インタビュー
[インタビュー]ガンホーが次に挑戦するものは?――同社の20周年を記念してCEO森下氏と4Gamer編集長の対談をお届け
ゲームを楽しむ延長線上にあったはずの“eスポーツ”
Kazuhisa:
ところで,このあいだの東京ゲームショウでは,「ニンジャラ」の大会が盛況だったようですが,その辺,eスポーツについてはどうでしょう。
森下氏:
eスポーツね……新型コロナ感染症のタイミングで,向かい風になっちゃったなって思う。
Kazuhisa:
結果的にはそうですね。
森下氏:
確かにバーチャル(オンライン)でもできるんだけどね……。
Kazuhisa:
ああいうのは,その場の熱量,盛り上がりが楽しいものですから。
森下氏:
うん。そこがうまくできなかったことは向かい風になったね。せっかく追い風が吹こうというタイミングだったから,残念な感じはある。
ただ本質的には,ゲーム大会って,プレイヤーがゲームを遊んだ延長戦にあるべきもので,うまいプレイだとかを表現する1つでもあり,楽しみ方の1つだよね。eスポーツはその要素の1つだと思ってる。eスポーツのためにゲームをやるわけではないんだよね。
Kazuhisa:
それを聞きたかったんです。いまってそこが逆ですよね。東京ゲームショウでeスポーツのパネリストで呼ばれて,司会の人に一番最初に見たeスポーツは何ですか?と聞かれたときに,「ラグナロクオンライン」のGvGですかね,と答えた覚えがあります(笑)。要はそういうことだと思うんですよ。でも,いまのeスポーツは「eスポーツっていうもの」みたいに切り離されている。
森下氏:
うん,そうじゃないんだけどね。
Kazuhisa:
それこそ昔はハドソンの全国キャラバンなどで,ゲームを楽しむ延長線上で大会に参加した子どもがたくさんいたわけです。
森下氏:
そうだね。だから「ニンジャラ」で全国キャラバンをやろうとして,ラッピングトラックまで用意したんだよ。それも,ちょうど新型コロナ感染症のタイミングで全部なくなっちゃったけど。
Kazuhisa:
ああ,それはタイミングが悪いことに……。
ニンジャラでやりたかったのは,キャラバンもそうだけど,子どものころに近くのデパートのおもちゃ売り場でやっているような大会なわけ。優勝したらキーホルダーがもらえるとかなんだけど,子どもにはそれがすごい楽しみなわけでしょ。俺もバンゲリングベイの大会でキーホルダーもらったことがあるんだけど。
Kazuhisa:
バンゲリングベイの大会! すごい(笑)。
森下氏:
得点を競うやつだったんだけどね。あのころのゲーム大会は楽しかった。eスポーツという言葉がちょっと大げさすぎてね。
別に優勝してお金だけがもらえるとかではなくて,オリジナルTシャツ1枚とか,ノベルティ的な話でもいいんだよね。よく地方の盆踊りのカラオケ大会で優勝したみたいなことを,いつまでも言うじゃない。いつまで言うんだってくらい。要はそんなローカル感が欲しいんだよね。
Kazuhisa:
まあ楽しいものであるべきですよね。
森下氏:
そんな感じで,みんなが参加できて楽しいねということをやれたらいいよね。
Kazuhisa:
でも,それは,いまのeスポーツの文脈に真っ向から反してません?
森下氏:
そういうのも必要だよっていう話。いきなり大上段からいかずに,こういうところから盛り上げていって,eスポーツを育てていくほうがいいんじゃないかなというね。
Kazuhisa:
それは,同感です。
森下氏:
別に(eスポーツに)反対はしてないからね? やめて,そういうの(笑)。いまのeスポーツに積極的に取り組んでいるから! こっちも大事,でもこっちも大事というだけ。
Kazuhisa:
下からのアプローチがないんですよね。
森下氏:
そう育てるフェーズがない。
Kazuhisa:
プロ野球選手になりたいのに,甲子園どころか地区予選すらない。
森下氏:
そういうのをできるようにしていきたいなと思ったので,ニンジャラでキャラバンをしたかったんだけどね。それがプロ化するかしないかは置いておいて。もっとローカルでいいから,大会に出る楽しみを体験させたいよね。それができなかったのは,けっこう悔しい。
Kazuhisa:
あまりにもドンピシャでしたから。
とはいえ,ガンホーはRJCとかRWC(※)とか,草の根的に15年以上前からやってきているわけで,“ゲーム大会”に対して誰よりも早くしっかり取り組んできたと思うんですよね。その中で,印象に残っているとか思い出に残っていることとかはありますか?
※RJC(Ragnarok Online Japan Championship),RWC(Ragnarok World Championship)。それぞれROのギルド戦を使ったGvGの大会
森下氏:
思い出に残っていること……やっぱりラグナロ娘(※)じゃないですか?
※ROのイメージガール
Kazuhisa:
そこ!?
森下氏:
いや,ラグナロ娘ってすごいじゃないですか(笑)。これ本当にやろうと言ったときにみんなから「何がしたいんですか?」って言われたもん。
Kazuhisa:
それは……言うかもしれませんね(笑)。とくにあの頃は,この人は何を言い出すんだって。
森下氏:
でも,一番の思い出は,ラグナロ娘を使ってインターネットの生放送をやったことかな。「あっ!とおどろく放送局」で番組を持ってた。
Kazuhisa:
覚えています。あれはいつくらいでしたっけ?
森下氏:
2003年とか2004年くらいかな。インターネットでゲームを実況プレイしたり,プレイヤーとコミュニケーションを取るためにゲーム内のチャットを使ったり,当時2chのスレッドでコメントしていくとかもあったね。
Kazuhisa:
そもそも,あの頃は生放送ってそんなになかったでしょう。
森下氏:
なかった。だからうちが初めにやったと思うんだよね。それがニコ生になり,いまとなればYouTubeになりといった感じだったね。インターネットで生放送番組をやりながら,2chのスレッドでコミュニケーションできるとか,時代の最先端ですよ(笑)。
Kazuhisa:
そんなレスポンスが返ってくるSNSが少なかったし,IRC(※)がまだ現役でしたよね。
※Internet Relay Chat。サーバーにチャンネルを立てて,そのルーム内のメンバーとだけで会話するチャット方式
森下氏:
そうだ,現役だった。
Kazuhisa:
時代……ですね。しかし,さっきも言いましたが,意外と最先端なことやってますよね,ほんとに(笑)。
森下氏:
意外とそうなんだよ(笑)。でも,そういうことでユーザーに新しい体験,新しい見せ方ができる,いろいろチャレンジできた時代なんだよね。逆に言うと,いまはチャレンジできないというか,決まったものの中でやっていすぎて,その意味では面白くない。
Kazuhisa:
そうですね。あと何でもかんでも結果がすぐに分かってしまうのも,本当に良くないと思っているんですよね。
そうだね……。話を戻すけど,RJCとかRWCはあくまでゲーム(RO)を楽しむ延長線上のコンテンツなので,あれをやるためにラグナロクがあるわけじゃなかった。でも,ああいう大会をやってきたことで,それがノウハウになってガンホーフェスティバルだったりをやっていけたんだよね。
Kazuhisa:
大きなノウハウになったでしょうね。
森下氏:
うん。自分たちが試したことで「うまくいったこと/いかなかったこと」「こういうことをやるのは良いこと/良くないこと」だとかが洗練されていったのは事実だと思うんだよ。だから,それはパズドラの運営にもすべてが下地として生かされている。あの頃にやってきたこと自体は,手探りしながらのチャレンジだったけどね……手探りにもほどがある。
Kazuhisa:
あの頃はみんなそんなもんでしょう。
森下氏:
実際に成功事例がなかったからね。
Kazuhisa:
先駆者がいなかったから,しょうがないんですよね。
森下氏:
やることすべてがチャレンジだから,どうなるか見えないけれどやってみようと。でも,自分は楽しかったんだろうね。うまくいかなかったらすごく凹むけど,でもうまくいったときは「なるほど,そうなんだ」と思えて楽しい時代だったんだよ。
Kazuhisa:
そう思うと昨今は少し寂しいですね。
森下氏:
チャレンジしてみたい,したいと思うところはあるんだけど,この10年はあまりにも平穏無事というかね。
9割が子ども層という「ニンジャラ」のピークタイムは朝と夕方
Kazuhisa:
せっかくなので,最近と言っていいのか分からないですが,「ニンジャラ」について,どんな調子なのか聞かせてもらえませんか。
森下氏:
ニンジャラは次に向けた壮大なプロモーションだと思ってるんですよ。
Kazuhisa:
ほう。
森下氏:
とにかく子どもしかいない。小学生の低学年層とか,とにかくお金を払ってくれない方々がメインターゲットなので(笑)。でも,自分としてはここまで子どもばかりになるのは想定外だったんだよね。
Kazuhisa:
何割くらいなんですか?
森下氏:
8〜9割くらいじゃないかな。
Kazuhisa:
なぜ,プレイヤー層って急激に偏るんですかね。
子どもの数が多くなっちゃうと,逆に大人が入りづらくなるのは確かにあるかもしれないね。大人も子供もバランスよくが理想で,実際に子どもはしっかり取りたかったんだけど,まさかここまで子供ばかりになるとは。
でも,ある意味,すごくいいことかなとは思ってる。子どもをしっかり取れているということは,大きな副産物……と言うとちょっとアレだけど。
Kazuhisa:
おっしゃることは分かります。ガンホーのゲームで育ってきた子どもたち……それはもう,一つの財産で,タイトルとしては素晴らしいですね。
森下氏:
いま900万を超えて,もうすぐ1000万ダウンロードに行きそうだけど,ワールドワイドで見ても実は子どもが多いんだよね。
Kazuhisa:
予想外ということは,次の作品で揺り戻しがきたりしないんですか。次は子どもじゃないのにしようとか。
森下氏:
そういうことはないね。ちょっとモデルは変えなくちゃいけないかもしれないけど,ね。でも,子どもって大事だと思うよ。
Kazuhisa:
先日,Sky(Sky 星を紡ぐ子どもたち)のJenova Chen氏と話したんだけど,あれは7割が女性だそうで。「僕はとても予想外で,正直失敗したと思っている」と語ってて,次は(男女比を)同じくらいにしたいと言ってました。クリエイター的にこんなはずじゃなかったと,不満らしいですよ。
[インタビュー]Skyとそのコミュニティ運営について,Jenova Chenが語る―――コミュニティは家族です。良かれと思ったことがうまくいかない時でも、お互いが愛し合っているということは変わりません
3年前,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」ローンチ直後のタイミングに,創作について熱く語ってくれたゲームクリエイターJenova Chen氏が,久々に来日した。巨大なIPへと成長したSkyについて,彼は日々何を思っているのだろうか。
森下氏:
俺は言い方が悪いけど“大満足”。
Kazuhisa:
それは,彼とは違う意味でクリエイター的に,でしょう? 彼は自分で作りたいものを作ったので,アーティストとして作ったのに,いいねと言ってくれた人が全然違ったんですよね。
森下氏:
自分の作りたいものは作ったけど,そこはたぶん変わらないんじゃないかな。でも,子どもって狙って取れるもんじゃないし,だから正直,誰もアプローチしないと思うんだよ。
Kazuhisa:
難しいですからね。
森下氏:
子ども向けだからって,子どもっぽく作ると全然ダメで。すごく難しいから正攻法がないんだよね。
たまたまと言えばそうだし,自分の想定とは異なったけれど,子どもはしっかり取りたかったところで思った以上に取れちゃった。子どもばかりになっちゃったけどね。だから,大満足。まあ,もうちょっとバランスってあるでしょ,とは思うけどね(笑)。
Kazuhisa:
でも9割はすごいですよね……大事にしないと。
森下氏:
大事にしたほうがいいし,コンテンツとして次につなげていく大事な……うちにとってのIP的な資産だと思ってる。
Kazuhisa:
ちなみに平均は何歳くらいなんですか?
森下氏:
日本だと小学生くらいとかの10代かな。ピークタイムがすごくて,夕方(17時前後)なんだよね。
Kazuhisa:
あー,なるほど!
森下氏:
学校から帰ってきたり,塾とかから帰ってきたりで,晩御飯を食べるまでの時間が日本でのピークタイムだね。すごいでしょう。
Kazuhisa:
何ていうか,かわいい(笑)。
森下氏:
だから,夜遅い時間にはピークがない。ただ,サーバー自体はワールドワイドなので,マッチングしないことはないんだけど……この時間にピークタイムとか聞いたことないよって(笑)。
Kazuhisa:
確かに。
森下氏:
あと意外と面白いのが朝早い時間。
Kazuhisa:
学校へ行く前に早起きしてやるんだ。
森下氏:
土日もすごくて,アクティブがぐんと上がるんだけど,平日と土日の差だったり,夏・冬休みの上がり方だったりが,「どうした!?」ってくらいでね。
Kazuhisa:
そうか。子どもが多いってそういうことなんだ。
森下氏:
そう。いままでの経験が何も生きてこないからね(笑)。だいたいのゲームって21時からてっぺん(0時)までがピークタイムになるけど,そうじゃないのが面白い。
Kazuhisa:
早朝と夕方か。でも,それだけ子供が遊んでくれているというのは,今後が楽しみなところではありますね。というあたりで,お時間もきてしまいましたし締めましょうか。
森下氏の自由さで,さまざまな話に脱線しまくった今回の対談。いろいろと面白い話になっていたものの,「これはちょっと書けないなぁ」という内容が多くて残念というか,(主に執筆者が)困ってしまったというか……。
ともあれ,おそらくこれを読んでいる読者にとって気になるのは,言い方こそときどきで違っていたが,やはりこの10年の“停滞感”の話だろう。確かにこの10年は,細かな変化はあったとしても,それは既存の延長線上であり,オンラインゲームやスマートフォンほどに,ゲーム体験を変えたということはなかったように思う。そして,そうした変化がなければ,その世界がいつか先細っていくのは,これまでにもさまざまな場面で見られた光景である。
そんな中で,RO,パズドラと時代の変化に合わせて先駆けるように挑戦し,成功を収め,子供世代もしっかりつかんできたガンホーは,どのような次の一手を見せてくれるのか。そして,それがゲーム業界に漂う停滞感を払拭するキッカケやヒントになるのか。その手腕と今後の動きに注目したいところだ。
「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」公式サイト
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