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[CJ 2008#05]開発アウトソーシング先から,中国市場の水先案内人へ。Winking CEO 張 益嘉氏インタビュー
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印刷2008/07/17 12:53

インタビュー

[CJ 2008#05]開発アウトソーシング先から,中国市場の水先案内人へ。Winking CEO 張 益嘉氏インタビュー

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 例えば当サイトの記事で唯晶科技(Winking Entertainment)といえば,MMORPG「Fantastic Melody Online」を鋭意開発中のデベロッパとしての印象が強い。しかしながら同社の事業全体を眺めた場合,自主タイトルの制作はその一部にすぎない。Winkingは中国における代表的なアウトソーシング開発企業,つまりゲームのグラフィックスや特定部分の受注から,委託元と協議のうえで1本のゲームをまるまる作り上げるところまで,幅広く手掛ける会社なのだ。
 中国を舞台とした,優秀かつ(相対的に)安価な開発者の能力を生かすアウトソーシング開発会社の活躍は,コンシューマゲームやオンラインゲーム開発の舞台裏としてポピュラーな話題ではある。とはいえ,ふだん製品情報を中心に扱う当サイトでは,なかなか具体的に触れる機会がないのも事実だ。

 そこで,ChinaJoy 2008開幕の二日前に当たる7月15日にWinkingを訪問し,CEOの張 益嘉氏に会社の現在のスタンスと今後の展望,そしてゲーム業界で果たしていきたい役割について聞いてみた。話の性格上,なかなか具体例を挙げられないのが難点ではあるのだが,Winkingの立ち位置に応じたユニークな考えを,ある程度聞けたように思う。


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。「アジア地域で最大規模」を標榜するWinkingですが,まずはその意味するところ,つまり何で見たとき最大規模なのかを教えてください。

唯晶科技(Winking Entertainment) 執行長(CEO)張 益嘉氏
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張 益嘉氏:
 WinkingはPCオンラインゲームに特化した開発会社です。例えばコンシューマゲームのアウトソーシングであれば,トーセさんなど,ほかに大手の会社もありますが,PCオンラインゲームでの技術蓄積や実績から見た場合,「アジア地域で最大規模」と言っていいと思います。そして,中国マーケットに通じていることも,大きな特徴といえます。

4Gamer:
 Winkingの事業としては,ゲームの自主開発およびアウトソーシング受注という,二つの側面がありますよね。このうち,どちらを軸にしていきたいと考えていますか?

張 益嘉氏:
 ゲームを作る立場で見た場合,その二つにはそれほど大きな違いはないと考えています。それが受発注であれ,自分達の企画であれ,ゲーム開発者達にとって自分達の力が揮えることこそが重要です。

4Gamer:
 なるほど,そこは実のところそのとおりかもしれませんね。ではその開発者達をめぐる話題としてお聞きしたいのですが,Winkingは現在,400人近くもの人材を確保しており,しかも離職率は低いと聞きました。
 一方で中国における開発者の離職率は普通高く,1年で半分入れ替わるといったこともあると聞いています。実際のところWinkingの離職率はどの程度で,それを低く抑えられている秘訣は何なのかを,教えてください。

張 益嘉氏:
 Winkingの離職率は現在,5%未満となっています。もう少し高かったタイミングを見ても5〜10%といったところでしょうか。

4Gamer:
 それは確かに特筆すべき実績ですね。

張 益嘉氏:
 その秘訣の一つは,開発者達が思う存分に力を揮うための設備/環境整備です。それに加え,各人が自分の取り組みたいことに取り組むことをとおして意欲を伸ばすこと,大手ゲームパブリッシャからの依頼案件と運営実績を通じて,達成感を得られることが重要だと思っています。
 また,社内での技術学習も盛んです。2週に1度社内で技術情報交換/トレーニングのための講義を開いているほか,年に2回社内で技術カンファレンスを開催しています。

おしゃれにコーディネートされた休憩室と,テラス風の喫煙スペース。これらも,同社が誇る環境/設備の一環だ
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4Gamer:
 意欲的に動ける環境を,開発者達も望んでいると。では一つ前の論点に戻りたいのですが,請け負っているアウトソーシング案件の,プラットフォーム別の割合を教えてください。

張 益嘉氏:
 コンシューマゲーム各プラットフォームでの開発に対応できると自負していますが,コンシューマゲームを丸ごと1本を引き受けたことは,まだありません。なぜなら,コンシューマゲーム市場はまだ本格的にオンラインに対応していないからです。ただし,社内リソースの35〜40%がコンシューマゲームの案件に充てられています。これは主としてグラフィックスですね。

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4Gamer:
 では,案件を発注国別に分けるとどうなりますか?

張 益嘉氏:
 韓国/日本で50%以上,残りが中国および欧米ということになります。

4Gamer:
 そのうち,中国単独だとどのくらいになりますか?

張 益嘉氏:
 そこは申し訳ないのですが,お答えできません。受発注案件というのは性質上,関係者や競合他社がいるものですから。

4Gamer:
 いろいろ余計な推測をされてしまうと。分かりました。……ところで以前から気になっていたのですが,台湾に発祥を持ち,台湾と大陸中国にまたがるWinkingという会社は,大陸中国の政府から見た場合,中国企業なのでしょうか?

張 益嘉氏:
 台湾系の中国企業,ということになります。ただし,例えば日系の中国企業などという場合と違って,もっと密接な位置にいるものとお考えいただければと思います。

Winkingが開発し,世紀天成がこの4月からサービス中のMO横スクロールアクション「天関戦記」
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4Gamer:
 う,うーん,なかなか距離感の掴みづらいところですよね,そこは。これまでに手掛けた仕事の一部は,公式サイトでもある程度確認できますが,それ以外で過去にどんな実績を持つとか,どういった開発案件に明るいとかいった部分をお聞きできますか?

張 益嘉氏:
 そうですね……例えば,3Dゲーム開発のメジャーなエンジンである「Gamebryo」については,中国/台湾/香港/シンガポールで唯一の総代理販売及びテクニカルサポートを務めています。そしてもちろん,Gamebyoを使った開発には通じています。

4Gamer:
 おお,それは汎用性の高い情報かもしれません(笑)。では,例えば近々大きな参画作品が発表されるとか,そういったお話はありそうでしょうか?

張 益嘉氏:
 すべてが順調に運べば,そういった作品が年内には発表される予定です。いまはこれしか言えません。

4Gamer:
 ちなみにそれは,日/韓のいずれかですか? それとも中国/欧米のほうでしょうか。

張 益嘉氏:
 日/韓のいずれか,です。

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4Gamer:
 うーむ,何が出てくるのだろう? とりあえずその日を楽しみにします。では,具体的な話題が続いたので,最後に大枠のお話をお聞きしたいのですが,Winkingはゲーム界に何をもたらしたいと考えていますか?

張 益嘉氏:
 時間的な流れを追って話しましょう。アメリカ発祥のゲームが,日本に渡ってコンシューマゲームの流れが生み出され,それがぽつぽつと中国でもローカライズされるというのが,ここまで30年間の経緯でした。
 海賊版の問題がある以上,良質なタイトルが少なく,中国人ゲーマーからすると海外向けに作られたゲームをプレイするしかない。それは決して恵まれていたとはいえないと思います。中国人にミートしたタイトルがなかなか入ってこなかったわけですから。
 一方,海外の開発会社さんとしても,ゲームを作る際に中国マーケットを視野に入れて開発することには,マーケティング上および海賊版のリスクがあるので,思いきったことをするのが現実的ではなかったと思います。

4Gamer:
 そうですね。実際ここまでパッケージゲームビジネスは,あまり中国に根付かなかった……。もちろん,頑張っていたメーカーさんもいますが。

張 益嘉氏:
 そうです。その一方でアメリカ,日本と来たゲームの文化は,韓国および中国でオンラインゲームの隆盛を生み出します。海賊版の心配がないオンラインゲームを待って初めて,中国市場に向いたゲームがビジネスとして回る環境が整ったといえるでしょう。中国のゲーム市場は2011年に,200億元(約3200億〜3400億円)規模に達すると予測されています。

4Gamer:
 もともと韓国市場もそうした土壌だったといいますから,とくにオンラインゲームに関してはそのとおりかもしれません。

張 益嘉氏:
 そこで,我々が海外と中国との橋渡し役を務めたいと思っています。それは中国市場でサービスされる海外産ゲームの,PCオンラインゲーム化や中国向けアレンジ,ローカライズ/カルチャライズのお手伝いです。従来どおりの企画開発に加えて,これからはローカライズ/カルチャライズが,中国に適したゲームサービスのカギになると考えていますので。

4Gamer:
 そこに大きなビジネスチャンスが広がっていると。中国市場に詳しいWinkingならではのメリットを発揮できるというわけですね。本日はトレードショウ直前でお忙しいところお時間をいただき,ありがとうございました。

Winkingが現在開発中のカジュアルサッカーゲーム「ファイティングサッカー」のキャラクターとフィールド。エクストリームな内容にふさわしく,サッカーをするとは思えない服装も可能
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 Winkingが,中国ゲーム市場の拡大を前にしたとき,独立系デベロッパやパブリッシャへの転身を,すごろくの「上がり」だと考えていない点は興味深い。それは30年にわたってビッグビジネスとして回らなかった中国市場に対する独自の見解/アプローチなのかもしれないし,さかのぼっていうなら,そうしたアプローチこそがWinkingの現在の業態を作り出したのかもしれない。
 当サイトはゲームメディアであるから,もちろんWinking自身が自前の開発/パブリッシングに注力する可能性も想像しつつ質問してみたのだが,インタビューにも示したとおり張氏の回答は,とくに自前の開発を重視するものではなく,あくまで個々のタイトルのクオリティを重視するものであった。あるいはそこは,Winkingの“現在”を支える氏の,立場によるところが大きいのかもしれないが。

 アウトソーシング開発会社=受注会社から,中国向けローカライズ/カルチャライズもカバーする会社へ。Winkingが開発する個々の作品のみならず,いわば中国経済全体の発展(製造受託による外貨獲得から,自前の消費市場の発達へ)を反映した形をとるWinkingのビジネス展望も,なかなか興味深いものだと思う。
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