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[TGS 2007#31]ファンド・株式公開・株価。ゲーム会社の資金調達と投資を語る,ファイナンス&マーケットセッション
開始直前,主催側による概要説明の様子 |
やたらと長い題名だと思ったら,中身は3部構成。ごくおおざっぱに述べるなら,以下のような話題区分に沿って,最近のゲーム業界での傾向やケーススタディを,それぞれの分野に詳しい講師が解説していくというものだった。
■ベンチャーキャピタルと株式公開
■ファンドを中心とした資金調達
■ゲーム会社の収益と株価
株式公開後の構想こそが大切
みずほキャピタル IT投資部 シニアインベストメントマネジャー 横田秀和氏 |
初めに氏は,ベンチャー企業や中堅/中小企業に事業資金を供給し,株式公開後の売却でキャピタルゲインを手にするという,ベンチャーキャピタルの基本的な事業内容について述べ,2007年にIPOした187社中133社(71%)が,ベンチャーキャピタルの出資を受け入れていることを確認した。またその総投資額について,ITバブル期の4200億円が頂点で,バブルの崩壊で急減するも近年回復が進み,2006年度には4131億円まで戻ったと報告した。ただし,2007年度には新興市場の低迷に伴う上場審査の厳格化を受けて,減少に転ずる見込みだという。
■携帯型ゲーム機プラットフォームの開拓
■3G携帯電話の登場
■ブロードバンド接続の普及
というのも,スライドで示されたセプテーニ&ネットエイジア社の資料によれば,携帯電話でゲームをプレイしたことのある人のうち,47.4%が「もともとゲーム好き」だったのに対し,残る52.6%はそうでなく「携帯電話でのゲームが便利/面白そう」なので始めたと答えているからだ。ゲーマーでない人を新たにゲームに引き込む力が,携帯電話にはあることになる。
コンテンツファンドという資金調達方法
みずほ銀行 ビジネスソリューション部 逸見圭朗氏 |
氏はまず大枠として,企業の資金調達は内部留保によるものと外部金融によるものがあることを述べ,外部金融のうち,借り入れ,株式に続く第3の手段として,作品そのものの著作権をベースにした「プロジェクトファイナンス」があり,2005年あたりから普及しつつあるのだとした。
借り入れと株式がもっぱら企業の信用を基礎とし,対象をその企業の事業全般としているのに対して,プロジェクトファイナンスは「作品への投資/融資」である。利益の分配も,その作品のキャッシュフローの中から行われる。
さて,講師はこうした投資を実施に移すか否かを,判断する側にいる。そこで話題は,コンテンツ投資における判断基準に移る。詳しくは写真を参照してほしいが,以下の五つの基準で4段階で評価,それぞれ軽重を付けて数値化するという。
■企画評価(作品内容,対象マーケット,事業媒体)
■事業体評価(申し出企業の実績,製作委員会メンバー,並びにその各社業績,出資比率)
■作品評価(プリマーケティング状況,原作の人気)
■事業計画評価(キャッシュフロー,収益率)
■一定期間内のキャッシュフロー評価
予測困難なのが一定期間内のキャッシュフローで,逸見氏はその予測/ワーストケースの予測と実績をそれぞれ折れ線でプロットしたグラフをスライドで示した。納期が若干遅れたが,ほぼ予測どおりの推移を示したOVA,商品化が遅れて,キャッシュフロー的にまったく振るわなかった地上波アニメ,予測を大幅に超える人気を博した地上波アニメ……といった具合だ。
コンテンツ制作の実情に即した,より柔軟な資金調達について解説した氏だが,一方でプロジェクトファンドの意義を理解せず,例えばファンドを組んでいるにもかかわらず,作品の売り上げから最低保証額を直接確保したうえで資金を供給する金融機関があるといった問題も指摘した。端的に言って,これではファンドの意味がない。ゲーム関連企業の柔軟な資金調達が機能するためには,金融機関側がコンテンツビジネスとそのリスク/メリットをよく理解する必要がある,といったところだろうか。
企業の業績と市場の期待は必ずしも一致しない
JPモルガン証券 株式調査部 エグゼクティブディレクター シニアアナリスト 前田栄二氏 |
氏はまず1999年4月以降の,ゲーム関連企業(バンダイナムコホールディングス,任天堂,スクウェア・エニックス,カプコン,コナミの合成値)の合計時価総額推移と,2000年/2003年/2007年の企業別時価総額の順位を示し,株式市場におけるゲーム企業の存在感が増しており,時価総額ランキングでも上位に食い込みつつあることを指摘した。
もっとも,資料が対象とした範囲では,この一年ほどはそのほかの企業の合計時価総額も回復基調にあるとはいえ,何より任天堂の独走が目立つというのが率直な印象である。2007年8月末現在で,任天堂の時価総額はホンダ,武田,三井住友FGを抜き,7位にまで上昇した。
ただしこの説明に続いて示された,スクウェア・エニックスと任天堂における当期利益とPERの推移を比べたところでは,当期利益がかなりの高水準をマークしている時期だからといって,必ずしもその直前にPERが上がることはなかった。
スクウェア・エニックスの場合,PERが最高になったのはPlay Online構想が打ち上げられていた2000年初頭で,直後の時期に同社の決算は赤字となっている。一方任天堂はスーパーファミコン以降,新ハードの投入直前にPERが上がるというサイクルを繰り返している。ただし直近のWiiの場合,当期利益の伸びに対して直前のPERの上昇は小さく,これは「投資家がWiiの意義を見抜けなかった」結果だと,氏は説明した。
オンラインゲーム市場については,2005年の596億円,2006年の737億円から2007年は885億円まで伸びると予測,コンシューマゲーム市場の今後の伸びを左右する要素としても,インターネット接続の普及とダウンロードコンテンツの成長を大きく見ているようだ。
日本市場におけるコンシューマゲームとオンラインゲームの市場規模は,それぞれ1兆6323億円と737億円(どちらも2006年の数値),プロジェクトファンドについてもコンシューマゲームとアニメが先行例であって,PCゲーマーにはまだまだあまり馴染みのない話ではある。しかし,今後国産オンラインゲームが順調に伸びれば,金融/投資の世界との関わりはより密接になっていくはずだ。
映画産業などでしばしば指摘されている「お金を集めやすい作品構想」の持つ問題性や,投資回収予測の立てづらさなど,お金を出す側/出してもらう側で共有されるべき論点が,今後ますます増えていくのは間違いないだろう。
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