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Game Tools & Middleware Forum 2010で公開されたSCEの最新テクノロジーアップデート
内容としては,PlayStation 3での立体視ゲームの話題が中心だったが,それ以外にもPlayStation Move,そしてSCEが開発している新しいミドルウェアなどについて解説された。
まず,3D立体視関連では,以前掲載した「dot park」イベントでの内容とかぶる部分も多く,基本的な部分からの解説があったのだが,立体視の原理などについては割愛しつつ,その後の状況と開発者向けの内容を拾ってみよう。
立体視ブームの火付け役は,映画「Avatar」としつつも,ゲームは立体視に非常に向いていると豊氏は語る。単なる映像と比べて没入感が段違いに高いため,メガネが気にならなくなるのだそうだ。
PlayStation 3では,6月10日に3D BRAVIA の発売と同時に3タイトルがリリースされ,3D BRAVIAを持っていれば無料で遊ぶことができるようになった。また,本体は有料だが,Mortor Storm 2の体験版も公開されており,今後も立体視対応タイトルは続々登場してくる。PlayStation 3のBD-3D対応作業もかなり進んでいるという。
具体的に立体視の映像を出力するには,720Pの映像(1080Pは無理なので)の場合,2枚の絵がつながった1280×1470ドットの絵を作って出力する感じになる。720Pの絵が2枚縦につながった状態だ。上にあるほうが左目用で下にあるのが右目用の画像で,間は30ピクセル分のギャップを付けておく。これを規定のフォーマットで表示すれば,テレビの側で立体視表示してくれる。
問題は,レンダリングを2回繰り返すため,どうしてもパフォーマンスに影響が出てくることだ。これは基本フレームレートを落としたり,解像度を下げて,ハードウェアのスケーラで拡大するなどして対応するのがよいという。
どのようにして,よりよい立体視映像を作ればよいのか,これに関してソニーでは映画産業から伝わったノウハウを持っているとのこと。
立体感といっても方向は2種類あり,画面に対して「手前側に飛び出る」か,画面の「奥方向に広がる」かが選べる。ゲームだとたいていは見る側が調整できるものなのだが,豊氏は画面の手前に飛び出す系の演出は好ましくないとしていた。
どうやら,これは業界の全体的な傾向ではあるらしい。例えばNVIDIA 3D Visionのデフォルト設定では,画面の奥方向にだけ広がるようにしてあり,視差(立体感の大きさ)をいじるホイールはあっても,輻輳角をいじる機構は用意されていなかった。最近では行政側も目の安全のための指針として似たような項目も検討しているようだ。
これは,手前に飛び出す映像だと目の疲れが大きくなりがちなことが最大の原因である。また,Avatarより前からあった立体映画がなぜことごとく失敗したかの原因もそのあたりにあると見ているようだ。飛び出し系の映像は,非常にインパクトが強い半面,それだけに頼った演出ではすぐに飽きることなど,安易な演出の象徴のように語られていた。
個人的にはやや異論があるのだが(最初だけは飛び出る絵を見せないと興味を持ってもらえない),疲れない立体視でないと受け入れられないとするのはまったく同意できる内容だ。
次に,立体視以外のトピックとして挙げられたのが,画像を拡大したときに,新しい画像へと次々と切り換えていく技術だ。どこまでも滑らかに拡大できるイメージである。無限回廊で1000面ほどあるステージを一気に見せるために使っていたり,LocoRocoの公式ガイドブックで使われていたりする。
グラフィックスメモリに収まってしまえば,Mip-Map機能を使えばよいだけの話なのだが,話を聞くと,グラフィックスメモリに入りきらないようなデータもライブラリが管理してくれるというものらしい。さらに進んで,拡大画像ではなく別の画像に切り換えたり,ムービーやゲームプログラムを起動するような機能も付けて,オーサリングツールから簡単に制御できるという仕上がりになっていた。
すでにE3の記事などでお馴染みのMoveだが,展示会場のほうでは国内では初となるデモも実演された。講演では概要紹介に留まったが,後述の関連技術と組み合わせた展開や可能性などが示唆されていた。
Moveというと,ボールの付いたスティック状のコントローラだけが注目されがちだが,実際には普通にカメラも使っているので,Kinectと同様なこともいろいろやっていたりする。ヘッドトラッキング,顔認識,音声認識なども周辺技術として含まれているようだ。
例えば,野球ゲームでバットを振る場合に,適当に寝転がってコントローラを振っても「ちゃんとカメラで見ているのでダメです」とのこと。ソフトの作り方次第ではあるものの,ズルはできないシステムが基本になるようだ。
顔認識あたりは,ビデオカメラやデジカメでは当たり前になりつつあるものなので,ソニーが得意とする分野といえるだろう。現状で,性別や年齢,表情,口の動きなどを読み取れるという。いろいろノウハウをつぎ込んでいるようだが,さすがに精度は上げようがない部分もあり,女性を男性と判定してしまって怒られたりすることはあるようだ。
そのほか,画像認識系や画像処理系のフィルタ群もいろいろ用意されており,開発者に提供されるという。
展示会場での話によると,PlayStation Eyeの開発当時,だいたい10年前から特許を取っていたものがようやく形になったもののようで,発表時期だけ見れば,WiiやKinectに続いて最後発ではあるものの,いろいろな基礎技術は十分揃っているということのようだ。
PlayStation Moveにも使われるPlayStation Eyeにはマイクも搭載されている。マイクからの入力音声を認識してコマンドとして使ったりというのは,当然考えられている。すでに7月中にβ版の音声認識ライブラリが公開される予定とのことで,着々とPlayStationの新入力デバイス対応は進んでいる。利用者の音声登録をせずに使えるもので,日本語,英語,イタリア語,フランス語,スペイン語,ドイツ語の6か国語に対応とのこと。
そのほか,BD-ROMの空きに,いろんなコンテンツを詰め込むソリューションなどが示された。
片面25GBのBD-ROMにどれくらいのデータが詰め込まれているかについて,約180タイトル分を調べたグラフなども示されたのだが,これを見ると大半は半分も使っていないことがよく分かる。この空き容量を活用して,体験版や映像などのいろいろなコンテンツの配信を行うためのツールやブラウザ,オーサリングシステムが紹介された。ゲーム本体とは直接関係ないものの,なかなか面白い試みといえるだろう。
すでに以前からアナウンスされていた立体視やMove関連の紹介が多かったものの,開発者にとっては有用な情報も少なくなかったのではないだろうか。SCEから提供されるライブラリやツールは,なにかと難しいといわれるPlayStation 3でのゲーム開発で重要な位置を占めている。今年は,ゲームの質的な部分での転換期となりそうなので,これらの最新技術を活用したゲームが登場する日を楽しみに待ちたい。
- 関連タイトル:
PlayStation Move モーションコントローラー
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