ったという形なのです。
4Gamer:
それで,いきなりコンテンツのプロデュースや制作ができてしまうわけですか。
久保田克彦氏:
はい。番組を企画して,制作して,必要とあらばリアルタイムでエンコードして配信できてしまう。もともと配信が専門分野ですからね。それから,撮影したものを編集し直してアーカイブ化し,いつでも見られるVODコンテンツとしての提供も,私共のほうで行えるわけです。
私達の考えているビジネスモデルとしては,オンラインゲームのファイル配信に関して,ワンストップのサービスを提供させていただきます,ということです。
4Gamer:
プロモーションも込みで。
久保田克彦氏:
そう,ゲーム会社さんには面白いゲームの企画・開発・運営に注力していただいて,それ以外のところは全部請け負わせていただきますと。
4Gamer:
その三つのうち,運営は外に出す場合もありますよね?
久保田克彦氏:
ええ。運営会社もまた,当社のCDNサービスにとって大事なお客様になっています。サービス運営のための人的リソース確保に苦労している会社さんが多いのと同様に,どうやって会員を増やしたらよいか,どうやってロイヤリティユーザーさんを作っていくかと考えたときに,十分な力が注げない会社さんが多いのです。
4Gamer:
本業と親和性が高い,つまりシーディーネットワークスジャパンとして手がけやすいサービスであることはよく分かりました。それにしても,これはある意味大所高所からのアプローチですよね。そこはやはり,オンラインゲームに密着しつつ,高いシェアを誇る会社ならではというところですか?
久保田克彦氏:
そうです。当社のダウンロードトラフィックの多くはオンラインゲームパブリッシャさんのものですから,オンラインゲームがどれだけプレイされているかは,当社にとっても大変重要なファクターとなります。
4Gamer:
ああ。ゲームの好調不調が,そのままシーディーネットワークスジャパンとの契約規模に反映されてしまうと。
久保田克彦氏:
そこで考えたとき,せっかくソリューション提供に到ったにもかかわらず,いまだとサービス開始から半年や3か月くらいで,サービス停止になってしまうオンラインゲームもあるわけです。
これをなんとか盛り上げて,サービスを無事継続してもらうため,ダウンロード需要を伸ばしていくためには,プロモーション面でもお手伝いしていかなければならないでしょうと。そういう次第です。
4Gamer:
ゲームサービスが栄えてこそ,シーディーネットワークスジャパンが栄えると。
msnビデオでの配信を含め,リッチな動画サービスを
そういうことですね。それをOGC 2008でお話ししようと考えています。とくにいまブロードバンド化が進んでいて,オンラインゲームを楽しむ方の光回線率は非常に高いはずなんですけど,動画といったリッチコンテンツに質の高いもの,ユーザーさんが求めているようなものがあるかというと,あまりない状況です。そういうことなので,私達がお手伝いしましょうと。
オンラインゲームのプレイヤーさん達は,基本的にリッチコンテンツを取り扱っている方々なので,それ相応のPCとインフラ環境を持っています。そこに,広く一般を視野に入れた動画配信を行ったのでは,きっと満足しないでしょうと。
4Gamer:
解像度が低く,尺も短いのではもったいないと。
久保田克彦氏:
ええ。であればそれこそ,2Mbpsが当たり前の配信をしても,オンラインゲームプレイヤーさんの多くはそれを持っていると考えています。その人達にオンラインゲームを楽しんでもらうために,もっと掘り下げたコンテンツを作っていきたい。
4Gamer:
ははあ,なるほど。
久保田克彦氏:
かつそれが,シーディーネットワークスジャパンという会社を利用していただいているコンテンツプロバイダーさん達に対する我々の使命だし,付加価値になり得るのではないかと。オンラインゲームと動画は相反するものではなくて――。
4Gamer:
相携えていけるものだと。
久保田克彦氏:
そうです。動画を使うことでオンラインゲームをより魅力的に見せられるものなんですよと,提案したい。実際の講演では,番組の制作過程を見せていこうと考えています。企画/撮影/編集/配信,そしてその効果についてです。
4Gamer:
制作された番組の配信元は,シーディーネットワークスジャパンが運営するサイトになるのでしょうか?
久保田克彦氏:
いま「HitPops」という動画の配信サイトを運営していまして,「アニメ&ゲーム」というカテゴリーの中に「ゲッチャTV」というサイトがあります。ここは各コンソール機のゲームを6年間くらい毎週取り上げて,毎週木曜日に放送しています。
これのオンラインゲーム版となるわけです。これを毎週火曜に放送したあと,ゲッチャTVと同じくMicrosoftの「msnビデオ」で配信されます。
4Gamer:
Windowsメッセンジャーとの連動は「おいしい」ですね。チャットツール部分に関しては,オンラインゲームの広告が非常に多いですし。回し方によっては,十分に収益事業化できそうな気がします。
久保田克彦氏:
はい。収益の方途は二つあると考えていまして,一つは当社のCDNサービスを利用していただいているパブリッシャさんへのサービスですから,これによるダウンロード/ストリーミングの増加は,そのまま当社のメリットです。もう一つは,動画プロモーションの効果を実感していただいたときに,プロモーションビデオの作成といった形で,新たな発注案件が生まれます。そうした受発注は実際に動き出しています。
4Gamer:
うーん,うまくしたものですね(笑)。ところで,動画プロモーションをオンラインゲームに限らない分野に広げていく展望はお持ちですか?
久保田克彦氏:
リクエストがあれば,それも考えていきます。ただし,現時点では私達のお客様であるオンラインゲームパブリッシャさんに対するサービスと考えていますので,その領域を越えるつもりはありません。ご依頼には応じると思いますが,積極的に進めていくという感じではありません。
ただ,動画によるPRには思わぬ付帯メリットがありまして,私達が提供しているインフラ事業では,トラブルでもない限り,パブリッシャさんがご来社していろいろ話すという機会がないわけです。番組制作を通じて,パブリッシャさんとのやりとりが密になるのは,ありがたいことだと思っています。
4Gamer:
パブリッシャさん同士でも,お話しする機会になりますしね。
久保田克彦氏:
ええ。パブリッシャさん同士だと,トップレベルは交流があるものですが,ここでは現場の人同士なので,それなりに意味がある気がしますし。
UCC動画サイト向けのソリューションも兼ね備える
ところで,動画プロモーションの効果といえばむしろ,UCC(User Create Contents)による効果が取り沙汰される昨今だと思います。CDNetworksのソリューションとしては,公式サイトにUCCも挙げられているのですが,日本でも取り組んでいく予定はありますか?
久保田克彦氏:
UCCに関する公式サイトの情報は,もっぱら韓国でのサービスを意味しています。いまのところ,日本で当社が直接UCCサービスに乗り出すつもりはありません。UCCサービスサイト向けのソリューションでは,どこよりも優れている自信がありますし,実際に日本でソリューション提供を行っていますが,コンテンツ提供(注:ここではサイト開設などを指す)などは考えていないですね。
4Gamer:
題材がオンラインゲームであれ,動画のストリーミングサイトであれ,UCCサイトであれ,シーディーネットワークスジャパンのサービススタンスは変わらないということですね。
久保田克彦氏:
そういうことです。そしてエンドユーザーさんにもシーディーネットワークスジャパンのサービス内容を知っていただき,3年後くらいには,シーディーネットワークスジャパンがバックボーンを提供しているサービスは,良好であると思っていてもらいたいな,という目標で動いています。
4Gamer:
いまのところ,日本におけるUCC動画は専門サイトに集まっている状況ですが,一つの考え方として,パブリッシャ自身が手元でその効果を活用することもあり得ると思います。
そうしたとき,パブリッシャさんに向けて日本でUCCソリューションを提供する可能性はあるでしょうか?
久保田克彦氏:
可能性は十分にあると思います。というよりも,できればそういう方向に持っていきたいと考えています。ノウハウ自体は,同業他社さんと比べたとき,いちばん持っていると自負していますので。
4Gamer:
漠然とした話で恐縮ですが,UCC動画の配信元が今後とも一元化している理由は,必ずしもないと思っています。いろいろなUCC動画サービスが交錯するなかで,シーディーネットワークスジャパンのビジネスチャンスが広がっていく可能性もあるわけですよね。
久保田克彦氏:
実際,私達が制作した動画が既存のUCC動画サービスサイトにアップロードされることもありますが,それについて私達が何か言うことはなく,パブリッシャさんの利害で自由に判断してもらっています。
4Gamer:
最も古典的なゲームの販売/サービス形態であるPCパッケージソフトですら,UCC動画の影響でセールスが変わる時代ですからね。
久保田克彦氏:
コンソールゲームでも同様らしいです。発売日にきちんと流通に乗らず,十分な数が店頭に行き渡らなかったゲームでも,プレイシーンがUCC動画として増えていくにつれて,セールスが伸びていったという例があるそうです。ご存じのように普通コンソールゲームタイトルのセールスは,発売直後が勝負であって,そこからの下降が急激です。そこで下降線となるはずが,逆に推移したそうです。
4Gamer:
取り返しがつかないはずの機会損失が回避されたと。動画の時間的効力,つまりそこにある限り,いつでも宣伝能力を発揮し得るという特性が,うまくマッチした例といえますね。
コンソールゲームは閉じたネットワークでよいのか?
オンラインゲームを扱うネットゲッチャでなく,もとのゲッチャTVの話題になりますが,これは,各プラットフォームにまたがって紹介を行っているわけですね。
久保田克彦氏:
そうです。そして,ゲームが発売されるタイミングである週末の直前ということで,毎週木曜の夜に配信しています。
4Gamer:
今後コンソールゲームも,独自のネットワーク化を遂げようとしていますよね。そのあたりを睨む側面もあるのでしょうか?
久保田克彦氏:
そうなんです。そこが今後の私達のターゲットとなっています。つまり,私達がまだ仕事を取れていない,参入できていない領域であるともいえるわけですが。
4Gamer:
いまのところ,PCオンラインゲームとは別のトラフィックを使い,バックボーンを使うといった世界ですよね。
久保田克彦氏:
しかも,これはグローバル案件と捉えられていて,売り込む側も売り込まれる側も日本だけでは決められない問題だったりもするのです。
とはいえ日本では,コンソールのオンラインゲームが,既存のコンソールゲームとも,PCオンラインゲームとも違ったインパクトを発揮すると予測していたりしますので,これはたいへん重要な課題なのです。
4Gamer:
そうですね。そうした観測も多く存在します。
久保田克彦氏:
しかし,出自が出自ですから,まずPCオンラインゲームを育てていくのは大前提です。
4Gamer:
コンソールのオンラインゲームがどう展開し,そこでのプロモーションがどうなるか。なかなか予想の難しい話ですね。既存のPCオンラインゲームで大きな実績を持つ会社さんとの連携で,有効かつ迅速なサービスの実現を目指すのは,それなりに現実的だとは思われますが。
久保田克彦氏:
コンソールゲーム機のオンライン部分は外に対して閉じていて,インターネットではないんですよね。
4Gamer:
ええ。しばしば別のサービスでもあるとおり,WANの一種ですね。
久保田克彦氏:
ただし,そうした障壁を外す判断がどこかのタイミングでなされる可能性もありますので,そうなれば分かりやすいのですが。
やはりパブリッシャさんサイド,ゲームメーカーさんサイドでも,意識は少しずつ変わってきていると思います。コンソールゲームに出自を持つメーカーさんでも,PCオンラインゲームに乗り出すに当たって,既存の枠内でできなかったことを目指そうと考えていたりしますから。
4Gamer:
そうした先駆的な動きがあって,その成果があって,しかるのちに全体が変わるかもしれない,と。そうなってくれると面白いですねえ。
久保田克彦氏:
ただ,そうした変化に当たってはインフラが先行すべきだと思っています。その意味で,私達が技術的バックボーンをしっかり確立し,いつでもコンテンツが供給できる準備をしておく必要があるのです。それほど遠い未来の話ではないと思っていますので。
4Gamer:
この話題の延長として必然的に出てくる質問だと思うのですが,ここへ来て,PCとコンソールゲームでサーバーを共有したオンラインゲームサービスの話題が目立ってきています。これは従来不可能だと考えられていて,その理由の一つは課金システム,もう一つはアップデートの頻度や形でした。
ところが今年に入って,サーバー共有を謳う作品がさらに増えるというアナウンスがありました。これは,CDNetworksの業務にとって追い風になると思うのですが,いかがですか?
久保田克彦氏:
まったくそのとおりです。そうした展開になるでしょうと,私達は予測しています。
4Gamer:
全般的にゲームサーバーが共有され,ゲームネットワークがつながるときをビジネスチャンスと見て動いている,と。
久保田克彦氏:
ストリーミングサービスを主たるソリューションとする,ほかの多くのCDNサービスと比べたとき,CDNetworksの業務の根幹はオンラインゲームソリューションにあるのです。これは根本的な違いです。私達にはオンラインゲームとそのコミュニティを発展させる使命があり,その意味でオンラインゲームありきなのです。
オンラインゲーム独特のノウハウを誇るニッチメジャー
ところで素朴な疑問なのですが,日本におけるオンラインゲームサービスのほとんどは韓国産です。韓国におけるCDNetworksのシェアが9割以上で,その日本法人であるシーディーネットワークスジャパンのシェアは5〜6割とのお話でした。この差はどこから来ているのでしょうか?
久保田克彦氏:
最大の理由はシーディーネットワークスジャパンの設立が,わずか3年前だということです。
4Gamer:
ああ,なるほど。
久保田克彦氏:
つまりそれ以前にサービスを開始したオンラインゲームについては,受け皿になれなかったわけです。よって,独自にソリューションを持つか,私達以前に日本で営業を開始していたAkamai(日本法人:アカマイ)さんのソリューションを利用するかして,サービスを開始したのです。
4Gamer:
なるほど。そうした時期的な要因でしたか。
久保田克彦氏:
例えばNHNさんのバックボーンは,韓国ではCDNetworksが提供していますが,日本では他社さんが提供しています。2000年から2004年に日本においてゲームサービスを提供している会社さんで,CDNetworksを利用しているところは,基本的にはないのです。韓国本社から回線を提供しているケースはあり得ますが。
4Gamer:
引き続いて業界地図的な質問ですが,オンラインゲームのダウンロードバックボーンとしては,通信/電話会社系列が名乗りを上げていた時期も,かつてあったと思います。それらの会社さんとの関係は,現在どうなっているのでしょうか?
久保田克彦氏:
NTTさん,KDDIさん,ソフトバンクさんといったキャリア系が本気になったら,たぶん私達はひとたまりもないですよ(笑)。
4Gamer:
規模の問題,ということですね。
久保田克彦氏:
ええ。回線を持っている数も違いますので。そこで彼らがやらないのは,おそらくノウハウがないからです。結果として,そこを「おいしい」ビジネスだと思わない。
4Gamer:
NTTさんには,セガさんと組んで,自前のオンラインゲームサービスを提供しつつ,バックボーンの提供ビジネスを考えた時期もありますよね。
久保田克彦氏:
ええ。現にNTT Communicationsさんは,現在もストリーミングソリューションのメニューを持っています。しかしオンラインゲーム向けソリューションに関しては,独自のノウハウがありますので。
4Gamer:
そこに追いつくための投資も含めて,事業メリットが出るかどうか,という話ですね。
久保田克彦氏:
ええ。さらにそれを,獲得できるであろうシェアと比べ合わせることになるわけですから。
日本オンラインゲーム市場規模は思惑の3分の1以下
そうすると,いまから通信会社系がどっと入ってくるような分野でもないと。
久保田克彦氏:
ええ,オンラインゲームというのが,まさしくそういう分野なのではないかと思います。私達がインフラ部分を支えているという自負を持ちながらも,まだまだ日本のオンラインゲームの市場は,当初考えていたほど広がっていないのです。
4Gamer:
これから大きくなる,大きくなると,いつまでも言われ続けている印象はありますね(笑)。
久保田克彦氏:
韓国におけるCDNetworksの回線帯域は約250GBです。それに比べてシーディーネットワークスジャパンの回線帯域は80GBほど。ちなみに日本におけるインターネットの全帯域は700GBほどといわれています。シェアの違い,オンラインゲーム以外のトラフィック分を勘案しても,これは日本におけるオンラインゲームサービスの規模が,それほど大きくないことの証左です。
4Gamer:
それは説得力のある話ですね。人口で考えれば,日本は韓国の2〜3倍になるわけですし。
久保田克彦氏:
日・中・韓を合わせた東アジア地域でのシェアを考えたとき,CDNetworksは圧倒的ですから,全体を推し量るのには十分な根拠だと思います。とはいえ,そのほとんどは韓国なんですね。
4Gamer:
中国もまだまだですか?
久保田克彦氏:
中国法人は出来たばかりなんですよ。だから中国市場は今後,韓国のそれを上回ると思っています。
4Gamer:
韓国の人口が約4500万人,中国が約12億人……。
久保田克彦氏:
韓国ではそろそろ頭打ちで,これ以上,例えばこれから市場規模が2倍になるかというと,それはあり得ない。そこで日本市場に着目してきたわけですが,日本はオンラインゲームにそれほどマッチしてないのかなと。
よく引き合いに出されるところで,野村総研さんが出された過去の市場観測では,2007年に3500億円市場になるはずだったんですよ。
4Gamer:
現実を見ると3分の1くらい……さらにもう少し低めですね。
久保田克彦氏:
1000億円強といえるかどうか。もしかしたら1000億円に届いていないかもしれないと,業界ではいわれていますよね。
4Gamer:
昨年だと厳しいかもしれないですね。今年ならともかく。そう考えると,本来伸びしろははるはずだと。
久保田克彦氏:
あるはずなんですよ。
4Gamer:
コンソールゲームが先行してきた市場であるとか,そういう特性はあるにせよ。
久保田克彦氏:
いろいろ議論のあるところですので,これはあくまで私個人の考え方であると捉えてほしいのですが,PCオンラインゲームというのは,日本の土壌にあまり合っていなかったのかもしれない。
4Gamer:
論点としてはメジャーなものですね。
久保田克彦氏:
あくまで個人的な意見ですが,一部のマニアの人以外,CPUを用意してグラフィックスカードを載せて……というプレイの必要条件が,韓国ほど合っていなかったのかもしれない。
4Gamer:
背景としては,無視できない要因ですね。
久保田克彦氏:
ですので,日本でオンラインゲームが一般的になるのは,まだもう少し先かなと。ただし,一般的になるための環境が近く整う可能性は十分にあると思っているのですが,そのときにコンソールゲームがどう変わっているかは,私にも確たるイメージがありません。
4Gamer:
難しいですね……。中身が事実上PCってことも十分あり得ますし。一方でコモディティになったPCの姿というのを,同時に想像しなければならない。
久保田克彦氏:
そうなんです。
4Gamer:
ゲームメディアで働いているとどうしても,現行のオンラインゲームが求めるスペックなど,大したものではないと思いがちなわけですが……。
久保田克彦氏:
それでもやはり,違いますよね。日本人が求めているPCの姿と,オンラインゲームを楽しむためのPCスペックの間には,現実問題としてかなり開きがあるような気がします。
聞くところによると,ゲームサービスのサポート部門に寄せられる質問で,いまだに最も多いのは「ログインできない」「クライアントソフトが起動しない」といった,スペックに関わる部分なのだそうです。
4Gamer:
CPU処理でえんえん待たされて,メインメモリが足りなければ途中でストップして,という。
久保田克彦氏:
そうです。今日的なPCでならば動くようなゲームが,手元のPCでは動かない。
4Gamer:
ある年にPCと呼ばれるものを購入したら,それはずうっと使えるものだと思っているというか。確かにメールやWebブラウズにはある程度使えてしまいますから,アップグレードの必要性があまり根付いていない。
久保田克彦氏:
少々乱暴な言い方になりますが,そう言った意味で日本の場合,コンソールのオンラインゲームで,オンラインゲームが本格的に開花したということに,なるかもしれない。確実な動作が保証されるという。
4Gamer:
サービス提供側にいろいろ課題が残されているとはいえ,その可能性はありますね。そして,その接続インフラを誰が供給するのか……という話に回帰すると。
久保田克彦氏:
そうですね。韓国発のオンラインゲームのバックボーンを支えてきた私達が,日本ではコンソールゲームを意識していかねばならないというのは,ある種皮肉な事態でもあるんですけどね。
4Gamer:
ピンチかチャンスか,一種の岐路でもありますし。……とまあ,かなり講演内容から離れてしまいましたが,最後にあらためて,講演の聴きどころといいますか,シーディーネットワークスジャパンの取り組みについて,簡潔にお願いします。
久保田克彦氏:
まあ,いままでお話してきたような事情を含めまして,本来3500億円市場にならなければいけないところが,1000億円市場に留まっている。このオンラインゲームの市場を伸ばすために,いま日本で一番足りないのはプロモーションだろうと考えています。
そのプロモーションとして,私達の圧倒的な回線,帯域インフラを使ってもらい,クライアントさんから見て満足できるようなサービスとして,動画の制作と配信を提供したいと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
ただし,そこでただ伸びないと言うばかりでなく,自社のインフラを利用して積極的な支援を打ち出しているところに,OGC 2008で行われる講演の意義があるわけだ。講演本番では,番組制作の実際をより細かく説明するとのことなので,プロモーション手段を模索しているオンラインゲームパブリッシャには,興味深いものになるのではないだろうか。氏の講演は,3月14日の第6講,会場Bで4:00PMから4:45PMに行われる予定だ。
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